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天使の思惑

今、目の前でラゼス、ラシャ王子、将軍や隊長達が話をしていたはずなのに。

辺りが暗くなったと思ったら、周囲の者達は時間が止まったように、動かなくなった。

そして、周囲には音も何もなくなり、真っ白になった。

上下左右どこを見ても、静かな真っ白な世界だ。


その世界にひとり、ぽつんと立たされている。



何故?




『久しぶりじゃの』


懐かしいとさえ思う声。

半年前、俺をこの世界へ女性化して落した奴、お年寄りのような話し方をする

可愛らしい天使が目の前に現れた。

思い出すと、俺の人生が狂ったことに対し段々と腹が立ってくる。

こいつのせいで、俺は女になっているんだ。

「お前、今まで何してた」


声まで怒気をはらんでしまう。

彼女は可愛らしい顔で、しぐさで、俺の怒気を下げてしまうように作る。

こちらの方が大変だったぞと話し始め

『もちろん、あのバカの説得じゃ。やっと納得させて結婚したよ。長かった。

天界は円満解決じゃ』

小さな体の腰に手をあて、鼻息荒くふんぞり返るしぐさをする。

それは、見た目は可愛いしぐさだ。

話し方が年寄でなければ。


『そして、ついに主を元の世界へ戻せる時が来た』

こちらの都合で申し訳ないと、ペコリと頭を下げられた。

「元の世界?」

『済まなかったのう。やっとお主を帰す段取りが出来た。良かったのう。

ところで、元の世界では、かなりイケメンを目指していたようじゃったが、

女性になったことで、女性の気持ちも理解出来たであろう?

イケメンもいいが、女性をどのようにゲットできるかのコツも分かったのじゃないか?

どうじゃったかな?その姿形は、お前さんの理想だが

何と言っても私が作った最高の傑作じゃ。

この世界の女神をイメージしてみたのじゃ』


「女神。この世界の女神は、この姿だったのか?」

『ああ、そうじゃ。主のその姿は前よりもバージョンアップしておる。

特に胸が。お主の希望でマスクメロンサイズじゃ。

スタイルも抜群で、これほどの美はないだろう?

まさしく天界の女神の姿のようじゃ。

前にも別の天使が、ちと拙い事をやらかして、迷惑をかけた人物に好きな姿を選ばせて

その姿にして、この世界へ送り込んだ。その時は、その者から女神の力をせがまれて

およそ1年、やることもないからと、この世界で女神活動を自発的にしていたな』

遠い目をする天使に、俺は呆れた。


そうか。100年前の女神伝説は、この天使達の仕業だったのか。

しかも天使が起こしたミスで、被害者がいたんだ。

女神だった人は、この世界のあまりに酷い事情に、自分がなんとかしたかったんだろうな。

俺は何も力がなかったけど。


『いやいや、癒しの効果はあったと思うぞ』

「見てたのか?」

『もちろんじゃ、この世界は私の管轄。世界の成り行きを静観するのが仕事。

主は、この世界に希望をもたらした。立派な功績じゃ』


では、元の姿にというところで、俺は後ずさった。

手を掲げようとした天使は、俺の不自然な行動に驚いた。

『どうしたのじゃ?』


「ま、待ってくれ。俺は、まだ戻れない。ユーシィを助けてからにしてくれないか。

まだ返事もしていないし、別れの挨拶も」

動揺する俺に、天使はわははと大笑い。

『何、気にすることは無い。あの者はあの世界での役目はもうすぐ終える。

主が気にすることはない』


役目はもうすぐ終える?

あの世界の未来を知っているか?

「どういうことだ?ユーシィは死ぬのか?」

『神が作りし世界だ。管轄している私には未来は分かる。

ただ、未来はその世界の人間次第で変わるものだ。

だからその男がどうなるのかは、はっきりはせぬ。ただ、今の時点では、

大きな戦に巻き込まれて瀕死になるのは

決まっておる。介護した者と一緒になるから安心せい』


それはここにいる自分ではない、お前は元の姿に戻って帰るから

彼には、別の女性が助けてくれるという話に、俺は泣けた。

俺ではない他の誰かに助けられ

俺ではない他の誰かとユーシィは結ばれることを悔しいと思っている。

男の癖に、バカな奴だと思われてもいいくらい。


初めは目に涙があふれてきてポロポロ、そのうち手の甲で拭っても流れて

声が漏れ出し

ワンワンと大泣きした。


元は男だから、彼を好きになることは、本来おかしいことだ。

ただ、自分は女性だった。

転生していると言ってくれて、女性だと言ってくれて

危険な時は助けてくれて・・。


『おいおい、すっかり乙女モードじゃな。お主、元の男の姿に戻れるのじゃぞ?

どうした?嬉しくないのか?』


嬉しいけど。

嬉しいはずなのに。


俺は土下座した。

俺は最期まで彼を助けたいと。

そうしたら、この世界でのマキトを消滅させて欲しいと。


『その男を助けてから、消えたいと言うのじゃな』

「ああ、そうだ。あんたのせいで俺はいろいろ大変だったんだ。俺にも猶予が合っても

いいだろ?」

変な天使の結婚話のお蔭で、俺は現代では味わえない生活を強いられた被害者だと

大声で叫ぶと、天使もそうだなあと納得顔になってきた。

もうひと押し。


『ちょっとここで待て。上司に聞いてくる』


天使が姿を消したことで

俺は気が抜けた。

疲れてその場に横になり寝入ってしまい

体を揺すられ起こされてようやく我に返った。

小さな手を見て、可愛らしい顔を見て、なんだか不思議な気分になった。

「ん?」

くりくり目の可愛らしい天使は、予想を裏切る残念なお年寄りのような話し方を始める。


『上司と相談した結果。願いは聞き届けられた。

なにしろ、こちらの不手際だ。多少大目に見るとのことじゃ。

お主には、女神の力を使えるようにした。

祈れば、大抵はその力は発揮される。

ただし、殺生は女神ゆえ出来ない。倒して気絶させるが限度じゃ。

一応、未来を教えると、こちらの戦いは半年後に終わることになっている。

未来というのは、常に変えることが出来る。

その者の考え、行動次第だ。

主がその男を救い、主の姿を消滅させることに天界は承諾した。

自分なりに考えて過し、

最後の時は祈りを奉げて消滅の意志を示せ。

期限は、今より8か月。これは、女神の力が使える期間であり、強制消滅も兼ねている』


「8か月?1年でなく?」


ブーブー、文句を言い始めると、可愛らしい天使の眉間にしわが寄った。


『あまり期間を長くすれば、元に戻る気が失せるぞ。微妙な期間じゃないか?』

よく考えてみろと。

「言われると、そうかな」


『それとも女性として、主、この世界に残るか?』



その選択には、一瞬迷いがあった。

この世界に残る。

それは、俺が女として生きる選択。


「俺、男で・・」


『生まれ変わって、再度出会うというのはどうじゃ?』

「生まれ変わる?」

『主は、気付いておらんか。すっかり乙女モードになって、恋してるようじゃ。

俺とか言って、男に拘るようなら、その男の部分の記憶を消すことで、

全てを変わらせてみるという選択じゃ』


俺は、何故迷っている。

男で生きて行きたい気持ちと、こちらの世界での女性として生きたい気持ちに。

俺は、どちらを選びたいんだ。



『ここで迷うとはの。人間の感情の不可思議さかの・・。

8か月後、どちらの選択をするか再度聞こうかの。時間じゃ』




天使の最後の言葉で、周囲は白い世界が崩れ、時間が止まっていた世界は

鳥のさえずりと共に、動き出した。


俺の意志は、神に尊重されたのか。

8か月後、男としての決断の時。





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