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運命の時が迫る

内乱が始まり、5か月が経とうとしている。

王弟ラゼスさんと青将軍は、そのまま子爵邸や避暑地を拠点とし

活動している。


子爵は、既に捉えている。

盗賊達を嵌めた男もなんとか探し出し、王女の提案で子爵が支持した裏が取れた。

宰相宅は、王城に近すぎて警備が厳しく、まだ安否が取れない。


周囲の貴族達の中には、力になる者達も現れるし

王都の民衆は、王女のやり方に反感を持つ者たちが

こっそりと支援してくれている。

王都から、街医師や王城からは侍女が逃げてきて、こちらまで来てくれているし

街の料理人も来てくれている。

まるでこの国にもう1つ王国があるかのような感じだ。


逃げて来た侍女達の何人かは、第1王子や第2王子、もしくは第1王女の下にいた。

「はい。殿下方は、塔に幽閉されています」

「食事を運びました。殿下たちから言伝を預かっております」

彼女たちの話しで、第2王女の悪事ぶりとバッフェル子爵の宰相代理でおかしくなったことや

第2王女に魔術師達と何か力を貸している者がいるらしいと報告を受けた。


「王や宰相は?」

「はい。今は分かりませんが、医師が殿下方が捕まるまでは、

正しき処方で回復に向かっていました。今は、全く。

隣国の麻薬の花の成分を処方されていたことは確かです。

クルス王子は、調べるように私達や医師達にご命じになられました」

「逃げて来た頃は、王女が全てを仕切っており」

「私達ではないものが介護をすることになり、分からない状況です」


「そうか」

ラゼスさんが、静かに言葉を零す。

魔術師達が王女の味方になっているのは、きつい。

こちらには、魔術を使えるものはいない。


王都周辺では、王女リーシェを完全に信じている騎士達との小競り合いが続き

死者は出していないものの

傷者は毎回出している。

王都に入るには、少しづつ進むしかない。


俺は、いつも早く終わるように、死傷者がいないようにと

無事を祈っているのだが、通じているのかいないのか

よく分からない状況だ。

死者が出ないということは、祈りが通じているのだろうと

ラゼスさんは励ましてくれるので、俺は毎日続けている。


ただ祈りだけしか通用しないと思っていたところ、

傷者の手当を早く治るように祈りながらしていたら

翌日には治っているという奇跡が起こり、

それ以来、騎士達から「女神様」と呼ばれているらしい。

恥ずかしい話だ。


祈りというものが、どこまで出来るものなのか把握出来ていないので

何かが叶うと「これ、出来るのか」と、いちいち感動しているくらいだ。

ただ、その力が大きい程体への反動は半端ではない。

最初の頃は、加減が分からなくて

いきなり倒れて丸1日眠り続けたくらいだ。



そうして、5か月前、天使から言われた未来を思い出す。

天使が告げた未来は、半年で終結するというもの。

「もうすぐ半年になる。この戦いも・・ようやく終わる」

正直、今の状態は辛いものがある。

人が死ぬことだけは、なんとしてでも阻止してやる。




夕刻に差し掛かろうとしている時間帯に、

王都から早馬が3頭やって来て、交渉したいという者達がやって来た。

5か月、膠着状態で小競り合いが続いているので

早く決着をつけたい王女側が動いたのだ。


「王女リーシェ様より、手紙を預かってきた。即返事を頂きたい」


馬から降りた騎士は、青の隊の隊長に手渡す。

同じ騎士同士、何やら複雑な物を感じたようだが、隊長は受け取った手紙を将軍へ

将軍は、ラゼスへと手渡した。


ラゼスは、手紙を開け内容を読み絶句する。

「ラゼス公?」


「はは、あいつはまだ」

ラゼスは、呆れて将軍へ手紙を渡した。

「読んでも?」

「ああ、どうぞ」


ラゼス夫妻を差し出せば、全てを不問に処すという内容だ。


「バカな。今までの事をなかったことにするだと。バカげている。

こんな大事にしておいて、今更。

王女は、もしやラゼス公だけを望んでいるということでしょうか?」

ラゼスは、怒りを通り越して震えている。

実際、誰もがバカげた話だと思う。

王女ひとりの思惑で、国の皆が踊らされているのだ。


「女が考える悪事というものは、恐ろしいな。実の家族を巻き込んで

それでも片想いの相手を力づくで欲しがるものなのか?」

ラゼスが頭を左右に振りながら片手を顔で覆う。

将軍は、ラゼスから視線を暗くなりつつある空を仰いだ。

「女ばかりではないですよ。他国では、王の子供達が、1人の女性を巡って

内乱を起こした話しもあります。王位継承権で兄弟が争うこともあります」

「そうか。我が国だけではないか。気遣い、有難う。

それにしても、王女1人の力でなく、

魔術師が何故手を貸したのかが分からない。まだ他にもいるようだと聞いている」


ラゼスが、返事を待っている騎士達を持て成すように指示を出すと

執務室にしている部屋へ将軍と隊長を連れて入って行く。

「他の3将軍にも連絡を打診し、2将軍とは話がついています。

もし、この機会に王女を捉えるなら手を貸してくれると」

「ああ、だが。難関は、魔術師達だ。彼らをどうにか出来ないものか」



ラゼス達が会議をしている頃、マキトは子爵邸の中の1室を使わせてもらっていた。

王弟の仮にも妻ということもあり、テント生活を辞めさせられた。

「別にテント生活も良かったのに」

「いけません」

子爵邸の3人の侍女達が、そのままマキトの世話を続けている。

子爵が捉えられてからも、子爵邸は変わらず機能しているのは、働いている人達が

残って仕事を続けさせて欲しいと願ったからだ。


これから内乱戦争が起きるから逃げた方がいいと騎士達が話したが、

相変わらず元気だ。



「王家の親族なんですよ」

「そうです。やはり慎みを」

俺が女らしくないことをすれば、3人でお小言を言われる始末。


「はいはい、分かりました」

侍女達を部屋から出し、ようやく一人になり肩の力が抜けた。



ベッドに倒れるように入ると、いきなり周囲が真っ白に変わった。

「え?なんで?」


『拙いことになった。その知らせを と来たのじゃ』

相も変わらずの可愛らしい顔に、老人のような言葉の天使だった。


「ど、どういうことだ。ラゼスさんが、し、死ぬのか?」

俺はかなり動揺していた。

『いや、そういうことじゃなく。手違いで・・その、例のお前を好きだと言って・・』

ゴクリと俺が唾を飲みこむ。

『済まない、あの天使に逃げられた。もしかしたら、お前の所へ来るかもしれん』

平謝りする天使に、俺はラゼスさんのことでなかったことで、安堵する。


「はあ~、びっくりした。あ・・、でも何故その天使が俺のところへ?」

『今、調査中だ。何故それほどまでに執着しているのか、分からん』

「でも、俺は今こんな姿だぞ」

両手を広げて、女神姿を天使に促す。

『天使は元々性別はない。どちらかに決める場合は、相手がいる時だ。

だから、独り身の者は性別は関係ない。ただ、主にそのような格好を

させたのは、天使だからこそ女神には近づかないと思ったからじゃ』


天使は、上司である神様や女神様には弱い。


「・・・・そうなんだ」

天界の上下関係が今一分からないが、天使は上司に弱いようだ。


『こちらの世界の内乱もそろそろ終結に近づいている。もしかしたら、あの天使が

出てくるようなら、直ぐに知らせて欲しい』

「どうやって?」


『いつものように祈りで、見つけたと私達に知らせてくれ。後、お前自身が攫われると

物凄く厄介なことになるから、その天使の術を跳ね返す杖を渡す。これを翳して

はね返せとか守れとか、自分なりの防衛の言葉を言えば大丈夫』

「天使にしか効かないのか?」

『魔術とか人間の力以上の術を跳ね返せる』

「それだけ?」

『それだけじゃ。殺生は女神は出来ないからじゃ』

「戦うことも?」

『何?戦いたいのか?』


天使は驚いて、マキトを見つめる。


「それは・・。戦い方を知らないけど、何か力になれたらと思ったから」

変な事を言ったのかなと狼狽えていると、天使は苦笑した。

『なんと勇ましい女神だ。戦女神でないと、一般的には力はないな。主は癒しの女神。

癒しの女神には、ない能力だ。それは諦めろ』


天使は、何もない空間から杖というよりも現代で言うところのステッキ?

のような白い棒状で先端に赤いルビーのような宝石で

形はダイヤでよく見るブリリアンカットを縦長にした物だった。



「防御しか出来ない杖・・・」



その小さな呟きは、可愛らしい天使の眉間にしわを刻ませた。

『文句を言うなっ』







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