閑話 囚われの身 救出 (ユーシィ・ラゼス視点)
とにかく祈った。
無事に皆が、王城へたどり着けるように。
俺を助けに来てくれるように。
息苦しいけれど、俺は目が開けられなかった。
一体、俺はどうなってしまったんだ?
薬を飲まされていたのなら、薬が抜けるように。
俺には、祈ることしか出来ない。
呼吸も上手く出来ないし、体も金縛りにあったように動けなかった。
生暖かいものが胸をはい回っているが
それを避けることも出来ない。
誰か、助けて。
物凄い音がしても、俺は動けない。
目が回って、気持ち悪い。
俺の体の機能、頑張れ。
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ユーシィ・ラゼス視点。
ラゼスは、大きな装飾された白い扉を、侍女達の静止を振り切り、
思いきり蹴飛ばして開けた。
もちろん、扉は物凄い大きな音をさせて前へ倒れた。
侍女達が騒ぐ中、俺は自分の味方である将軍とその騎士達と乗り込んだ。
そして、
自分の妻役のマキトが、物凄くおぞましいことをされているのを目にした。
昨夜のことだ。マキトは俺に自分に祈りの力が期間限定で使えると告白し
マキトの祈りが通じて、ロッサを捕獲し、伝書鳥を捕獲し、
もちろん飛ばした騎士も捕まえた。
全貌が明らかになっていくので、こちらも計画を練った。
祈りの力を使い、フラフラになったマキトを侍女へ預け、俺達も就寝。
一夜明けたら、騎士達が大騒ぎしていて。
マキトは、誘拐されていた。
何故一緒にいなかったのか、悔やまれる。
一緒にいたはずの侍女達は、思考をあやふやにすると言われる花の成分を飲んだ様子で
その毒が抜けなくて、未だ医師のところだ。
一体誰が。
イライラしているところに、当時結婚を迫られ身動きが取れない宰相に頼まれて
当時から離縁出来る機会を伺って欲しいと頼まれてスパイ活動も兼ねている
バンハトが朝の靄の中こっそりとやって来た。
誘拐したのは、バンハト。
マキトを連れて行った先は
王都よりも手前の貴族がこぞって建てた避暑地として有名な場所。
貴族の屋敷群の1つで、子爵の親の名義の建物だと伝えられる。
「誘拐しなくとも・・」
ちょっと怒っている言い方をするが、バンハトはあちらの騎士も兼ねているので
仕方がないと息を吐く。
「命には別条ないですが、1度起きた時にあちらの侍女が花の成分を入れた水を
飲ませたので、意識は朦朧とされていると思います。言葉を発せないようにし
傀儡状態にいます」
「意志を無視してか」
「夫人は、美人ですからね。隠れて聞いていましたが、ロッサが子爵の気に留めるような
文章を送っているようです。かなり興味を持ち、王女とも密約し身請けをすると」
「何」
「そろそろ霧も晴れますので、これで」
バンハトは、そのまま子爵邸へ向かい、マキトの護衛をすると言い残し姿を消した。
そんな太陽が少し高くなったのを感じた時
俺にも何かの知らせが来たように、頭の中で救出の作戦が浮かんでくる。
どこが手薄だとか、屋敷の図面が浮かんでくる。
将軍に話をつけ、30人程騎士を借りて、数時間後バンハトの後を追った。
神の加護があるのか、避暑地には早々王弟や将軍、騎士達を阻むものがない。
ひたすら街道を抜けて、貴族の屋敷群を見渡す。
庭師に子爵邸を聞くと、早速その門を開けさせた。
「こ、これは、ラゼス公爵様」
出迎えた門番や執事は大わらわ。
ラゼスは執事の襟首を掴み。
「ここに俺の妻が来ているはずだ」
「な、なんのことだか」
戸惑い、私兵がバラバラと走ってくる中、先に着いていて
いつラゼスが来てもいいように準備をしていたバンハトが出迎えた。
「ラゼスさん、こっちだ」
執事の襟首から離し、執事がしりもちを付いている間に、バンハトの後を
ぞろぞろと追いかける。
バンハトが私兵の者達に、手を出さないよう合図を送ると皆沈黙。
作業をしていた者や侍女達が手を止め、騎士達の動向を見守った。
そうしてようやくたどり着いた部屋は、奥の庭にある屋敷。
警備をしている騎士は、バンハトが指示するとその場を譲った。
「ここになります」
冒頭に戻ると、
マキトの世話をしている侍女達は、大騒ぎを始め、扉の前に立つラゼスを
止めようとするが、それをバンハトや他の騎士に止められる。
「でも、夫人は今・・・」
気分が悪くなって気を失ったマキトを、侍女達はせっかく着たドレスを脱がせ
簡素な貴族用ナイトドレスに着替えさせて、ベッドで休ませている。
そんな女性の部屋に、男性の方々が入るのはと、戸惑っているわけだ。
しかもそのナイトドレスに問題があった。
扉が開けられると、ラゼスも将軍も騎士達もピタリと動きを止めた。
そこには、天蓋付きベッドで気を失っているマキトの上の乗っている男がいた。
近くまで歩いて行くと、薄い生地の服装(貴族が就寝時に利用するナイト用ドレス)を
着たマキトは気を失っている。
その横だ。男はベッドの端に足を掛けている。
これからマキトの上に乗りかかるつもりだったようだ。
俺の背後にいた、部屋へ入るのを止めようとした3人の侍女達も驚いている。
俺の顔を見た途端、硬直しているが。この男は、確かバッフェル子爵本人。
その彼の手に、皆が注目した。
マキトの服は胸元が大きく開いていて、その膨らみが8割がた見える。
「お前、触れていただろ」
つい思ったことを言ってしまって、隣りにいた将軍はピクリと肩を揺らし
背後では騎士達がどよどよと表現しようがない意味不明な言葉を吐いて
動揺している。
どうやら皆がその胸元に視線を送り、魅入っていたようだ。
俺が振り返ると、皆が視線を彷徨わせる。
将軍は、俺の肩に手を置き、目で抑えてくれと訴えてくる。
心が狭いか。と思い。
否、視線を子爵へ向けて剣を向けたところで、マキトがむくりと上半身を起こした。
「マキト」
嬉しさのあまり名を呼ぶと、同時に。
「てめえ、よくも」
という怒声と共に、子爵が蹴り倒された。
どこから足が?と目が追えば、ベッドで掛布団に隠されていたはずの足が太ももから
出ていた。
その足がまた白くて長くて・・綺麗で。
目、目の毒、否、目の保養に・・。
そのままマキトは、ベッドからゆっくりとした動作で降り、フラフラしながら
俺と目線を合わせてきた。
その瞳は、まだ虚ろだ。
気分が悪そうに、立ち上がったもののベッド脇に手を付く。
「大丈夫か」
声を掛けると
ガサ、ガサ・ゴトン。バタン。
「わわ」
駆け寄ろうとして、背後の騎士達が騒いで、何人かしゃがみこんだり、倒れた音を耳にする。
再度振り返ると、鼻から血が出てしまい慌てている者や、背中を向けている者。
赤らめて凝視している者。
「ラゼス公。奥方様に何か着る物を。まだ独身の者や経験のない者には刺激が強すぎます」
ラゼスは、え?という顔をさせて、将軍から助言としてマントを渡すように言われて
自分のマントを取り、ようやく合点がいった。
マキトが頭を横に振りながら、立ち上がると
ナイトドレスは、透けていて、その裸体をうっすらと見せている。
胸元のリボンが解かれ、大きく開けられているので、
8割型マスクメロンが2つ丸見え状態。
容姿もスタイルも女神のような美人女性を前にして、皆が動揺しているわけだ。
大きく息を吐いて、こちらへ視線を向けられると、
また儚げで美しい。
「ラゼス公」
将軍が必死にすがるような声で叫ぶので、俺は我に返り、マキトの手を掴み、
体を支えた。
「大丈夫か」
マキトの方は彷徨っていた視線が、徐々に回復し、
俺と視線が合うと安堵の溜息を漏らしながらニコっと笑顔を向けてくれる。
その姿にバタンとひとり俺の背後で倒れたようだ。
意識がはっきりしてきたマキトは、鬼のような形相?皆には可愛く映るが
とにかく怒っていて、俺の手をゆっくりと剥がすと、
蹴り落されてもしぶとくこっそりと逃げようと動いている男の背後まで
素早く歩き、留めの一発とばかりにマキトは、ひらりとその白くて長い脚を
惜しげもなく透けたドレスから覗かせて回し蹴りをした。
俺の背後から「おお~」とハートマークが付いたような騎士達の感動の合唱。
ガッ。
音も鈍く、痛そう。
まともに食らった。
「ぐああ」
断末魔の叫びか。
子爵は、今度こそ気を失った。
「ったく」
マキトの女性らしくない呟き。
だが、その振り返ったマキトの姿は・・・。
慌ててマントを掛けるが、遅かった。夫として出遅れた。
肌蹴かかっていた肩の布が腕にずり落ち、見事な2つのメロンを揺らし
足蹴りしたことで、腰辺りも捲れて白い見事な長い足も
騎士達に披露してしまったのだ。
「頼む。女性としての自覚を~」
俺の言葉に、マキトは一瞬キョトンとさせてから「あ」と我に返ったようだ。
慌てて、胸元を隠すように足の辺りも気を付けながら、マントを引っ被るが、
既に遅い。
眼福した後だ。
マキトの今の姿は、周囲の雰囲気を大いに変えた。
鼻血を出して鼻を抑える者、背後を向け精神統一している者、ぼおっと見惚れている者
倒れている者
味方の騎士達への衝撃は大きかった。
俺さえもその裸身に、しばらく見惚れてしまったくらいだ。
子爵は、捉えることが出来、救出も無事。
バンハトにも再会出来て、マキトは祈りが通じて良かったと俺に告げた。
「後は、王城だな」
ラシャ王子達と子爵の屋敷邸内で合流し
今日は、そこで一夜を過ごすことにした。
裸身の刺激過ぎた影響は出たものの、戦意喪失にはならなかった。
寧ろ、女神様がついていると、はりきる者達が増えた。
遠くで伝書鳥が飛んでいくので、この貴族の屋敷群の中に王女の味方がいるのだと知る。
「ユーシィ、呆けてないで。俺達は、俺達のやり方で王女の目を覚まさせよう」
マキトの言葉に俺は救われる。