王都へ
次の日、男同士で話があるとかで、ラシャ王子とラゼスは2人で話しながら歩きだした。
後方に護衛の騎士3人、さらに後方には5人と侍女2人(お茶等担当)の行列で
女神の森へと入って行った。
王子が女神の森へ行きたいという希望を兼ねて。
俺は宿舎で、明日の朝出立するラシャ王子に同行させてもらうために
準備を始めている。
着替えに出来そうな衣類は、この半年で少しづつ増えていた。
普段着や下着は、村の人からの頂きもの。
ドレスは、なんとか汚れを落としたラゼスさんから贈られたドレスと
半年前の第1王女からの贈り物のドレスが1着。
後は、料理をしたいこともあり、調味料も持って行く。
フライパンに包丁に鍋は、
ラゼスさんに小ぶりで
新しい物を村の鍛冶屋で買ってもらった。
この半年で、ガスや電気ではなく、
蒔きや炭を燃料にしている窯での料理の腕があがった。
新しいフライパンは特に嬉しい。
ラゼスさんの持ち物は、剣と王城へ入る為の正装。
出立の時は、騎士の服装で馬に乗るとか。
あ、俺。馬は乗れないぞ。
と、思っていたら、手伝いに来てくれている隣国のラシャ王子から
頼まれてきている年配の侍女さんがさり気なく
「馬に乗れないのは、私達侍女も同じです。私達女性の馬車へ乗ってくだされば宜しいですよ」
と。
今回、馬車は3両。(馬車の単位 両か輛だそうです)
3両目に侍女が6人乗りに5人で使用しているので、同乗出来るそうだ。
「今回は、往復1か月を見込んでのことで、なるべく簡素で移動したいとか。
あまり人数がおりませんので、自分の事は自分でが暗黙のルールになります」
「そうなんですか」
「荷物はこれだけでよろしいのですか?」
あまりに持って行く物が少ないので、5日間分大丈夫なのかと心配されてしまった。
「他に何か持って行くのに、必要な物を教えて頂けないですか?」
旅は初めてだと伝えると、心得ているのか、あれこれ女性の嗜みグッズを教えられた。
「奥方様は、その・・・化粧というものをされないようにお見受けしますが」
「ははは、その通りです」
「・・・・。この村では、あまりその類は売って無い様子でしたわね。
王都へ着いたら直ぐにラゼス公にお願いされると良いでしょう」
ラゼス公。
公爵。
それがラゼスさんの爵位だと認識したのは、侍女があれこれ王都の話が出始めた時だ。
王の弟だから、爵位はあるだろうなと思っていたが、
王の一族だと改めて思い知る。
ラゼス家は、王家族以外の一族が名乗る家名。
成人を境に、エリクシアルは名乗れなくなり、王の一族が使用出来る名を頂き
それが王の一族の証になる。
警備隊の皆は、家名を知っているから既に承知していたことになる。
親しく「さん」付けにしていたのは、きっと気さくなラゼスさんが初めに約束させた
としか思えない。
侍女に自分が平民で、王族や王都について何も知らないと話を振ると、
凄く感動され平民でも貴族との婚姻が出来、しかも正妻だという事実に涙を浮かべていた。
「あの」
「貴女は幸せですね。私達のような下の者であれば、誰もが夢を見てしまうこと。
実現出来たこと、他の侍女達も感激するでしょう。応援しております、ラゼス夫人」
涙ながらに語られ、ある意味驚かされた。
この世界にも身分制度の壁や正妻に出来ず、側室になっている貴族の話や
別の国の王族の話まで聞かされてしまった。
「この国について、私がお聞きしている話ですが。現王は正室第1子。
ラゼス公は、現王が22歳の時前王が側室に出来たお子。
王位継承権は、公が18歳の成人の日に正式に辞退し、爵位は公爵で落ち着いたものの
王の臣下として動くことになっているとか」
隣国の侍女長なのに、かなり詳しく解説してくれるので、
どこの情報なのかを尋ねてみると
「それが、王国間の侍女同士は、滞在している間、控えの間で寛ぐ機会があります。
長く滞在することがあれば、話しもいろいろ出来ますので、
そういう機会に情報交換として
国が傾くような事以外の悩みを話すことがあるからですわ」
女ばかり集まればだな。
俺は、目の前の侍女長がお茶しながら他の侍女達と談話(愚痴かもしれない)する絵図を
想像してしまった。
俺が今話した話も、平民が公爵夫人に昇格とか玉の輿だのと、話しが回るのかと思うと
言ったことを後悔しつつあった。
お昼になり、警備隊の皆にはシチューとパン、干した肉を柔らかくして煮物にしたものを
食卓テーブルへ並べ、一か月王都へ行く話しをすると
既にラゼスさんから話しは通じていた。
「やはりなあ」
「穏やかに話しが済むことを祈っているよ」
「有難うございます」
俺は、しばらく会えないことで寂しさを感じてしまう。
「はあ、村で唯一の癒してくれる女性がいなくなるのは、寂しいなあ」
「そうそう。村の女神さまだものな」
ロッサとベルダが大げさに手振り身振りで表現するので、その場は明るくなった。
俺の方は、この村へ戻ることの決意を新たにする。
俺には、絶対に社交界とか無理だから。
辺境の地、ラシエ村をしばらく留守にすることで、1か月程警備隊の宿舎のあれこれを
引き受けてくれると言う女性にお願いした。
その夜は、何かと興奮しているようで眠れなかった。
中でもこの村から出るということ。
王都へ行くということ。
5日間の旅。
いろいろな事があると分かっているが、わくわくしていることもある。
考え過ぎて、ますます目が冴えてしまった。
隣りの部屋で、夜遅くゴソゴソ何かをしているラゼスさんの様子も気になり、
今後の事も2人きりになれる今の内に話をしようと部屋をノックしてみた。
コンコン。
「誰だ?」
「俺です」
しばらく間があり
「どうぞ」
と、ようやく返事を貰ったところで、ドアを開ける。
俺が不安そうに見上げた事で、彼も何かに気付いたのか
部屋へ招き入れると、少し前に作られた温かいお茶を木のコップへ移して渡してくれる。
簡易の椅子を勧められて、腰かけた。
「キッチンへ行っていたのですか?」
「ああ、いろいろ考えることもあった。この部屋もしばらく空くので、その整理も兼ねてな」
「まだ・」
「いや、もう終わった。そろそろ寝るとするよ」
1日ラシャ王子と話し合い、女神の森へも同行し、かなり疲れているはず。
「俺、考えも無しにすみません。部屋へ戻ります」
コップを近くの机に置くと、慌てて立ち上がった。
「待て。もし時間があるなら、少し話をしていかないか」
彼も今後の事が気になっていて、マキトと再度きちんと話し合うつもりでいたことを
打ち明けてくれて、
2人で気になっている事や今後の打ち合わせを、夜遅くまで話し込んだ。
そのまま眠り込んでしまい、慌ててそれぞれの支度にかかるという慌ただしさになり
俺的には反省。
朝食を採り、村長宅へ行くと、既に支度が済んで待っていたラシャ王子に迎えられ、
直ぐに出立となる。
ラシャ王子一行は、王都へ向かった。
爵位については、別の方の解説を参照。
参考にしているのは、イギリスです。
王の一族(弟など)に与えられたのが「公爵」
地方の有力者に与えられたのが、「侯爵」
家臣に与えたのが、「伯爵」
上級貴族の代官が「子爵」
地方の名家が、「男爵」