母の絶叫、悪魔の抱擁
昼下がりのリビング。
窓の外では秋風がカーテンを揺らしているのに、家の中は異様なほど静かだった。
義母はテーブルの端に座り、指先を震わせながらコーヒーカップを持つ。
その目には涙がにじんでいた。
「どうして……どうしてあんたなのよ……!」
ヒロインは洗い物の手を止め、静かに振り返る。
「お義母さん?」
義母の声が震える。
「息子を奪ったくせに、何もかも、私の居場所まで奪って!」
その叫びは、長年の寂しさと嫉妬が混じり合った絶望のようだった。
ヒロインは黙って義母の前まで歩く。
その顔には、怒りも驚きもない。
ただ、深く、静かな“理解”だけが浮かんでいた。
「お義母さん……私は、奪ってなんかいませんよ」
「嘘を言わないで!あの子の心はもう私を見ていない!」
「……そうですね」
ヒロインはゆっくり頷いた。
「でも、それは“あなたが彼を手放さなかったから”ですよ」
その言葉に、義母の表情が歪む。
涙が頬を伝い、震える唇がかすれた声で言う。
「私はただ、愛されたかっただけなのよ……息子に」
ヒロインはそっと義母の手を取る。
「知ってます。だから、もう苦しまないで」
その声はあまりにも優しく、まるで赦しのよう。
だがその優しさが、義母には耐えられなかった。
「やめて!あんたのそういうとこが……一番、腹が立つのよ!」
義母は手を振り払うが、その手は震え、力を失っていた。
ヒロインはそっと立ち上がり、義母の肩に手を置いた。
「大丈夫です。お義母さんの愛は、ちゃんと彼の中に残ってます」
「ほんとに……?」
「ええ。でも今は、私が彼を支える番なんです」
義母の膝が崩れ落ちる。
嗚咽がリビングに響き、ヒロインはその背を抱きしめた。
“これでいいの。これが終わり。”
黒い沼は静かに波を止めた。
その中心には、涙を浮かべながらも微笑むヒロインの姿。
「お義母さん、あなたの愛はもう私が受け継ぎます」
――まるで、勝者の祈りのように。




