第94話 英雄の証
「ふむ。アスラか……とても興味深い。しかし今はそれを話す場ではないだろう。サーヴェリス」
「は!」
女王はサーヴェリスの名を呼び何かを持ってこさせた。
「あなた方をこの場へと集めたのは他でもない。ソネイラルの一件は国家が転覆しかねない一大事であった。改めて礼を言う。ありがとう」
リィナが深く頭を下げるのを見て俺とザンカ、ニャーは少し遅れて頭を下げた。
「このような静かな場で称えることを許してほしい」
女王は立ち上がり、サーヴェリスが持ってきたものを取り出した。
それは金色に輝いていて、この国の国旗が形作られた勲章だった。
サーヴェリスも同じものを付けている。
「これは英雄の証。この国において多大な功績と富、繁栄の光をもたらした者にのみつけることを許されるものだ」
女王自らが俺達の前へと来る。
そして勲章を授けてくれた。
「さて、次の話題に移ろう。アメリアよ」
「はい」
「これから話すことは国家の機密。他言はせぬよう肝に銘じてほしい」
「わかりました」
「この質問にどう答えようと其方らの扱いに何かしらの不利益があることはない。故に嘘偽りなく申してほしい。よいか?」
「はい。仰せのままに」
息をのむリィナ。
「其方は金色の髪をしていたと聞く。しかしソネイラルと対峙した時に白くなったと報告を受けたが誠か?」
「はい。誠にございます」
「であるか……国の象徴たる神器がないのを見るに其方にルクシア様より恩寵があったとみるべきか。どのようなお声を賜わった?」
「ソラさんを……勇者様を守ってほしいと」
「ふむ……これも何かの前触れか」
「前触れ、ですか?」
「魔王二体が討たれ神龍の復活に加えて各地での勇者の召喚と誕生。どれも今起こるにしてはタイミングが重なり合いすぎている」
「もし、メールヴァレイの攻撃が止んでいるのは?!」
「ああ、アヴァラティエスが討たれていた」
「それでは……それではこの戦争は?!」
「残党を討ち次第終わるであろうな」
「よかった……」
「其方らや領主、領の皆にはよく働いてもらったな」
「光栄にございます」
「して魔王を倒した者の名がこれまた偶然かケンジョウ センジュという」
「親父……」
「やはり其方の父親であったか」
「親父は今どこに?」
「残念だがそれはわからない。今や黒の大半がこの一件にかかわっておったのだからな。痛い話だ」
そこで女王は玉座へと戻りゆっくりと座ってから扇をパッと閉じた。
「さて代々アーグレン王家はルクシア様の神使としてきた風習がある。そこでな。天啓を受けし者が現る時、世界を救わんという言い伝えがある」
「天啓を受けし者……それは」
「そう。アメリアの事を指しておる可能性が高い。しかし、これが何を意味するものなのかはわからぬ」
ため息交じりに女王は視線を背ける。
「アーグレン家も時を経るごとに変わってきた歴史があるからな。不甲斐ないばかりだよ」
「いえ、そんなとんでもございません」
「禁門の書庫にて調査を始めてはいるものの手がかりはないのが現状だ」
禁門の書庫。
すごい気になる場所だ。
ここへ来てからというものの勇者についての情報に乏しかったからな。
もしかしたら勇者について何か知れる本があるかもしれない。
「お話の間申し訳ございません。発言をお許しください」
「構わない」
「ありがとうございます。禁門の書庫の立ち入りを許してはいただけないでしょうか?」
「構わないがソラ殿が何故禁門の書庫へと?」
「はい。リィナの事もそうですが私はここへ来てからというものの勇者についての情報が乏しく何か知れたらと」
「ほう。確かに勇者について書かれた本はいくつかあるな。管理してる者に集めるよう命じておこう」
「感謝申し上げます」
女王は何故か扇を口元に持ってきてクスっと笑うのだった。
「どうされましたか?」
「勇者様というのは力のあまり横暴な方を想像していてな。ソラ殿は謙虚なのだな?」
え、こういう時なんて言えばいいんだ。
謙虚というか失礼じゃないかどうかすっごいヒヤヒヤしていたんだけれど。
「い、いや。そんな滅相もございません。偉大な女王陛下の御前で失礼なことなど」
「ふふ、そうか。面白い男よ。主が良ければ第四王女のマリィと婚姻を結ばぬか?」
「へ?」
気の抜けた返事をしてしまった。
コンイン?
婚姻?!
何で婚姻の話に?
それにマリィってあの王女様だよな。
「どうだ? 次期女王にするつもりでおってな。ソネイラルの一件からこの国の思想の在り方を見直す必要ができたのでな。それにマリィには才覚もある」
「ええと。マリィ王女様の気持ちを考えなくては……なんとも」
え、これどう断ればいいんだ。
これまで生きてきて初めての縁談だぞ。
それにソネイラルの一件か……。
「ほう。さすがはソラ殿。愛と守護のルクシア様の下、結ばれ事に愛無き者に光の寵愛はないことをご存じであったか」
「いえ、初耳です」
「ふふ。そうであったか。しかし考えておいてくれ。勇者であるソラ殿が政の内にいるというのはとても心強いのでな」
「あ、はい。か、考えておきます」
「良い返事を待っておるぞ? しかしすまないな。私とて女王。常に国益のことについては考えなくてはならないのだ。許せ」
ああ、なるほど。
そう言えば勇者の存在って国が傾くレベルで大きいって確かルロダンのギルマス、カールが言ってたっけか。
そりゃ何が何でも取り込みたいのではないだろうか。
「はい。ですが女王様のお力なら無理にでもできるのではないでしょうか?」
「ふむ……」
あ、まずいこれは失言だったかな。
「それは買い被りというものだよ。そうだな。仮に……無理にそうしたとして不機嫌ソラ殿から恒久的な利益につながらないだろう」
「女王様のお考えは理解できました」
「けれど気を付けることだな」
「気を付ける……ですか?」
「女というのは強かだよ」
「あ、はい。肝に銘じておきます」
「さて確認したいことと話したいことは済んだ。感謝の意を述べることなく本題に入るわけにもいかないからな。このような場での叙勲となってしまったのは申し訳ない」
「いえ、とても身に余る光栄でございます」
「後日改めて宴を催すつもりだ。詳細は追って連絡をする。それまで城でゆっくりしていてくれ。ではな」
それからシーナ女王は謁見の間から退出する。
それを見届けてから俺達も謁見の間を後にして俺達を案内するために控えていたメイドが待っていた。
「おつかれさまです。お部屋へと案内いたしますのでこちらへ」
言われるがままについて行こうとした時だった。
くいっと袖を引っ張られる。
振り向くと俯きながらリィナ。
「マリィ王女様の事……考えるんですか?」
この瞬間、俺の心にリィナの錫杖が突き刺さるような衝撃が走った。
困り気で不安気な顔。
ああ、ずるい。
こんな顔を見せられてしまえば本格的に意識せざる負えないだろう。
今までこんなシチュエーションはあった。
けどその度にどうしてなのか理解できない。
葉っぱ一枚の変態侍を聖女が好いてくれる理由が見当たらない。
良くも悪くも俺の力は授かりものだ。
これがなくなってしまえばきっと……振り向いてすらくれないかもしれない。
この力がなければこんな出会いはない。
この力がなければ生きていない。
この力がなければこんな人間を好いてくれるはずがない。
俺は本当にどうしよもない。
「断るとさ。角が立つかな? って思って曖昧なことしか言えなかっただけだよ」
「そう……でしたか」
曇りもようから晴れもようとなるようとなった笑顔はとてもまぶしい。
その陰に俺はどうしよもなく藻掻くことしかできないのだろう。
仮に、婚姻の話を考えるとしても俺はもうリィナという聖女の騎士だ。
この関係の行く末がどうであれ妹のヒナも助けるしリィナを守り抜く覚悟はできているつもりだ。




