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第98話 重い朝食

「念のため……ここでのお話は他言無用にお願いしますね?」


 どうやらこの王女様はとんでもないことを朝食の場で話すつもりだ。


 半裸一人を除きみんなで生唾を飲み込み頷く。


「とは言ったものの……緊急で開かれた議会にて決まったことをお話するだけの事なんですけどね」


 緊急で開かれた議会なんてものがあったのかなんて初耳の情報を察してかリィナが教えてくれる。


「ソラさんが気を失っている間にあったのですよ」


「へぇ。リィナ達は参加しなかったの?」


「ソラさんがあんな状態で参加なんてできませんよ」


「あ、ごめん」


「いいかしら?」


「ああ、申し訳ございません」


「構わないわ。それでまずは私がこの件の後始末をすることになったの」


「マリィ王女自らがですか?」


 驚いてみたは良いもののそういう物なのかさっぱりわからない。


 こういう問題って防衛の役職やら警察のような治安維持に勤めている人がやったりするのではないのだろうか。


 知らないけど。


「ええ、お母さ……シーナ女王陛下からの勅命よ。なぜ私なのかは理解に苦しむところだけど」


「マリィ王女を信頼しての事じゃないのですか?」


「リィナ。今はマリィでいいわ」


「はい。マリィ」


「これはちょっとした私の愚痴よ。こんなことをしているようじゃ王族失格もいいところだけどままならないものね」


 ゆっくりと食事を摂りながらどこか緩んだ表情で淡々と話すマリィ王女。


 どうやらここ数日は相当がんばられたようだった。


 王都貴族というのはそれぞれが担当する役職があるのだそうだ。


 軍事であればアスラ家、ジュベール家、ウルス家の貴族が担当し他の部門でいえば貿易や財政、法律、教育、国土管理などがあるとのこと。


 あの議会で殺害された王都貴族はいずれも反他種族統合派閥の貴族だったのだそうだ。


 けれどその殺害されてしまった貴族達が持っていた決定権なんかをどのようにするかの議会だったのだそうだ。


 ほとんどが後継者や代理人を任命し周知させるものだったそうで。


 マリィ王女は淡々と愚痴交じりに喋った後に溜息をもらして続けた。


「思えばアメリア領での出来事はもっと重く見るべきだったと思うの」


「重く……ですか? まさかソネイラルの一件とアメリアでの一件に何か繋がりがあったのですか?」


「いえ、そういう訳じゃないの。両者に面識はあれど繋がりといえそうなものはなかったわ。でもどちらも目指した所は結局同じようなところね」


「はい。ダンテさんもソネイラルさんも……」


 リィナは俯いて肩を震わせていた。


「ほんとリィナは優しいわね。顔を見れば何があったのかわかるわ。一歩、本当にあと一歩なの。正しい道を互いに模索して歩むことができればなかった争い。ただその一歩がとても深かったわ」


 本当にそうだと思う。


 ダンテもソネイラルもみんながよりよく生きようとして変わらない現状を嘆いて立ち上がったようなものだ。


 けれどその過程は看過できない。


 ダンテは未遂……なんて言葉で済ませるのは嫌だな。


 リィナとリィナの家族にひどいことをしている。


 ソネイラルはたくさんの人を傷つけて殺している。


 でも……その罪を背負ってもなお叶えたい未来があったのは確かだ。


「それでね。とうとう他種族統合のための法整備に進むことができたの」


「ということは!」


「ええ、じきに他の六種族の権利が平等になって政治への参加が認められることになるわ」


「ようやく……ですね」


「ほんとよ。女王陛下の勅命でもあるし王都貴族や領主達の意識改革、法整備、他種族の奴隷解放とその後の支援……もうやることだらけよ」


「やっぱりマリィはすごいですね。おつかれさまです」


「すごい……かぁ。ただやらないと確実に崩壊していくから仕方なくよ。リィナのように憂いているわけじゃないわ」


「ふふ、ほんとにマリィは昔から変わりませんよね?」


「そうかしら? でも私はリィナが変わったように思うわ」


「え? そうですか?」


「そうよ。昔の領主会合覚えてる?」


「ああ、あの時の……」


「私と悪戯してこっぴどく怒られたりした仲じゃない」


「えへへ。懐かしいですね」


「ほんとね。でも私はあの日々があったから今日ここまでまっすぐ先を見られてると思うの」


「マリィ……」


「なんにせよ。私とあなたの友情は変わらないわ。だからね……絶対に生きて帰ってきなさいよ?」


「え?」


「そろそろ出るんでしょ?」


「どうして……それを?」


「まったくみずくさいわね」


「すみません」


「別にいいわ。あなたなら人を雇って探しに行かせることだってできるのにわざわざ自分で行こうとしてるんだもの。どうかしてるわ」


「だって……いてもたってもいられないから」


「それにソラ様も行くのでしょう?」


 ギロリと視線が俺に向けられる。


 唐突に話が振られお茶を飲もうとしコップに伸ばした手が引っ込んだ。


「あぁ……えっと、その……」


「もしかして……勇者様という力が外へ出ないように全力で引き留めようとしてくるんじゃないか? なんて考えています?」


「あぁ……やっぱりすごいですね。全部お見通しとは」


「リィナの事は知ってますからね。私でないと気づかなかったでしょう」


「それでマリィ様はどうされますか? 俺達を引き留めますか?」


「バカ言わないで? サーヴェリスでさえどうにもならなかったソネイラルを倒した勇者に力でなんとかできるわけないじゃない」


「じゃあなんでこんなことを言ったのですか?」


「あなたと交渉するためよ」


「交渉?」


「ええ、今日来たのは招待状を渡したり議会の内容を伝えるというのもあったけどリィナに合いたかったし私の愚痴を言いたかったからよ。でついでにこの交渉をするためなの」


「ついでですか……ですが俺と交渉をすると言ってもできるようなことなのですか?」


「ソラ様はご自分の立場をよく理解するべきね。今、サーヴェリスはアーグレンの最高戦力なの魔王を跳ね除けるためのね。四天の守護柱達もそう」


「ん? それで俺の立場というと……?」


「さっきも言ったけどソネイラルってね。あの時点で魔王に匹敵する力を持っていたと推測しているわ」


「魔王と?!」


「そうよ。あくまで推測ですけどね」


「そんなとんでもないやつだったのか……」


「ええ、なのでこういう時のためにあなたの力を貸してほしいの」


「力を?」


「もちろんただでとは言わないわ。報酬もお支払いしますしあなた方の目的に最大限融通をきかせます。これはお母様の許しも得ているわ」


 なんだか隠していたこととか馬鹿らしくなるくらいに筒抜けだな。


 女王も俺達がアーグレンを出て外へ行くことに何のためらいもないのはどういうことだろう。


 国防といったって俺達がずっとここにいなきゃいざというときに何もできないんじゃないか?


 あ、龍脈の秘跡についての情報は知ってるだろうから問題ないのかな?


 いやでも旅先で俺達に連絡を取るような手段なんて……あるのか?


 それに融通か……力になってくれるのはありがたい話だ。


 というかこの話って俺がそのまま二つ返事で返していいのか?


 リィナはもちろんだけどニャーだって、一応ザンカだって関係のある話だ。


 しかし、この交渉とやらを拒否した方が面倒なことになりそうだし────


 そんなことを考えると唐突にマリィは切り出した。


「別に断ったってとがめたりはしないから安心して頂戴ね?」


「な?!」


 なぜ考えていることがわかるんだ?


 もうなんだかこの王女様が怖く感じてきたぞ。


 そして目を逸らした先でリィナと目が合う。


「リィナは、この話についてはどう思う?」


「私は……」


 リィナは何故か言いにくそうに俯いてしまった。

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