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第92話 贅沢な目覚め

 目が覚めるとそこは見慣れない天井があった。


 異世界へ来てなんどこの体験をしただろうか。


 というより気を失いすぎてはいないだろうか。


 動かせばきしむようなガッチガチの体を起こす。


「あぁ……」


 すっごい体がバッキバキに固まっているのに違和感を覚えるがあれだけの激闘のあとなのだからしょうがないのだろう。


 上質なふかふかのベッド。


 絢爛豪華な調度品のある部屋。


 ここは王城のいいところの部屋なのではないだろうか。


 そして右手にぬくもりがあるのを感じてその正体を見るとリィナがいた。


 どうやら俺の手を握りながら寝てしまっているようだ。


「心配かけちゃったようだな……」


 握ってもらっている手をゆっくり離す。


「んん……ん?」


「あ、起こしちゃったか。おはようリィナ」


「ソラ……さん? ソラさん!」


 それから俺は一瞬なにが起こったのか整理できないでいた。


 急にリィナに抱きしめられてしまったのだ。


 やばい寝起きで美少女に抱きしめられるとかどんな贅沢な目覚めなのだろうか。


 暖かなぬくもりと良い匂いに包まれる幸せはひどく俺の判断を鈍らせる。


 心配をかけてしまったという気持ちに反して溢れ出る下心を俺は殺した。


 どうしよもないけれど本当にそういうことを考えている時ではない。


「ど、どうした?」


 恐る恐る聞いた。


 すると震える声が返ってくる。


「よかったです……もう目を覚まさないのかと思いました」


 目を覚まさない?


 俺はいったいどのくらい寝ていたんだろうか。


「え、えと……状況がわからないんだけど。もう、いいかな?」


「あ、えと。ええっと!」


 リィナは顔を赤らめながらさっと離れる。


 それから自分が何をしてしまったのか理解したようでもじもじしはじめてしまう。


 かわいいやつめ。


「あの。その、えっと……すみません」


 謝られてしまった。


 こういう時はどう返せばいいんだ。


 ぎこちない互いの沈黙が恥ずかしさに拍車をかける。


 なんで俺まで慌てなくちゃならないんだなんて思いながら咄嗟に口にしたのが「いや、ありがとうございました」だった。


「え? あ、はい! いいえ、どう……いたしまして?」


 暗がりの部屋に差す光。


 窓の外は夕方なのか夜明けなのかもよくわからない。


 ふとベッドの片隅を見るとニャーが丸まりながら寝ている。


 とうとう気配でザンカもどこかにいるのかわかってしまうのがなんだかやだ。


 あいつも心配してここにいてくれたのだろうか。


 だとしても……


 そんなことを考えている間にリィナ。


「ソラさん……3日間ずっと起きなかったんですよ?」


「3日?!」


「それに体中の至る所から血が流れててもう私どうしたらいいかわからなくって……」


「体中の至る所から?!」


「はい……」


 とんでもないホラー展開があったようだ。


 血まみれで気絶した葉っぱ一枚の男とかもはや妖怪の類だろう。


「なんども治癒の奇跡を行使しました。でもずっと目覚めなかったんです」


「そして今に至るわけか……ごめん。ほんと心配かけちゃったな」


「でも、こうして起きてきてくれてとてもほっとしました」


「ああ、本当にな。ありがとうな」


「はい!」


 この改めてのありがとうは純粋に感謝を伝えることができた。


 窓から差し込む光が強くなる。


 そしてリィナの白くなってしまった髪を見て聞く。


「リィナの髪……」


「ああ、これは私もよくわからないのですが……」


 それからリィナはこうなってしまった経緯を話してくれた。


 俺がソネイラルと死闘を繰り広げていた時にルクサーラ様の御神体に触れたことでこうなってしまった事。


 八翼の翼のひとかけらとルクシアと名乗ったルクサーラ様が俺の刀にいるという彼を支えたいと言っていた事。


 今すぐに刀の中にいる彼とやらを起こして聞いてみたいところではあるものの刀から声らしい声は聞こえない。


「そうか。じゃあルクシア様のその力のおかげでソネイラルの攻撃を防げたのか」


「はい。まさか強固な光のルミニ・マルスがあんなにあっさりと割られてしまうだなんて思いもよりませんでした」


「そうだなぁ……でも俺もダンテと戦った時にいた聖女が張った光の壁を壊していたから珍しいことじゃないのかと思っていたよ」


「ソラさんとソネイラルさんがおかしいんですよ。そもそも光のルミニ・マルスの防御は絶対なんですよ?」


「ほぉ」


「王都を囲う光のルミニ・マルスを割るのにメールヴァレイ側は入念な準備と強大な魔力を消費してようやく壊したとのことでしたから私の未熟な奇跡だからとはいえ壊れるのはおかしいんです」


「そうだよなぁ。それで安全な生活が保たれているんだもんな。簡単に壊されちゃたまったものじゃないよな」


 リィナの白くなった髪を見つめる。


 まるで極上の絹のような綺麗な髪だ。


 ちょうど妹のヒナと同じ髪色になったといったところか。


 急に地毛の色が変わるってどんな心境だろう。


 そんなことを考えているとリィナは目を背けながら言う。


「白い髪は……変ですか?」


「変? いやめちゃくちゃ綺麗だよ」


「な?! 綺麗?」


 綺麗と言われて驚く初心な表情。


 これだけかわいいのだから言われ慣れているんじゃないかと思ってしまうが案外そうでないところがまた可愛らしい。


「っふ。やっぱりリィナはリィナだね。見た目は変わってもなんだかリィナって感じがするよ」


「ちょっと! それはどういう意味ですか?!」

 

 暗がりの部屋の中でそんなやり取りをして過ごす俺とリィナ。


 それから部屋に差し込む光が徐々に強くなり朝を迎えていることがわかる。


 その光でニャーが大きくあくびをしてから目を覚ました。


「にゃ! ソラが起きてるのにゃ!!」


「おはようニャー」


「おはようなのにゃ! よかったにゃ。無事にゃ!」


「心配をかけたな」


「まったくにゃ。ニャーがソラを運んだ時にあっちこっち引きずってぶつけたせいだと思って肝が冷えたのにゃ!」


 きっとそのせいもある気がしてきた。


 そしてベッドの下から声がする。


「ふああ……もう朝か?」


 ゴンっとベッドに頭をぶつける音がした後にのそのそと這い出てくる。


「な?! ザンカさんそんなところで寝ていたのですか?!」


 リィナの驚愕する顔に思わず笑う。


「なんで驚いてるんだ?」


「お、驚きますよ! 昨日、急にいなくなったと思ったらずっとベッドの下にいたのですか?!」


「暗くて狭くて落ち着くんだよ」


「ザンカはいつも床で寝てるよな。せっかくなんだしふかふかのベッドで寝たらどう?」


「んー。なんか落ち着かないんだよなぁ。すっごい快適で気持ちいいんだけどさ。なんか違うんだよ」


「なんか違うってなんだよ」


 ザンカとニャーが顔を合わせてお互いに「おっす」と挨拶を交わしている。


 なんだかんだで仲が良い。


 それから唐突に思い出したかのようにリィナ。


「そうでした! みなさんお話があります」


「ん? どうしたんだリィナ」


「ソラさんの目が覚めたらシーナ女王陛下に謁見しに来るようにってサーヴェリス様に言われてるんです」


「女王陛下に?!」


「はい。今回の件のことでお話があるんだと思います」

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