コダマ
その日は天気も良く、絶好の行楽日和だった。
久々の休日。
私は紅葉狩りに山へ入ったのだが、運悪く道に迷ってしまった。
私の普段の行いが悪かったのだろうか?
しかし、捨てる神あらば、拾う神ありである。
私は一軒の小屋を見つけた。
「すみません。誰かいますか?」
『すみません。誰かいますか?』
小屋の中から女の声がした。
どうやら人がいるようだ。
しかし、もう夕暮れだと言うのに明かりもついてはいない。
おかしいなと思いながら、小屋の戸をノックする。
「すみません。道に迷ったのですけどー」
『すみません。道に迷ったのですけどー』
さっきから女の人の声はオウム返しばかり。
変だなとは思うが、他に行くあてなど無い。
私がノブを回すと、ガチャリと戸が開いた。
鍵はかかって無かったようだ。
中を見渡すと誰もいない。
先程から声を返していた女性は、暗闇の中に隠れてしまったのだろうか?
「誰かいませんかー!」
『誰かいませんかー!』
何もない所から女の声がした。
目を凝らしても何処にも人などいない。
私の背筋に寒いものが走る。
もしかしたらオカルト的なものが目の前にいるのではないか。
そんな考えに辿り着いた途端、急に怖くなってきた。
変な汗が流れるのを感じながら、私は足を少し引いた。
「ふわああああーーーー!!!」
『ふわああああーーーー!!!』
堰を切ったように私は叫びながら、何処へともなく走りだした。
何処をどう走ったのかはわからない。
けれど、どうにか車道に出た。
きっとここから帰れるはずだ。
私は荒い息を整えながら、走って来た道を振り返った。
何も追って来てはいない。
ほっと安堵の息を吐いた。
「一体何だったんだ?」
『さあ、一体何だったんでしょうね?』
背後から女の声がした。