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診察では特に問題はないということらしい。
ただ、しばらくそのまま療養することを申しつけられたようだ。
「よかった。ほんとによかった。」
「大げさだよ、マリは。」
「だって、1週間よ!意識がなかったのよ!」
まだ、かすれて出にくそうな声がその証拠じゃない!
「いや、まぁ、そうだけど。」
「ほんとによかった。」
ベッドの横のイスに座り、またあふれ出した涙をグシグシとぬぐっていると、そっと伸びてきた折れてない右手が優しくぬぐってくれた。
「泣くなよ。」
「う、うん。うん。」
少しずつ落ち着いて、コウが目覚めた実感がやっと湧いてきた。
「ありがと、だいぶ落ち着いてきた。」
恥ずかしくて、てへっと、ごまかせば、フッと優しく笑ってくれた。
でも、その笑みをスッと消すと、迷うような素振りを見せた後、まじめな顔になった。
どうしたのかと聞こうと、口を開ける前に
「その、今更かもしれないけどさ。マコの父親って誰?」
「え?何?いきなり。」
「ごめん、でも、答えてくれないと、治るものも治らないかもしれない。」
「え?ちょっと、それ、どういう。」
「答えて欲しい。さっきのマコとの話、ほんと?」
「へっ?!ど、どの話?」
「・・・はぁ。俺がマコのパパって話。」
「え!!え、と、そ、それは。」
「うそだった?違うね、マリはマコにうそを教えるなんてない。」
そんなにはっきり断言されたら、覚悟決めるしかないじゃない。
「うっ。そ、そうよ。マリの父親はコウよ。で、でも、責任とか、いいから、ね。気にし」
「ちょっと、黙ってくれ。」
やっぱり、怒ってる?
迷惑だった、よ、ね?
あぁ、ほんとどうしよう。
コウ、好きな人がいても責任取るとか言い出しそう。
そんな、責任とか、いらないよ、正直。
つらいだけだよ。
「マリ。」
「な、何?あ、あの、責任」
「マリ!」
「は、はい。」
「俺と結婚して欲しい。」
「え、無理。」
「・・・なんで。理由を教えてくれる?」
「え、だって、コウ好きな人いるでしょ?なのに、責任感からわたしと結婚しようとか言い出したんでしょ?そんなのいやだから!」
「確かに、責任は感じてるよ。でも、それは今までその可能性を見て見ぬ振りしてきた俺のせいだから。それに、好きな人って誰だかわかっていってる?」
「へ?いや、わからないけど。」
「はぁ。自分の意気地のなさと配慮のなさがほんとむかつく。」
何、どういうこと?
「マリ、よく聞いて。俺が昔から好きな女の子は、マリだけなんだ。マリ以外見てなんかいない。」
「え?うそ。」
「ほんと。でないと、そんなずっと一緒にいない上に、貴重な帰省時間をつぎ込むはずないじゃないか。」
「え、だって、帰ってきてからよそよそしかったじゃない。」
「それは、マコが年齢より小さく見えた上に、お前が街の市場でカーゴのやつと夫婦みたいに歩いてるのを何度か見かけたから。」
「それって、終戦後すぐのことじゃない!しかも、それ、奥さんのベリーに頼まれたからやってくれてただけなのに!予行演習にもなるからって!」
「そ、そうだったんだ。」
「じゃあ、何、わたし他の男と寝るような女だと思われてたの?」
「い、いや、だって、あの時、俺腐ってたし、色々あったし。」
「ものすっごーっく聞きたいわ、その辺りのこと。詳しくね。」
「それだけは勘弁してくれ。腐って、呑んだくれてた、情けない状態だったんだ。その上に、お前まで失ったと思って。」
な、何よ。
そんな寂しげな顔されたら、怒れないじゃない。
「マリ。」
「何よ。」
「結婚して。この哀れな男を救ってくれ。」
「わかったわよ、ばか。」
「俺って幸せ者だね。きれいな奥さんだけでなく、かわいい娘まで一気にできちゃった。」
「ばか。」
あれ?
何か雰囲気変わった?
気のせいかな?