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略奪宣言

昨日は流されてしまったが、男なら普通はそうなるよな。

据え膳だし、男ならフラっとくるよな

俺だって、男なら間違いなく。

理想なマスクメロンな女性に、誘われたとか思うようなシチュエーションだった。


女性側からは、俺ってどうなんだろ。


自分で自分を自答し、正当化しようと頭が働く。


そもそもこの世界の貞操観念は、どうなってるかな。

俺の行動は、間違っているのか誰かに聞いてもらわないと

一歩間違えたら娼婦と同じに見られるのか?

誰とでもと思われたら、困るな。

誰かに相談してみるか。


頭の中で、女性脳と男性脳が双方の理性と良心について戦っている。

モンモンと悩んだところで、気分を切り替えて食堂を掃除する。





朝食の後片付けが済み、皆が出す汚れ物の衣類を集め、

洗濯を始めようと井戸の脇に籠を置き、手桶に手を掛けた。


そこへサクサク、ザッザッ。

詰所から宿舎へと続く道の方角から

何人かの足音が聞こえてくる。


いつも通りの恰好をしていたマキトは、自分がラゼス夫人役をしていることを

すっかり失念していた。

騎士の姿を目にし、その背後に煌びやかなドレス姿の女性、両脇には侍女、

さらにその後ろを4人の騎士が着いてきたのを確認した。




「おいそこの者。ラゼス夫人を知らぬか」


先頭を歩いていた騎士が自分に声を掛けてきたことで、

一瞬誰の事かと悩み、「あっ」と声を出して自分の事だと気付く。

「お、じゃない。私ですが」


声を掛けた騎士は、癒し系美人な村娘が宿舎を手伝いしているとでも

思って声を掛けたつもりだった。

返答が返ってくる間があったこともあり、視線はどうしても胸にと注がれる。

先頭の騎士ばかりでなく、後方の騎士達も顔を上げた美人な少女に

見惚れている者がいたはずだ。



ユーシィ・ラゼスという王弟を夫にしている身分ある奥方が、村娘と同じ格好をして

洗濯をしようとしている事で、騎士を始めその場の全員が絶句した。

「その洗濯の中身は、どう見ても何人かの騎士の物のように思いますが」

侍女が量の多い洗濯物を見て呟くと

「そうですよ」

と、同意する。


「そ、そなた。本当にユーシィお兄様の奥方なの?ラゼス家の家名を地に落とすつもりですか」

と、激しく叱責する声が辺りに響く。


普通の女性なら、恥ずかしくて逃げるか、困って泣いてしまうかもしれない。

だが、外見は美人で癒し系かもしれないが、中身は18歳の男。

怯むことなく、役になり切った。


「この村は辺境なんですから、自分の事は自分でしなくてはいけない状況になります。

こんな田舎の村で、ひとりだけ着飾っている事の方が私には無理です」

どうだ。と言わんばかりに言い返すと、騎士達や侍女はなるほどと思ったようだが

着飾った女性には、地雷を踏んだ一言だったようだ。


「無礼な。私を第2王女リーシェと知っての言葉か」


上から目線の女王様な言葉に、これが王族の言葉なのかとマキトは感心してしまった。

だから返答が思いつかなくて、ほおと聞き惚れていたら

また地雷を踏んだらしい。


「おのれ。返答も出来ぬか。」


キーキーと激しく罵る言葉が次々並ぶので、侍女が慌てて宥めている。


「うわ。女って怖いなあ。これって、放送禁止用語ばかりだな」

ボソリと零したところで、しっかり聞かれて、物凄い言葉責めの嵐に

騎士達も引いている。


この団体のもっと後方で見慣れた顔と目が合い、アイコンタクトが伝わったのか

大声で罵られているところに、第1王子とラゼスが数人の騎士達を連れて現れた。


詰所の裏手で、宿舎との間の20畳ほどの庭は、宥める者、守ろうとする者

揉めに揉め、「止めんか」と王子の何度か目の大声でようやく落ち着いた。


ゼエゼエと声を枯らしそうになる王子に、マキトは慌ててキッチンから全員分のお茶を

用意してくると、騎士達を始め、侍女まで一息ついた。

「全く。リーシェ。どういうことだ。もうしばらくすれば、王都へ出立する時刻となるのに。

何しにここへ来た」

「昨夜の夕食に夫人とお会い出来なかったので、ご挨拶をしたかったからですわ」


「・・。挨拶は、見送りでと父上からも話しがあったばかりでないか」

「あら。私は準備は既に済ませて、村を散策させて頂いていたのよ。

ついでに寄らせて頂いただけですわ」


「お前が感情的になるだけだと、昨夜あれほど伝えただろう。ユーシィは、彼女を選んだ。

お前ではない。お前が彼女を貶めれば、ユーシィが困ることくらい分からないのか?」

王子は、常に平等を心がける男だ。

真っ直ぐに、妹を諭そうと試みている。いつでも諭しているのだが、いかんせん

相手はいつまでも子供のような考えで、ちっとも成長していないよう。


「ユーシィお兄様は、どうしてこのような身分の者を妻にされるのですか?

王家に相応しいとはとても思えません」

向き直って、ラゼスに向かって癇癪を起した子供のように吐き出してくる。


「リーシェ」

兄王子は自分の体で阻止しようとするが、それを押しやり、ラゼスに抱きつく。

「どうして、私ではダメなんですか」

「リーシェは、私の姪だ。妻とは思うことは出来ない」

わあわあと泣きだしてしまい、マキトはその激しい性格に驚かされた。


本当に好きだったんだな。


そんな言葉が頭に浮かぶ。自分が妻役を引き受けて良かったのかを迷い始めた。

そもそも自分は、天使のせいでこの世界に落とされて

性別だって本当は違う

もしかしたら元の世界へ帰る方法があるかもしれない

そうなると、自分はこの世界からはいなくなる可能性もあり

妻役は彼女に失礼だったのじゃないかと後悔してくる。


傍から見れば、不安げな美人妻に見られたのか、ロッサが気を効かせて

「夫人、大丈夫ですか」

と、大声で呼んでくれるものだから、ラゼスは自分に抱きついてきた姪を宥めていたが

ひょいと両腕を掴み、自分から離すと、近くにいた王子へそのまま引き渡し

井戸の傍でグルグルと考えに耽っていたマキトの所まで走ってきた。

「マキト」


その声で、いろいろ考え込んでしまって落ち込んでいた顔を上げることが出来た。


「済まない。大丈夫か?」

笑えただろうか。

落ち込んだままの顔になっただろうか。


「私は、私だけは認めない。絶対にお兄様は返してもらうから」


大きな声で略奪宣言。

王子は大きくため息を吐いて、額に手を当てている。





天使、至急連絡を請う。

俺的には、ピンチだ。




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