木枯らしにマフラー
切なくてかわいらしくて美しいお話を目指しました。
※なお、この作品は「なろうラジオ大賞7」に応募しています。
木枯らしがまともに吹きつけるせいで、マフラーのわたくしでも凍えそうな気持ちがしてしまいます。それならご主人様はもっと寒いのかもしれません。でもそんなことはおくびにも出さず、黙々と道を歩いています。
夜です。今夜は澄み切っていますが、月も出ていないので、真っ暗です。
ご主人様は向かい風が来ても、黙って歩いてゆきます。ときおり、すれ違う人々がご主人様を振り返ります。あの子、家出かしら。あんなに小さいのに。かわいそうに。でも、ささやきあうだけで、助けてくれはしません。
やはりご主人様も寒かったのでしょうか。洟をすする音が聞こえます。わたくしもわたくしが耳元までかかるようにして、ご主人様を寒さから守ろうとします。
それでも、ご主人様の鼻は赤いです。よくみると、目元も赤いようです。またびゅう、と木枯らしが吹きつけました。この薄く古いマフラーでは、ご主人様を守るには、不十分であるのかもしれません。
でも、ご主人様はわたくし以外にあたたかいものを身に着けておりません。そもそもご主人様はご主人様のお母様の形見であるわたくし以外身につけずに、外に飛び出したのです。
もしかしたら、ご主人様は、寒いだけではないのかもしれません。心が、苦しいのかもしれません。何というのでしたっけ。あの、自分だけがつらいのだと思う、あの感情は。
ご主人様が涙をこぼしました。透明な水滴がご主人様の目からあふれて、頬を濡らします。そして、地面に落ちて。
かつん、と硬質な音がしました。地面には、まるで水晶のような塊が落ちています。ご主人様の涙が、透明できらきらとした石に変わったのです。
ご主人様の涙が次々と地面へ落ちます。そのたびにからり、かつん、と音を立てて宝石へと変化します。
ご主人様が歩いた道には、きらきらと輝く透明な石が点々と続いています。すると道ゆく人々が、ご主人様のつくった宝石の道筋を見つめます。ある子供が、ご主人様の涙からできた宝石をひとつ、拾いました。またひとり、拾います。水晶のようなご主人様の涙が、誰かの宝物になります。またひとり、もうひとり。
わたくしの上にも、涙が落ちてきました。涙で濡れることを諦めて受け入れようとしていたわたくしの上で、涙はころん、と石になって、軽やかな音を立てて地面へと落ちてゆきました。
ご主人様の涙からできた宝石で、暗い夜が照らされます。
ご主人様はもう、かわいそうな女の子ではありませんでした。
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