選択の時、決心の時
あれから王女は騎士達に連れられ、王子達と村長宅へ戻って行った。
俺も王に挨拶をすることになっていた為
王子付きの侍女が2人、ラミナとメイアがまた手伝いに来てくれた。
昨日のドレスは、川沿いの倉庫へ行ったものだから汚れが酷く。
第1王女が察していたようで、侍女へ渡してくれていた彼女のドレスを着ることになった。
「これです」
と、ラミナが箱を手渡してくれ、中身がピンク系のドレスで驚かされた。
俺にピンク?
早速ドレスを着せるに辺り
「やはり胸がつかえますわね」
忌々しげにメイアは、ドレスにメロンが入りきらないことを怒っている。
脇を少し鋏で切ると、リボンと装飾品を縫い付けている。
どうにか収まると、出来上がりに2人が満足していた。
「いい仕事をしたって感じ」
「そうそう」
3人で笑った。
支度が終わると、礼装に着替えていた警備隊の面々と一緒に村長宅へ馬で向かった。
もちろん王都へ帰る侍女2人も乗せてもらっている。
「我々はそのまま領主のいる街まで見送りに着いて行きます」
「夫人は、村長宅からラゼスさんと宿舎へ戻ってください」
ラゼスさんは、一緒に行かないのかな?
そんな事を思っていると、当のラゼスがいないことに気付く。
頭を左右に動かしたことで、誰を探しているのか一目瞭然。
一緒に騎乗してくれているターラントが気付き
「ラゼスさんなら、先に行ってます」
「あ、そうなんだ」
「彼もいろいろ事情があるそうで。深くは知りませんが、大変なようですね」
少し事情を話してくれて、マキトは頷く。
「そう」
王の弟なんだ。
もしかしたら、戻るように説得されているのかもしれない。
直ぐに到着した村長宅の敷地内では、たくさんの馬、王族の馬車が3両が
既に準備は万全。
後は王族の方々が馬車に乗るだけになって待機中。
マキトが到着すると、丁度村長宅から王族の方々が歩いてくるところ。
「マキト」
ラゼスが手を振る。
その彼は、王らしき人物と談笑しながら。
王の向こう側には王子が2人。
第1王女のアリシャが、マキトに気付いてラゼスの隣へ並ぼうとするところを
呼び止められた。
「夫人」
「王女」
「昨夜は申し訳ないことをしました」
彼女は相当反省したのか、頭を下げてきた。
王女なのに、この低姿勢。
俺は驚いて、頭を振る。
「いえ。分かって頂いて感謝します。この素敵なドレスも有難うございます」
俺が低姿勢で、ドレスの端を持ってお辞儀をする。
「寛大で頭が下がります。有難う。お詫びですが、王城へいらした時にでも」
歓迎するという彼女のセリフに頷いた。
「有難うございます」
「私の考えなのですが。お兄様と一緒に王都へ戻って頂いて、
私の友人としてお付き合いしたいと思っているの」
「有り難きお言葉。そのことについては私の一存では」
「そうね。分かっているけど。そうなったら、私は嬉しいわ」
彼女とほほ笑み合うと、王もラゼスも驚いている。
「仲良くなったのだな」
威厳ある低く響くような声。
王様って、迫力あるなあ。
そんな感想を抱くと、王はラゼスを促し俺に近づいてきた。
「そなたがマキトか。弟から話しは聞いておる。私の娘が申し訳ないことをした。
許してはくれないだろうか」
「王女アリシャ様とは、友人です。ご心配には及びません」
お辞儀をすると、彼は頷き、ラゼスとも視線を交わす。
「有難う。感謝する。ところで、夫人。ユーシィと共に王都へ来ないか」
「王都ですか?」
チラッと、視線をラゼスへ移すと、ラゼスはアイコンタクトに気付き
「陛下。私はもうしばらくこちらにいます。リーシェの婚姻が決まったら
お呼び頂けませんか?」
まだ諦めず、略奪宣言をした王女とは揉めることが分かっている。
回避するには、離れていた方がいい。
「はあ・・。そうだったな。全く成長出来ぬ娘だ。困ったものだ」
王が愚痴を吐いたことで、アリシャは苦笑した。
「お父様。リーシェの嫁ぎ先を決めないと」
「そうだな」
手短に話、護衛の騎士達が日程を伝えたところで出発となった。
「王都でいつでも待っている」
「それでは」
先頭の騎士の号令の下、馬車も馬も動き出した。
その後ろを警備隊の4人が警護していく。
手を振る人には手を振りかえして、見えなくなるまでその場に立ち尽くした。
一緒に見送っていた村の人達もそれぞれ家や持ち場へ戻り始めると
マキトもラゼスに促され、宿舎へと戻った。
キッチンへたどり着き、昼はどうしようかと考えながら、
しばらく野菜を見つめていると
王都のお菓子を持って部屋へ1度戻っていたラゼスが現れた。
「兄から頂いた。王都のお菓子を食べてみないか?」
「へえ、お菓子」
お茶を用意して、食堂のテーブルへ準備して席についた。
お皿に乗せていたラゼスから1つ奪うと、口へ放り込む。
「う、甘い。砂糖入れ過ぎで美味しくない」
「そうか?これが普通だぞ?まあ、確かに甘いかな」
「これ1個で糖分がどれだけあるのやら」
たわいない話をしているが、頭の中では自分の身の上の話を話すべきか迷っていた。
「どうした?」
気遣ってくれる彼の顔を見て、男らしく真向勝負だと決意した。
「聞いてくれないか?俺の話」
真剣に言ったつもりだ。
それに対し、ラゼスも1度驚いた顔をさせたが、直ぐに気を引き締めたようだ。
「君の事情か?」
「そうだ」
「なら、私もきちんと最初から話そう」
ゴクンと喉を鳴らし。
マキトは、言葉を選びつつ自分の今までのいきさつを話し始める。
「俺は、この世界ではない別の世界から来たんだ。それも理不尽な理由で」