泥沼の嫉妬
朝の光がカーテンの隙間から差し込む。
けれど私の心には、一片の光も差さない。胸の奥は、泥のようにねっとり、ぐちゃぐちゃに重く絡みついている。
夫が洗面所で歯を磨く音。
義母が台所で小さく笑う声。
義姉が階段を下りる足音。
――全部、私の心をかき混ぜる。
「なんで…私じゃだめなの…?」
小さな声でつぶやく。涙が頬を伝う。
頭の中でぐるぐると回るのは、嫉妬と独占欲。
夫は私の神であり、唯一絶対の中心。
なのに、私の絶対を奪う存在がすぐそばにいる。
布団の端で丸くなりながら、私は無意識に夫を想像する。
腕の中で、肩の上で、手を握るあの温もり。
「あなたは、私だけのもの…」
心の奥で念仏のように繰り返す。
長男教の信者が神に縋るように、私は彼に全てを委ねたくてたまらない。
義母がふと、「今日は夫の仕事の話を聞いてくれる?」と話しかける。
――その瞬間、胸の中の泥が一気に沸騰した。
「聞いてくれる?」じゃない、聞かせる? 私だけに? 私の知らないところで、私以外の人に――
思わず布団を飛び出し、夫の部屋へ向かう。
「ねえ…お願い、私のところに来て…」
声が震える。
夫の扉をノックすると、彼は振り向き、微笑む。
その微笑みだけで、胸の奥の沼が少しずつ溶ける…けれど、完全には浄化されない。
「大丈夫だよ」
夫がそっと抱き寄せる。腕の中で、全ての不安が一瞬で鎮まる。
――でも、義母の言葉がまだ胸に刺さっている。
――でも、義姉の笑いが耳に残っている。
私は夫の胸に顔を埋め、唇を震わせながら泣いた。
「お願い…私だけを見て…」
「私の神様…奪わないで…」
夫は何も言わず、背中をさすり続ける。
私はそのぬくもりの中で、全身の神経が溶けていくのを感じた。
泥のように重く絡みついていた嫉妬も、独占欲も、依存心も――
全部、夫の存在でねっとりと包まれて、絡まり合ったまま胸に収まった。
でも、心のどこかで、私は知っていた。
この沼はまだ始まりにすぎない。
義母も義姉も、家も、全部が私の神を奪いに来る。
――だから私は、もっとずっぶずぶに縋るしかない。
彼の腕の中で、全てを奪い返すように、全てを飲み込むように。
布団の中、二人だけの世界で、私は誓った。
「あなたは、私だけの神。誰にも渡さない――絶対に」
胸の奥で、泥の沼がゆっくりと、だが確実に広がっていった。




