初めての実家訪問
結婚式の余韻もまだ消えぬまま、私は夫の手を握って初めて義実家の門をくぐった。胸の奥で小さな緊張がチクチクと痛む。外の空気は秋の爽やかさに満ちているのに、家の中に一歩足を踏み入れると、突然違う世界に迷い込んだような感覚に襲われた。
「私、ちゃんとやっていけるのかな…」
心の中でつぶやくと、自然と夫の手を強く握っていた。子どもの頃、母にしがみついて不安を隠したあの日の感覚と同じ。今は母の代わりに、夫が私を守ってくれる人だと信じている。だから、少しでも心が揺れると、無意識に夫に依存してしまうのだった。
義母が出迎えてくれた。にこやかな笑顔の奥に、微かに私を試すような視線を感じる。初対面の緊張が体を包み、声も少し震えた。私の中で小さな不安がうずき、「どうか夫が間に入ってくれますように」と心の中で祈る。
食卓に通されると、義母は丁寧に料理を並べながら、さりげなく家のルールやしきたりを示してきた。
「うちはこういう風にするのよ」
その一言に、心の奥で緊張がさらに増す。自分がこの家の一員として認められるかどうか、まだ手探り状態だった。母に教わったこととは違うルールに戸惑い、自然と夫の存在に頼りたくなる。
夫は私の小さな震えやぎこちなさに気づき、そっと手を握り返してくれる。目が合うと、笑みを浮かべながら「大丈夫だよ」とささやく。その言葉だけで、胸の奥にぽっと温かい光が灯る。まるで母に守られているときのような安心感。私は心の底から、夫の存在にすがりつきたいと思った。
夕食を終えて部屋に通されると、義実家の空気の重さがじわりと押し寄せる。母の笑顔のように優しくはあるけれど、少し緊張感があって、どうしても心が落ち着かない。だから、夫に体を寄せ、肩に頭を預ける。彼のぬくもりが、私にとって唯一の安全地帯だった。
夜、ふと一人になった瞬間、今日一日の出来事が次々と頭をよぎる。義母の微妙な言葉、義姉の探る視線、初めての家の匂いや空気、そしてそれに打ち勝つために支えてくれる夫の存在。心の中で私はそっとつぶやく。
「私、頑張らなくちゃ。でも、あなたがいてくれるなら大丈夫…」
母に甘えたあの日のように、私は夫に全幅の信頼を寄せ、そして頼ることの幸せを噛みしめたのだった。




