第93話 謁見
部屋に差した光は静かに伸びる。
さっきまで別の意味で緊張していたリィナの表情は一遍して神妙な面持ちでサーヴェリスから言われたことを教えてくれた。
女王様への謁見。
それはとても光栄なことなのだろう。
話に聞くと女王様はこのアーグレンを治めている最重要人物だ。
そこで、ふと疑問に思うことがある。
「そういえば議会の場にいたのは国王様だったけど女王様が参加されなかったのは何か理由があったりする?」
「そうですね。どう説明したらいいでしょうか……シーナ女王様はルクサーラ様の御使いをされているのです」
「ほー……その役割が忙しいとか?」
「んー……私も実のところ女王様が何をされているのかはよくわからないんです」
「え、そうなんだ」
「私達が女王様をおみかけできる機会といいますとルクサーラ神様の生誕祭に王都各地の教会に巡礼でいらっしゃる時くらいですからね」
「へぇ」
そんな感じじゃ知らないのもそうなのだろうか。
「女王様は基本的にはお城にいらして神の使いとして国をお導きくださると聞いてます。そしてそれを繋ぐのがセドガル国王様です」
「なるほど……祈りや祭司の中心が女王様で内政は国王がしているってところか」
「そうですね。ですが地位はアーグレンで一番身分の尊いお方です」
「それは緊張するな」
「そうなんですよぉ……万が一女王様の前で粗相をしてしまうようなことがあれば大変です」
俺とリィナはそっとザンカの方を見た。
呑気にあくびをしながらお腹を搔いている半裸。
「ん? なんだ?」
俺とリィナの視線に気づきザンカが寝ぼけたように話す。
礼儀正しくすると言う所から程遠そうな奴だ。
「勇者一行は女王様へ謁見するよう言われてます」
「ということはザンカもってことか」
「はい」
「んー……」
それからどうしたものかと悩みながら朝食の時間。
まるで高級ホテルのような居館。
そして高級レストランのような食堂。
長机に並べられる食事はどれも豪華だ。
待遇が破格になっているのがわかる。
両隣にはメイド達が立ち並び俺達の食事の世話をする。
様式はフランス料理のような前菜から始まるような形式だった。
朝からこんな食べられないよと思いながら次々と運ばれてくる料理のおいしさに舌鼓をうった。
「なぁ。あんた達も食べないのか?」
そこへいらぬことを言うザンカ。
「大丈夫だにゃ」
「そうなのか? 見てるだけだからなんだか落ち着かないんだ」
「あの方達は、ここのお店の人なのにゃ。これは仕事なのにゃ」
「へぇ。立ってるだけってつまらなさそうだけどなぁ」
ごくごくと水を飲み干すニャー。
「ザンニャ。失礼なのにゃ。お水をくださいにゃ!」
「はい。おまたせしました」
またされることなどなくニャーが言い終わる前に即座に現れ水をそそぐメイド。
できる。
「そういえばルチアはどうしたんだ?」
「ルチアは今頃、修道院にいると思います」
「修道院?」
「はい。四天の守護柱であられるエトレア様にお会いして私達がここにいる間、お手伝いをしつつ修行を見てくださることになったみたいなんです」
「へぇ。頑張るなぁ」
「はい。私もがんばらなくちゃですね」
「……ああ、俺もそうだな」
本当にそうだ。
俺はソネイラルと戦った時に言われたことを思い出した。
『技こそ達人の如き洗練さはあるものの剣事態は素人のそれです』
実際のところ俺は刀の記憶と召喚されたスキルのようなもので生かされているに過ぎない。
どれも俺の実力じゃない。
もしも……仮にだ。
万が一この力がなくなった時に俺はどう生きていけばいいのだろうか。
今は何とかなっている。
でもいつかそうでなくなる日が来るかもしれない。
そんな日が来た時に俺はリィナを守れるだろうか。
リィナの気持ちに気づかないなんて初心な歳ではない。
決心して向き合わないといけない。
けど、今の俺に彼女の隣で胸を張って立っていられるだけの価値があるのだろうか。
はなはだ疑問だ。
俺自身もっと強くならなくちゃならない。
この先の旅も今回のように悪戦苦闘を強いられることが多いだろう。
料理人がせっかく腕をふるってくれているというのにまったく情けない勇者だよ。
そんなことを思いながら食事を終えてから食堂を出ると黄色い髪のメイドがいた。
「おはようございます」
軽く挨拶を交わした。
かしこまるリィナとニャーに反してザンカは相変わらず「よぉ」と言っている。
「勇者様、アメリア様からお話は伺っておりますでしょうか?」
「聞いてます。女王陛下がお呼びになられてると」
「はい。勇者様においでいただくこと大変恐縮ではございます。これよりシーナ女王陛下の元へとご案内させていただきますがよろしいですか?」
「はい。大丈夫です」
にこっとお辞儀をしてからメイド。
「こちらへおいで下さいませ」
それからしばらく廊下を歩き庭園を抜け階段を上がるなど結構城の中を歩かされた。
外観もそうだけれど中も結構迷路のようになっていて案内がいなきゃ迷ってそうな構造だ。
そして大きな扉の前へとたどり着く。
「中へとお入りください。じきにシーナ女王陛下がいらっしゃいます」
「案内ありがとう」
そう伝えると笑顔でメイドは答えた。
「もったいないお言葉です。では」
ゆっくりと重そうな扉を開けてくれて中へと通される。
赤い絨毯が中央から一つの玉座へと向かうように伸びている。
ここからあそこまでの距離はそうない。
けれど遠く感じる程に偉大な空間だ。
綺麗な装飾にカーテン、窓からこぼれる光がより美しさを際立たせている。
まるで絵画の中にでも迷い込んでしまったかのような錯覚を起こしてくる優美さ。
すると奥よりサーヴェリスが現れた。
「ソラ殿、そして勇者一行よ。よくぞいらしてくれた。無事で何よりだった」
「サーヴェリスさんもその後はどうですか?」
「なに、まだ魔力は戻り切ってはいないが大したことはない。それよりもソラ殿の活躍見事だった。礼を言わせてほしい。ありがとう」
深々と頭を下げるサーヴェリス。
こういう時はなんて言ったらいいかはわからない。
「いや、んー。どういたしまして」
すると奥の扉が開く。
「女王陛下入場!」
その声に反応して即座にサーヴェリスは膝をつき、リィナは正座をして頭を下げるのだった。
「ん? んん?」
戸惑うザンカ。
気づくとニャーはサーヴェリスと同じような姿勢をとっている。
できる猫はやっぱり違うな。
とりあえずザンカに俺は小声で言う。
「あの人のマネをしよう」
「お? おう」
そして俺とザンカは片膝をついて女王が来るのを待つのだった。
静かな空間に響く一人の足音。
ゆったりとそれが中央で坐したところで威厳ある声が響いた。
「面をあげよ」
綺麗な白いドレス。
リィナや教会のみんなが来ているような修道服のドレスバージョンみたいなものを身にまとっている。
肩にかかるほどの短い白い髪にきりっとした決断力のある目。
黄金の錫杖を横に立てかけ女王はじっくりと俺達を見ていた。
「私の呼びかけに応じよく来てくれた。私はシーナ・ベル・アーグレン。此度の戦い大義であった」
あの国王とは一段階違う覇気のようなものが緊張を生む。
「さて勇者殿らの名を改めて聞かせてもらおう」
「カタナシ ソラです」
「ニャー。真の名をロイ・アスラ・ニャステンブルクと申すにゃ」
「ケンジョウ ザンカだ」
この女王の圧の前によくため口でいられるもんだとある意味ザンカを関心してしまう。
続いて女王は懐より扇を取り出してから口元を隠して続けるのだった。




