理想は想像、希望
俺は高校までは、自分では平凡に生きてきたと思う。
この中高の時期は、とにかく勉強一色で恋愛も出来なかったので
モテるわけでもなく、グレーな学校生活だったさ。
身なりに気を使うこともなく、ただ進学の為だけ。
彼女を作りたかったが、理想の女性を求めると誰もいない。
自分もダサいし、俺も磨かれなくてはならない。
大学進学と共に理想の男になるべく、モテる為の努力を始めた。
やはり体力のある男が好かれると思い、よくランニングに励んだ。
思い込みの凄いところだ。
長期休みに運転免許もとった。
身分証明書にもなる。ちょっと外聞的には大人になった。
大学の学生証でもいいが、それほど頭の良い大学でもないから
せめて格好良く
レンタカーくらい借りられるものがないとね。
真面目な髪形も変えて、固いイメージだったメガネからコンタクトへ。
世界がこんなに色があったのかと思うほど、視力を妨げるものがなくなり
視野がグンと広がった。
どこからどう見てもイケメンに入る部類に、なんとか圏内じゃないかと自画自賛。
センスを磨くため、センスの良いカフェでバイトして、俺は何人もの女性に告白され
モテることに浮かれ調子こいていた。
今思うと、ちょっと反省する。
ただ単にモテ期だったと思う。
そんな調子良く続いたある日、セキュリティーが完璧なアパートで、
俺は無防備に簡素なシングルベッドで寝ころんでいた。
イケメンになる為に、いろいろ努力しているもののやはり疲れる。
バイトも夜9時までやり遂げ、お蔭でバテバテ。
高校時代までは、親が管理してくれていたから、何もかもが大変さ。
腰も足も筋肉痛を通り越して、疲れが溜まっている感じがして
体がだるい。
やっとアパートの我が家についたら10時で、明日は7時起きで大学かあなんて思いながら
体を投げ出して、眠りこけていた。
完全に熟睡というやつだ。
それなのに、耳のそばで声が聞こえる。
それも可愛い声なのに、お年寄りが話すような言い方。
「お主の好きなタイプは?」
「?」
「お主の好きな女性のだ」
「え?誰だ?」
俺に必死に声を掛けてくる不法侵入者は誰だ?
確かにドアには鍵は掛けたはず。
寝ぼけながら目をこする。
「聞いてるか?」
あまりに強引な上から目線的言葉にムッとして起き上がると、可愛らしい天使様。
夢でも見てるのかなあ。
見事な白い翼に金髪に青い瞳。
顔は・・・。
「顔は?」
「ロリコンの人なら喜びそうな可愛い顔だな。俺はそっちの趣味じゃないから」
(おお、つい返事してたけど、こっちの考え分かったのか?)
まさかなあと思っていると、
「そうだ。分かるぞ」
即答だった。
「げっ」
俺が引きつった顔をさせると、あちらは可愛い幼児顔の頬を膨らませた。
腰に可愛らしい手を充てている。
「最初に言っているように。理想の女性のタイプは?」
「あ・・うん。」
とにかくまだ寝たいので、サッサと答えようと俺は一応本当に理想の女性像を浮かばせた。
でも、俺の頭に浮かんだのは実際の女性ではなく。
架空に等しい。
「そうだなあ。肌は色白だな。もっちりとした」
色白な少女で同じ歳。
「変態だな」
「・・・。」
傷つくなあ。
「それから?」
可愛い幼児顔なんだが、ちょっと目が釣り上がりそうで、怖いのですけど。
「・・ただの理想だぞ?クリーム色のふわふわ髪に碧眼てのもいいかな。
スタイル良くて、胸はマスクメロンサイズ。顔は癒し系。料理出来て、腕も立つといいかな。
俺の戦力になる可愛い子だな」
どこかの架空のスタイル良くて、男性が10人いたら10人は可愛いと思う美少女を想像する。
そうそういないよな。
完璧までの理想の女性って。
性格も控えめで、でも自分の意見を言えるのがいいかなあ。
へへ、想像するだけで顔がにやけてくる。
「マスクメ・・・すけべだな」
「煩い」
理想は高いだけ。夢なんだよ。
「しかも戦力?」
「そ。一緒に生きて行く相手なら、一緒に人生を闘っていくという」
(分かりづらいかな?)
天使のような子供は、フムフムと頷く。
白い翼はお飾りかな?
でも、実際いたらやはり天使なのかな?
俺は、大きく欠伸をすると、天使は何もなかった空間から大きな鏡を取り出し壁に立てかけた。
「こんな感じか?」
天使は鏡を見ろと俺に指図する。
鏡を見ると、眠たそうな顔をした理想の女の子がベッドで胡坐をかいている。
「へえ、凄いな。こんな理想の女の子が実際にいるんだ。可愛いなあ」
なんて、ヘラッとしただらしない顔をさせると、鏡の女の子も同じような顔になる。
「あれ?」
「お主、立ってみろ」
天使に言われて、ベッドから立ち上がり、鏡の前に立つと、鏡の女の子も同じ動きを見せる。
「もしかして・・・」
両手を頬に振れると、鏡の女の子も同じように・・。
「おい、どういうことだ」
振り向いた俺に、天使はにんまりとする。
「お主の理想の女性像だ。文句はあるまい」
「おい。俺本人が理想の女性になってどうする」
鏡の女の子は、完全な美だ。コンタクトが消えていて、裸眼だと気付く。
(目の中のコンタクトが消えてる。)
「まあ、固いこと言うな。あ、と・それからお主には悪いが、とある問題天使がお主を見つけられない
ように異世界へ移動する」
何気に恐ろしい事を吐く。
「ちょっと待て。話が見えないぞ」
慌てて天使を捕まえて、元に戻せと詰め寄ろうとするが
頭の中の考えを読まれているのか、避けられて触れることも出来ない。
「つまりだ。お前は努力家でイケメンだ。今までの努力、それは素晴らしいことだ。
だが、天使の問題児が婚約を破棄してまでお前と一緒になりたいと暴挙に出たので、
神から頼まれたのだ。性別は変えた方がいいと判断してだ。
理想の女性になれたのだ。良しとしてくれ」
そちらの揉め事に、俺は巻き込まれたってことか?
「何、それって、俺のせいじゃ」
「そうだ。お主は巻き込まれただけだが、悪いの。お主のいろいろ注文は受け付けた。
その姿になったことで完了しておる。
それと神の加護もプラスされておる。異世界もいいぞ」
天使は、何もない空間から長いステッキを取り出すと、俺に向かってのの字を描いた。
のの字は空間を歪ませて、広がってくる。
「俺が何をした~」
雄叫びと共に、俺は異世界へと落とされたのだった。