嫉妬の爆走
朝、窓の外には穏やかな光が差しているのに、私の心は真っ黒に澱んでいた。
義母が夫に朝食を運ぶ。その手元にかすかに映る笑顔。
義姉が夫に向けて言った、何気ない一言。
――それだけで、胸の奥の泥が沸騰する。
「なんで…私の神様に笑うの?」
小さな声が、呪文のように口から漏れる。
布団の中で丸まっていた私の心は、もう限界だった。
握りしめた手のひらは汗で湿り、指の間の力が逃げない。
――これ以上、あの笑顔や言葉を聞かせるなら、私の中の沼は決壊する。
私は飛び起き、夫のいるリビングへ走った。
「ねえ、話して…」
声が震え、涙が頬を伝う。
夫は少し驚きながらも、私の手を取り、抱き寄せる。
その温もりだけで、少し安心する。
けれど、安心は束の間。胸の奥で沸き上がる嫉妬は、まだ鎮まらない。
「昨日の…義母さんの言葉…」
私は言葉を切りながらも、全て吐き出すように続けた。
「“あの子は宝物”って…私じゃダメなの?」
涙が止まらず、体を小さく震わせる。
夫は静かに、でも確実に、私の肩を抱き寄せる。
「君だけだよ。誰にも渡さない」
その声に、胸の奥の泥が少しずつ渦を巻きながらも落ち着く。
しかし、私はそれだけでは満足できなかった。
――誰にも奪わせたくない。
義母も、義姉も、この家も、全部。
私だけの神に、私だけが縋りつきたい。
次の瞬間、私は無意識に義母が用意した朝食を手で払った。
パンくずが床に散り、牛乳のグラスが微かに揺れる。
義母の驚いた視線。
「ちょっと…!」
その声も、私の胸の沼をさらに刺激する。
「違う…私の神様を奪わないで…」
涙を流しながら、私は夫の腕に飛び込む。
夫は抱きしめ返し、私をぎゅっと包む。
「大丈夫、君だけだ」
胸の中で、ずぶずぶに絡みついた嫉妬と独占欲が、初めて行動として現れた瞬間だった。
その行動は泥のように重く、周囲を巻き込み、誰も傷つけずにはいられない予感を孕んでいた。
――この家で、私の神様は私だけのもの。
誰にも渡さない。
義母も、義姉も、世界中の誰も。
全身全霊で、心も体も、ずぶずぶに縛り付ける。
その夜、布団に潜り込むと、まだ手のひらに残る温もりと、胸の奥で暴れ続ける沼が一緒に揺れていた。
私はわかっていた。
――この感情は止められない。
――そして、これからもっと深く、ずぶずぶに絡み合うのだと。




