義母の反撃、悪魔の微笑み
朝、リビングには張り詰めた空気が漂っていた。
義母がテーブルを拭きながら、ふとつぶやく。
「やっぱり…嫁より母親のほうが、息子の好みをよく知ってるわね」
その言葉はまるで、毒針のようにヒロインの胸に刺さった。
だがヒロインは眉一つ動かさない。
「そうですね。私もお義母さんの味を目指してるんです」
柔らかい声に包まれたその言葉の中には、冷ややかな刃が隠されている。
義母は少し笑い、わざとらしく夫に話しかける。
「あなた、最近ちょっと痩せたんじゃない?ちゃんと食べてるの?」
夫は気まずそうに笑うが、ヒロインはその笑みの意味を正確に読み取る。
“これは挑戦ね”
黒い沼が胸の奥で静かに蠢く。
その日、ヒロインは夕食を完璧に整えた。
義母の得意料理を、見事に、しかも彼女以上に繊細に再現してみせたのだ。
「お義母さんの味を、参考にさせてもらいました」
笑顔のまま、さらりと言い放つヒロイン。
義母の手が、箸の上で止まる。
その一瞬をヒロインは見逃さない。
「息子さん、こういう味がお好きなんですよね?」
夫は感動したように微笑む。
「まるで母さんの味だ…いや、それ以上だ」
その言葉に、義母の表情がわずかに歪む。
リビングに広がるのは、沈黙と香ばしい味噌の香り。
ヒロインは微笑を崩さず、黒い沼を心の奥でゆっくり撫でる。
“勝負は料理じゃない。心の支配よ”
夜、義母は眠れずに天井を見つめていた。
「どうして…あの子、あんなに落ち着いていられるの…?」
ヒロインはその頃、夫の隣で静かに目を閉じていた。
“ねぇ、お義母さん。勝負はもうとっくに決まってるのよ”
彼女の胸の奥の黒い沼が、ゆっくりと笑った。
それはもう、怒りでも恐怖でもなく――快感に似た支配の余韻だった。




