表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/30

どちらで生きるか

「生まれ変わったということか?」


ラゼスの言葉に、俺はドキッとした。

そうなんだ。

ちょっとモヤモヤしているのは、別の世界では男。

体も心も男。


この世界では、体は女性。

心は、別の世界の男のもの。


「それを転生と言うのだろう?」

「転生」

「男だった記憶が無ければ、最初から女性として生きることが出来たとは

思わないか?」

「女性」


言われて気が付いたのは、今体は女性体だということ。

胸はあるし、男ならではのものもない。

完全に女性体。

心は男性というだけで。

もしかしたら、男同士という展開かと思ったが、そういうことではない。

体は女なのだから。

女だと認めたら、女なんだろう。



「自分が今は女性だと認めるのを怖がっているように見える」

「そ、そうか。確かに」

元々男なんだから。

女性としての自分を受け入れ出来ていないのかも。


「だ、だってさ。俺、自分から女になりたいなんて、一言も言ってなくて」

つい声を荒げてしまい、目から涙が零れてくる。

この世界へ来て初めて俺は、自分自身について考え、泣いている。

今まで毎日が忙しくて、疲れて眠ってしまうから

ここまで考えることがなかった。


悔しいと思ってた。

努力してイケメン目指して、頑張ってきたことが全て無駄になった。

自分を否定されたんだと思うと、凄く悔しい。


涙は後から後から零れて、指で拭いきれなくなった。


温かい手が自分の手に被さり、引き寄せられて彼の胸で泣く。

本当はそれすらも嫌だ。

こんな女々しい自分が嫌だ。



俺がこれだけ言っているのに、目の前の男はびくともしないし

引くこともしない。

「俺、元は男だったんだ」

「ああ」

「分かってるのか?」

「今、聞いた」

「・・・・」


それでも背に腕を回しているのは、どうしてだ?


「今のマキトが、気に入っているからかな」

「今の?」

「そう。今は女の子だろう?」

一瞬、何を言われたのか考えて、自分自身を見る。


「た、確かに女だ」

「男じゃないだろ?」

「あ、ああ」

「この世界では、女の子。それでいいと思うが、どうかな」


随分出来た野郎だなと思いつつ、顔が熱く感じる。

女として生きるしかないのか、俺。


「俺」

言いかけてン涙と嗚咽で上手く言葉が見つからない。

「ずっと言いたくても言える機会がなかったんだな。よく我慢してたな。

聞くこともしてやれず、済まない」

「あ、・・・・ぐすっ」

こんな理解力のある男がいるのか?

俺を受け入れられるなんて。


「このまま妻でいて欲しいと思うのだが、どうだろう?

考えてくれないか?君がいなくなったら、妻に逃げられた烙印とか

甲斐性ナシとか言われそうなんだ。助けてくれないかな」


耳に心地よい声が聞こえ、その内容にくくくっと笑みが零れる。

「分かった。ラゼスさんが良いと言うなら、このまま」

俺が了承すると、彼は一層強く抱きしめてくる。



「妻なら言って欲しい言葉がある」

「何?」

「貴方とかユーシィとか」

胸に顔を埋めているので、彼がどんな顔でそのセリフを言っているのか分からないが

きっと耳が赤いはず。

「呼び名のことか?」

「そうそう。その方が嬉しいかな」


俺はふと考える。

このまま天使が俺を回収しに来なかったら、この世界で女性として

生きることになる。

その時に支えてくれる存在があると、俺はこの地で立っていられるだろうと。


「はは。本当に夫婦だな。は~、いくぞ。・・・・あ・な・た」


してやったりのつもりで言ったのだが、俺を抱きしめたまま体が揺れて

「うわ・・」

「え?」

ラゼスは後方、俺は前へつんのめり、大きな音をさせて椅子が倒れ

床とぶつかって、しばらく2人で仲良く気を失ったのだった。






数時間後、目を覚ました時、ラゼスは背中強打、後頭部にたんこぶが出来ていて

俺は彼の胸に強く鼻をぶつけたので赤くなっていた。

なんだよ、このオチは。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ