隣国の使者
王族達が帰還して半年経った。
ラゼスとマキトの夫婦の件は、そのまま続けている状態だ。
村人達も警備隊の仲間もすっかり夫婦として認識している。
今では誰もがマキトを夫人と呼ぶ。
穏やかな日常、豊ではないが、それなりの生活を送っていた。
その日、詰所には隣国との国境にある国境警備隊から伝書鳥が1羽飛んできた。
この世界の一番速いと言われる賢い鳥で、見た目はつばめと鷹が合わさったような姿。
その鳥の足に小さな筒が付いていて、その中に手紙が入るという
どこかで聞いたことのある伝達方法だ。
「なんて?」
その手紙を広げたバンハトは、皆の視線に促され、早速手紙を読み始めた。
「隣国バーシャランの第1王子の部隊50人が国境を越えたと。内容は、王城へ向かうことと
わざわざ回り道で、この辺境の村へも来るとのこと。
第2王女の婚姻にも関わる話があると」
「なんだろう?」
全員が顔を見合わせる中、ラゼスは肩を落とした。
「俺のことなんだろうな」
村長宅へも皆で話し合いをし、敷地内の施設を利用することや
食事の事も頼んでおいた。
「王族が来たような感じになりますね」
「そうだな。王族には違いないな。人数は50人程。はっきりと人数が確認は出来ていないが、
この人数で知らせがきている」
「分かりました。国境からはどのくらいになりそうですか?」
「3日はかかるだろう」
「そうしましたら、それまでに準備ですな」
リーシェ関連での話とは、叔父である自分しかないと思い込んでいた。
山を越え国境から3日程掛かって、小規模の軍隊が到着したのは
夕刻だった。
一番最初に見つけた村人が詰所へ走ってきたことで、伝えられた。
「隣国の旗で、軍隊が攻めてきた」
「落ち着け。友好国だ。大丈夫だ」
落ち着きのない村人を宥め帰したところで、皆が顔を見合わせ頷く。
「いよいよか」
「平穏で過ごしたいな」
その後十分して、隣国の騎士が1人早馬でやって来た。
その騎士が言うところは、2泊泊まること、女神の森へ行きたいこと、
こちらの王女の願いを聞き届けたいのである女性を探しに来たこと。
「女性?」
5人が首をそれぞれ傾げたところ、隣国の騎士は王子からの話しをする。
「実は、こちらへ訪問することになった理由なのですが。こちらの第2王女との婚姻の話があり
殿下へ条件を出されたのです。美しいと評判の王女でしたので、殿下は願いを叶えたいと」
それが女性?
「こちらの村に、マキトという女性が住んでいるとか。その女性を侍女に連れて行ってくれるなら
婚姻を承知するという」
騎士の口から言葉が出された途端、ラゼスの顔は強張った。
「何、そんな条件をリーシェが?」
「はい。後は殿下からお話しがあります」
騎士は物腰柔らかな態度で、警備隊である皆に騎士の礼をしたところで
ラゼスが、宿泊先になる村長宅の敷地内の施設へ案内することになった。