黒い微笑み
朝食の時間。
キッチンからは義母の甲高い声、リビングからは義姉の甘ったるい笑い声。
以前の私なら、この音だけで胸の奥の沼が暴れ出していた。
でも今は違う。
私は静かに席に座り、コーヒーを一口飲む。
ねっとりとした嫉妬は、胸の奥にちゃんと存在する。
けれど、それはもう“私を壊す”ものじゃない。“私が操る”もの。
「おはよう。今日もあなたの大好きな納豆ごはんよ」
義母が得意げに夫の前に皿を置く。
夫はいつもと同じように笑顔で礼を言う。
――胸の奥の黒い泥が静かにうごめく。
でも、私は微笑む。
「お義母さん、ありがとうございます。ほんと、こういう細かい気配り…私、まだまだかなぁ」
その一言に義母の顔がピクリと動く。
義姉も「なによそれ」とでも言いたげな顔。
“悪魔的な一刺し”が静かに効いていく。
夫は私の手を軽く握る。
「君の料理も好きだよ」
その言葉で、義母と義姉の表情がわずかに曇る。
――勝った。
ねっとりとした嫉妬は、今や私の中で静かに形を変え、武器になった。
「あなた、今日もがんばってね」
私は夫の耳元で甘く囁く。
義母と義姉の視線が私に集まり、空気がピンと張りつめる。
でも私はにっこり笑って席を立つ。
「お義母さん、あとでお手伝いしますね」
完璧な“嫁の顔”で。
内側では、沼が蠢いている。
でも、もうそれに飲まれることはない。
――私は、嫉妬と執着の女王。
その瞬間、義母と義姉は何も言えず、ただ私の背中を睨むしかなかった。
甘い微笑と静かな悪魔。
これは私の舞台。私の戦場。
そして、私の勝利。




