勇者は魔王を殺して、また恋をする
ついに来た。
眼前には魔王の根城。
行く手を阻む魔物を斬って斬って斬り続けて。
血にまみれた己こそが魔物だと自嘲する。
城の中は静かだ。なんの気配もない。
階段を登り目指すは玉座。
開いた大扉の向こうには男が一人。
黒い髪赤い瞳鋭い角。
「お前が、魔王か!」
「いかにも、我は魔物の王なり。」
「勇者の名の元に、貴様を討つ!覚悟しろ!」
剣を抜けば、魔王はゆっくりと立ち上がる。
構えれば、魔王は両腕を広げた。
魔法か?と身構えるが何もおこらない。
なんだ?罠か?
一歩近づいた時、魔王が口を開いた。
「さあ、我の胸を貫け。運命の番いよ!」
「な、に?」
「そなただけが、我の定めを終わらせられる。さあ…」
「お前…死にたい、のか?」
「ただ、独り。存在するだけが我の意味。初めから生きてはいない。」
ああ、そうだな。
「確かに、生きてなんかないな。何も得ることねーし。」
「勇者は人間から敬われ傅かれるのだろう?」
「敬う?敬うっていうのは、相手を本当に凄いって認めて大事にする事だ。
人間は俺を魔物を殺す道具としか見てない!勇者だから魔物と戦って当たり前。
怪我をしたって心配するのは自分たちの安全。
『俺』が、どんなに嫌でも痛くても苦しくても関係ない!
ヤツらにとって勇者はただの道具、生贄だっ!」
今まで押し込めてひた隠していた思いが溢れる。
ふいに、魔王の手が俺の頬を撫ぜた。
「そなたは人の世にいた故、我より辛い思いをしたのだな…。」
その言葉と慈しむ瞳に嬉しさがこみ上げる。
ああ、いつ以来?いや、初めてかも知れない。『俺』を見てくれた人。
2人きりの静か過ぎる広間に、滑り落ちた剣の音が響く。
頬に添えられた魔王の手に縋りつきながら、俺は泣き崩れたのだった。
「落ち着いたか?」
玉座に座る魔王に抱えられてるという、なんとも恥ずかしい態勢。
こそばゆいというかなんとも言えない感情を持て余し、魔王の首に抱きついた。
初対面の敵の男に何してるんだろう?と思わんでもないが、魔王はポンポンと背を叩いてくれるので甘える。
「はぁ、敵に泣きつくとか、勇者失格だ…。」
「どうせ、見ている者もいまい。ここは『魔王』と『勇者』しか入れぬ。」
「あ、だから魔物がいないのか?」
「ああ、故に、我は独り孤独に耐えておった。」
「外に、出れないのか?」
「出る必要はないからな。何故か、食糧は地下に自動的に供給される仕組みだ。まあ、我はあまり食事を必要とせぬがな。」
「…魔王は、生まれてからずっとここにいるのか?」
「ああ、我が生きてさえいれば、ゲートから勝手に魔物が生まれる。我が死ねばゲートは閉じ、魔物はいなくなる。」
「悲しいな…。」
「我を倒した後も生きねばならぬ、そなたの方が辛かろう?」
「魔物がいなきゃ、勇者の力は脅威になる。きっと、体良く戦いの道具にされるか幽閉されるだろな。」
「ならば、ここにいればよい。魔物が消えれば、そなたがいなくとも良いのだろう?」
「ああ、それもいいな。寿命がきたら、あんたを殺して俺も死ぬかな。」
「…勇者よ。なにやら熱烈な愛の告白のようだ。」
「…ん、俺も思った。」
「…」
「…(き、気まずい!)」
「しかし、よいものだな。」
「は?」
「そなたは、我の死を、唯一悲しんでくれる。」
「そりゃ、あんただけが泣く事を許してくれたからな。」
「…そなた、名はあるのか?」
「あ?覚えてない。魔王は?」
「呼ぶ相手が居らぬ故な。」
「そうだよな。呼ばれる為の名前だもんなぁ?あ、魔王は死んだらどうなるんだ?消えるのか?」
「一度この世から消え、また、作り替えられ魔王になる。」
「えっ!?」
「人間達は、すぐに仲間割れをするからな。しばらく平和に暮らせば人間同士で争う。また、魔王が作られ魔物が蔓延り、人間は協力するだろう。そして勇者が生まれ、魔王を倒し、平和になる。永遠の繰り返しだ。」
「『勇者』もそうなんだろな。なんか漠然とした虚無感をずっと持ってるんだ。なんか、悪い事したのかな?俺らの魂って。」
「…」
「愛され抱くこともされず、定められた役割をこなして殺され続けるなんて、どんだけ業が深いんだよな?」
「なら、抱かれてみるか?」
「は?」
「終わる前に、我も本懐を遂げたくなった」
仮面のような顔に、感情が浮かぶ。それがあまりにも綺麗で目を奪われ、動きが遅れたのが敗因だ。
決して実を結ばない。
故に繋がる事を許される
定められた『役割』故の…
目覚めたのは清潔なシーツの上。
昨日から生まれて初めての経験ばかりだ。
ゆっくりと戸が開いた。
パチリと目が合う。
髪が短くなり、シンプルな白いシャツと黒いズボン姿の魔王の手には盆が持たれている。
「起こしたか?」
「いや、目は覚めてた。」
「腹は減ってないか?もう、昼だが?」
「うわ、そんなに?俺どんくらい寝てたの?」
「いや。夜明け近くまで付き合わせてしまったからな、すまぬ。」
「や、謝る必要はない。こっちも了承したんだ。で、何持って来てくれたの?」
ゆっくり横座りで起き上がれば、魔王はテーブルごと、こちらに食事を持って来てくれる。
「え?魔王、料理できんの?」
「少しだけだがな。」
「すげーな!食べてい?」
「ああ。」
「いただきまーす!」
「味はどうだ?」
「うまい!最近は固形食料ばっかだったからすげー嬉しい!」
「そうか。それは良かった。」
「で?なんで髪と角。削ぎ落としてるわけ?しかも俺の剣、使ったろ?」
「ああ、我の、特に角は魔王の象徴故、勇者の剣で削がれれば、魔物減少を引き起こす。久方ぶりに日も差したし、人里近くからは魔物はいなくなっただろう。」
「そんなことが…!?」
「勇者は魔王を倒したが、魔王の力が強大で、未だ燻っている。とでも思うであろう。
しばらくは、そなたと二人ゆっくりと過ごしたい。」
「そりゃ、願っても無いけど。角、痛くないの?」
「髪や角に痛覚はない。なくなって楽だ。」
魔王の放った遣い魔によれば
魔王が言った通り、魔王は死んだが影響力が強大だったと結論つけられた。俺の行方が探されているが、そこまで強大な魔王ならば相打ちになったのだと言われてるようだ。
俺たちは生まれて初めて、ゆっくりと穏やかに暮らしている。
だが、それももう、しばらくの間だろう。
勇者の身体は丈夫だ。
多少の怪我なら少し休めば回復するほど。
だけどその分、寿命は短い。
当たり前だ。
魔王を倒すのが役目。
長く生きる意味はないんだから。
その時は、魔王も道連れにして死ぬ。
俺が勇者の剣で殺さなきゃ死ねない。
魔王が死ななきゃ、リセットされないから俺は魔王に会えない。
また、会う為に。
俺は剣を振り下ろし
愛しい人の命を奪う。
また、会う為に。
魔王は剣を突き立てられ
命を奪われる。
「また、来世で会おう」
「ああ、また、次の世に」
今度はもっと早く長く一緒にいれますように。
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