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囚われの身  救出

目を覚ますと、驚いたことにテントの中ではなかった。

慌てて体を起こすと、天蓋付きのベッドの中。

一体、あの後、何が起きたんだ?


着ている物は、昨夜着ていた服装。

どうやら寝ているうちに、この部屋へ運ばれたようだ。


どこかの貴族の屋敷らしい。

そう思うのは、学校の教材で見た貴族の屋敷内装に似ているからだ。

頭がふらつくが

ベッドから降り、土地勘はないが、どんな所なのかを確認しようと装飾家具を通り過ぎ

装飾された豪華な窓に近づき、3Mはあるかなと思われるカーテンを引く。

意外に重いカーテンで、今の俺には体力的にきつく感じた。


「う」

既に太陽は高い。

影の出来方での方角と高さから考えると、10時位と言ったところか。

逃げられないか窓を開けようとするが、開けられない。

窓から外を再度見るが、地面までは遠い。

体調が悪く通常通りの走りとかは無理だ。

それに何故か頭が痛い。モヤモヤ感がするのは何故なんだ。


いろいろ考えようとすると、気分が悪くなる。

変だ。


ガチャリ。

扉が開く音がして、中へ入ってくる靴音で振り返った。

「おお、美しい。まさに女神だ。気分はどうですか?夫人」

大臣?貴族?と思わせる服装にマントを羽織った細身の男が近寄ってくる。

顔は、普通。どこにでもいる顔立ちだ。

「誰?」


男は近くまで来て、立ち止まり、俺の手首を持ち上げ、手の甲にキスを落とす。

その不快に背筋がゾゾゾゾ。

(気持ち悪い~、触るなあ~)

心の叫びを声に出したい。

男から手を奪い、カーテンで思わず甲を拭くと、男は笑う。

「ははは。無下にしないで下さい。この戦が終われば、貴女は私の妻になるのだから」


「はあ?」


何ですか?それ。誰が勝手に決めたんですか?


「貴女は、未亡人になる。私が身請けすることになっている。

私はこれほどの女性と婚姻出来ることは、嬉しいかぎりだ」

その視線は厭らしく、頭から顔、ゆっくりと胸へと落とされる。

やはり視線は、胸か。

気持ちは、男として分かるが、女の子の気持ちが非常に分かる。

こんな気持ち悪い視線は、気分悪いし

好意を持っていない相手だと、こんなに恐怖に感じるものなのか。

体調が悪くて、いつもの力が出ないが

こんな優男なら、殴り倒してやるところだ。


「ちょっと待て。主人が、ユーシィ・ラゼスがいつ死んだのですか?」

もう終わったというのか?

俺が寝ている間に。


男は皮肉な笑みを浮かべながら、じっと俺の顔を見つめる。

「まだ。しぶとく生きている。否、生きていたとしても王女が夫にするらしいから。

貴女は未亡人ではなく、離縁となるか。まあ、気にしなくても良い」

「気にする。あんた誰だよ」

一歩近づくので、一歩下がる。それを何度か繰り返しているので、

部屋の中をぐるぐる回っている。

「これは口が悪い。その美貌で勿体ない。

私は、この国の王になる男だ」

「何だって?」

「ロディスと呼んで欲しい」

「家名は?」

「それは楽しみに。何しろ、家名を聞けば家名で呼ぼうとするだろう?

私は名前を憶えて欲しいからね」


かなりの策士か。


「じゃあ、質問を変える。どうやって、俺をここへ連れてきた」

腰に手をあてて、威嚇してみると、男は苦笑。

「口が悪い。貴族ですから、なんとかしないとね。これでは困る。

それで、連れてきたことで、どうやってか。それは、私に味方がいるということだ。

貴女は、ここへ私の部下に運ばれた。それだけのこと」


男が両手を軽く叩くと、別の扉から侍女が3人、ドレスを持って入って来た。

「私の婚約者を着飾って欲しい」


婚約者だと?


「はい、旦那様」


「おい、ちょっと待て。聞き捨てならねえ」

「貴女には、作法が理解出来ないようだ。教育係が必要ですね」

侍女が部屋の中へ入って来たところで、男はそのまま部屋を退室した。


体力的に叶わない状況なので、軽く侍女は3人がかりで嫌がる俺を捕獲し、

貴族風呂というものがある部屋へ引っ張りこんだ。

陶器製の風呂にお湯が張ってあり、その前に立つと、着ているドレスを脱がされ、

あたふたしながらお風呂へ入れられてしまった。

「や、やめろ~」

侍女達もあの男の好みなのか、美人だ。

薄手のドレスを身に纏い、しっかりと手には洗う物らしい小さなタオルを持っていた。

「え~と」

こんな美人な女性達が俺を?

とりあえず、湯船にドボンと先回りして入った。

「行儀悪いですよ」

叱られオプション付きで。


旅をしている間は、体を濡れたタオルで拭くくらいだったから

湯船は本当に物凄く久しぶりだ。

よく考えると、半年ぶりだ。

ついその温かさにうっとりしてしまう。

村では、結局風呂作りは困難で、まだ計画段階だった。


木の汁で作ったという石鹸でタオルを泡だらけにして、

風呂の外で待っていた侍女2人ににっこりとほほ笑まれ

体中をくまなく洗われた。

「そこは」とか「う」とか声を出すと

その度に「我慢して下さい」と叱られた。


今までの汚れがすっかりと落とされて、本来の白い肌になった。

もちもちしている感じがする。

水分を拭くにしても、外で待機していた侍女に、かなりしっかりタオルで念入りに。

ぐったりして風呂場から出たところで、

先回りしていた侍女2人が、シルクの下着や煌びやかなドレスを着せさせる。

メロンがつかえたので、2人がかりで補正して。

何度か侍女達に嫉妬ありありな言葉を言われたけれど。

「う、羨まし過ぎます」

「ううっ、こんな胸になってみたいよ」


髪が結われ、仕上がった。


全身が写る鏡の前に立てば、スタイル抜群で、胸がメロンで

癒し系の顔。俺こそクラッときそうだ。

その胸に顔を埋めたいとか思うなあ。

ぎゅっとしたいとか。


3人の侍女達は、ほおと頬を染めた。


ああ、分かるよ。天使が言っていたから。

俺から見ても美人だよ。うっとりするよ。

なにしろ天使が作り上げた女神様だ。



だから、祈る。祈りの力を使わせてもらう。

俺の下にユーシィ・ラゼスを。

迎えに来てくれ、ユーシィ・ラゼス。





侍女が少し離れて、じっと俺を見ているので。

俺の味方になってもらおうかなと考え、にっこりと笑顔を向けた。

「あ、皆さんはこの屋敷に長いの?」

振り向いて、ゆっくりと3人の前に近づく。

「は、はい。3年程」

「私とこの子は、4年です」


「私の事は、何か聞いてる?」

「いえ、その大事な方だからと今朝早くに騎士が連れて来ました」

「騎士?知っている方?」

誘導尋問を掛けると、ひとりの彼女は俯いた。

「はい。この屋敷へ5年前から出入りしている旦那様の部下だとか。

ここ1年は見かけなかったのですが、今日久しぶりにいらしたようです」


「名前は知ってるか」


「バンハト様」


ええ~、バンハトさんは、スパイ?

俺は驚きを隠せない。

知っている名前で、一緒だからと疑ってはいけないよな?


「ちょっと待って、この屋敷の旦那様は、バッフェル子爵でしたよね?」

「はい」

カマをかけてみると、あっさりあの男の家名が分かった。



あの男が、バッフェル子爵。

バンハトさんと5年前からの付き合いだった。

いやいや、まだ俺の知っているバンハトさんとは限らないが

もしも俺の知っているバンハトさんだったら

ラゼスさん、悲しむよ。




それにしても、バンハトさんという騎士と俺はどこで会ったんだ?

記憶がない。

ロッサさんが、捕まった夜は昨日だ。

伝書鳥を飛ばしたから、テントへ戻ってくるように祈って

その後、俺はどうしたんだ?

そこから記憶がない。

考えると、痛い。頭が痛い。


俺は、耐えられなくなりその場にしゃがみこんだ。

「大丈夫ですか?」

「直ぐにお水をお持ちします」

侍女が1人体を支えてくれ、1人は水の手配、もう1人は椅子を用意してくれた。

大きな背もたれのある豪華な椅子へ座り、息を吐く。

「どうして、こんなに頭痛が」


侍女が持ってきた水を飲もうと、陶製のコップに手を触れるが

違和感を感じ、つき返した。

きっと神の加護の力が働いたのだろうと思う。

無味無臭と思われる水のような液体なのに、俺の目からは

黒い粉が水の中で浮かんでいる。

「あの・・」

「水を持ってきて。これは、毒が混入してる」

「え?そんな。旦那様は薬だと」


やっぱり。あの男、言う事を聞かない俺を薬でどうするつもりだ?


「飲めない」

キッと睨むと、侍女は涙目になり、自分で井戸から汲んでくると告げて

扉から出て行く。


「あの、毒って」

侍女が不思議そうに聞いてくる。

「貴女達も気を付けた方がいい。これは頭痛を引き起こす毒。

上手く考え事が出来なくなる」

「本当ですか?だから侍女長が最近調子が悪いって」

「な・・、に・・」


その話を聞こうにも、気分は悪くなるばかりで、俺はそのまま意識を失ったようだ。




しばらくして、気が付いた。目覚めようとするが、体が動かない。

金縛り状態が続いていて、目は覚めていて周囲の声が聞こえるのに

動けない。

だから、とにかく祈った。

無事に皆が、王城へたどり着けるように。

俺を助けに来てくれるように。

他力本願でごめん。



息苦しいけれど、まだ目が開けられなかった。

一体、俺はどうなってしまったんだ?

薬を飲まされていたのなら、薬が抜けるように。


俺には、祈ることしか出来ない。


息苦しいなあと感じていると、生暖かいものが胸をはい回っている。

目は開いているが、焦点がはっきりしない。

その嫌な気分になる生暖かいものを避けることも出来ない。


誰か、助けて。



物凄い音がしても、俺は動けない。

目が回って、気持ち悪い。

俺の体の機能、頑張れ。


大きな声が聞こえて、何か騒がしい。

そのまま静かにベッドで寝ている状態だった俺は、祈りの効果が表れたのか

徐々に体調が戻ってきた。ぼんやりとしてきた視界が明けてくると、

目の前には、子爵がいて、生暖かいものの正体が彼の手だと分かる。

その手は、自分の片方の胸を触れていて、それがまた不快。


大声で誰かが叫んだことで、その手は外されるが

体調が回復し、頭の中が徐々にスッキリしてくると怒りが増してくる。

俺の体に振れられたかと思うと、腹立たしい。


いきなり上半身を起こすと、頭がクラクラ。


「マキト」

ラゼスさんの懐かしい声が聞こえたが

それよりも目の前の男を自分から離したくて、

「てめえ、よくも」

声を張り上げたら、その勢いで足を振り上げることが出来、蹴飛ばせた。

子爵は、ベッドから転げ落ちたものの周囲を伺いながら扉へ少しづつ向かっている。



駆け寄ってくれたラゼスさんが、心配そうに俺の体を支えてくれる手に安堵したが、

とにかく子爵を逃がすわけにはいかない。

なりふり構わず、俺は自分の体調を元に戻すように願い

体が軽くなってきたところで、素早く子爵の逃げ道を失くし、

小学生時代の空手を思い出しながら、足を振り上げると回し蹴り一本。


「ぐああ」

変な声を挙げて、今度こそ気を失った。


決まったところで、こっそり両腕を振り上げて満足感のポーズをとり

「よっしゃ」

と、小さく吐き出す。

この時、メロンがかなり揺れたと後日騎士達で物議があったとか。



顔を上げると、周囲は意外にも大勢の人間がいたので驚いてしまった。

ベッド近くで呆けていたラゼスさんは、将軍が何か叫んだことで我に返ると

慌てて俺に走り寄りマントを広げて掛けてくれる。

「頼む、女性としての自覚を~」

なんとも情けない声の彼に、俺の方が自分の姿をようやく理解して

慌てて自分の体を隠した。


周囲の騎士達、どう見ても見たよな。

顔赤い奴とか鼻血出してる奴、倒れてる奴までいるじゃないかあ。

うわあ、ラゼスさんまで耳まで真っ赤だよ~。


誰だよ、俺にこんなスケスケネグリジェ着せた奴~。

胸元肌蹴すぎて、メロン丸見えじゃないか。

何故下着付けてないんだよ~。

足振り上げちゃったじゃないかあ。


ラゼスさんが、さあわが胸へ見たいなポーズ(両腕を広げている)を取っているから

そのまま体を隠させてもらいましたよ。


きっと外野には、夫の胸にすがる妻の図なんだろうけど。

とにかく全裸に近くて、恥ずかしいから、誰かまともな着替えをくれ。




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