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第91話 残る意思

 消息不明となったエリゼ。


 四天の守護騎士も同じく消息不明となり調査隊が派遣されることになった。


 その結果。


 私の目の前にエリゼの遺体が届けられた。


 存在を確かめられる臨天の指輪に彼女の温盛はもうない。


 互いの絆が途絶えたりした時、その力を失う。


 ルクサーラ様の加護を増幅させる魔装具は冷たくなっていた。


 何も感じられなくなった時に私は覚悟していた。


 覚悟はしていた。


 けれど、現実を直視すると途端に心は崩れる。


 わかっていた。


 もうこの世にエリゼがいないことを。


 それからの私は抜け殻のように過ごしていた。


 数年後。


 彼女の墓の前で私は祈りを捧げていた時だった。


 一人の男が私の元を訪ねる。


「あなたがソネイラル神父様……ですね?」


「ええ。そうですが」


 訪ねてきたのはサムエラ・コルラッド。


 ノードランド家の騎士を務める名家コルラッド家の者だった。


 そこで私はエリゼの死についての真実を聞かされることになった。




────刀と剣は止まることを知らない。


 そして互いに一撃をいれた瞬間、時が止まったかの様に転がり込んだ。


 互いに息を切らしている。


 全力でぶつかりあう戦いの中でソネイラルは心から漏れ出るように話をした。


 その様相は必死に戦い死闘を演じているものではなくどこか懐かしむような顔をしていた。


 アーグレンでの差別やそれらを是正するべくルクサーラ神の愛の理想を夢見た女性の話だった。


「旅の途中、竜に襲われたみたのです。エリゼと当時の四天の守護騎士はそれで死亡したと報告を受けました。けれど真実は命からが生き延びたエリゼを貴族ノードランド家のアルドレードが捕縛し弄び殺したというものでした」


「ひどい……」


 涙を浮かべるリィナ。


「嘘だと思いたかった。ですが探せば探すほどに出てくるのです。彼女が必死に生きようとした痕跡が」


 うっすらと笑うソネイラルの頬に涙が滴り落ちる。


「不思議なものですね。もう復讐すべきノードランド家は滅ぼしたと言うのに私の中の激情は消えないのです。最期にその事件を起こした当人はなんて言ったと思いますか?」


「……さあな」


「誤魔化すこともせず悪びれもなく下等な獣を殺して何が悪い。だそうですよ」


 何も言えなかった。


 ソネイラルがどうして戦っているのかを知ってしまった。


 俺の刀に戦意はもうない。


「長話がすぎましたね。私の魔力は、もうわずかです」


 浮かべていた剣が静かに落ち血が流れ出たままとなっていた。


 いつの間にか天使のような輪もなくなり翼は抜け落ちている。


「なあ」


 俺の呼びかけを遮る様にソネイラルは立ち上がった。


「ルクサーラ様がいらっしゃるのでしょうか……どうしてこうも話してしまったのでしょうね。ですが、これはどちらかが最期まで立ち上がっていた者が勝者となる戦いです」


「……」


「国をも亡ぼす破壊の神の奇跡。聖者の行進は私の命を代償に動いています。どのみち私を殺さない限り天使達は湧き続け人々を殺して回るでしょう」


「何か……何か他に道はないのですか?」


 涙ながらにリィナ。


「こんな人間に涙をながしてくれるのですね。最期に彼女の愛した国となれる希望があるのです。未練はありませんよ。ありがとう」


「あんたの目的って」


「さあ、構えなさい。最大限の力をもってあなたを屠ります。あなたも死力を尽くしてきなさい」


「……わかった」


 互いに残る体力はこの一振りのみ。


「ソラさん!」


「リィナ……覚悟を決めよう。どのみちソネイラルを倒さない限りこの騒動は終わらない」


 刀を強く握った。


 ソネイラルは光る剣を再び顕現させ大きく振りかぶる。


「さあ、全力できなさい!!」


 気が進まない。


 けれど俺はやらなければならない。


 俺は今日。


 一人の理想に生きようとした偉大な男を殺す。


 左手で顔を触った。


 相手が全力をもってやっている。


 もうリスクを負えないからと出し渋れない。


 振り絞れ俺の全力をもってソネイラルの全力を受け止める。


 深く構える。


「零式の型。四型……」


 全身に血が駆け巡る。


 胸がとてつもなく痛い。


 心臓が爆発してしまいそうだ。


 一瞬で視界が白黒になる。


 その中でもソネイラルの剣が異常な輝きを帯び始めているのがわかった。


 次第に温まる刀と同時に赤く染まる視界。


 そして互いの技が臨界点に達っするのを感じ放った。


零閃ぜろせん


「断罪ノ天剣だんざいのてんけん!!」


 それらがぶつかりあい、俺の意識ごとすべてを吹き飛ばした。


────どのくらい時間が経ったのだろうか。


 目を開けると倒れているソネイラルがいた。


 そしてサンレリアス大聖堂が崩れはじめていた。


 アーグレン国を一望できるほどの大きな建物が崩れる。


「ソラさん!!」


 体が動かない。


 薄れゆく意識の中でソネイラルのそばに立つ一人の男がいた。


「ありがとうございます」


 崩れ行く中で、その男はそう言った。


 天上が崩れ大きな瓦礫が俺達を押しつぶそうとした時だった。


 二つの赤い軌跡が瓦礫にぶつかった。


「ナイツ・ベレスカ!」


天蓋落花てんがいらっか!」


 ニャーとザンカだった。


「あーもたもたしてたせいで到着早々終わりかよ」


「ごめんにゃ。遅れちゃったのにゃ」


「ニャーさん! ザンカさん!」


「おいおい?! ソラが倒れてるぞ。死んだか?」


「にゃあ?! ほんとにゃ! ど、どどうするにゃ?! リィニャ治癒にゃ! ってリィニャ?! なんで白髪しらがになってるのにゃ? 老けたにゃ?」


「老けたって失礼じゃないですか?!」


「そんなことしてる場合じゃないだろ……」


「あ、まだ息があるな」


「ソラさんはまだ死んでません!」


「ニャーさん、ザンカさん脱出しますよ! ザンカさんはあちらの二人を運ぶのをお願いします」


 リィナは倒れているステファンとノルンを指差した。


「ああ、わかった」


「ニャーさんは……重いと思うのですがソラさんをお願いします!」


「わかったにゃ!」


「サムエラ様もソネイラル様を!!」


「いえ、私達はここに残ります」


「それでは助かりませんよ?!」


「もとより助かろうなんてつもりはありません。この国の意識が少しでも変わることを祈ってます。そのために私たちは決起したのですから」


 柱が次々と崩れて倒れる。


 それらがサムエラ達を覆いつぶしてしまった。


「リィニャ早く行くにゃ!!」


「……わかりました!!」


 ニャーが俺を引きずり回す。


 そして瓦礫に頭をぶつけて気絶したところが俺の最後の記憶になった。


 その日、サンレリアス大聖堂が完全に崩れ落ちた時に天使達が光の粉へと変わり天へと舞い上がったのだそうだ。


 たくさんの犠牲となった命がまるで天へと昇っていくような幻想的な光景を作り出した。


 この一件はアーグレン国を揺るがす大事件として記録されることとなる。


 大規模なクーデターを首謀したソネイラル・ウル・イズリールは死亡。


 共闘したサムエラ・コルラッドは行方不明。


 黒の面々も一部拘束されたものの大半が逃げ出すか死んだ後だった。


 王都の下水通路にて天使召喚に使われただろう生贄が多数発見され、たくさんの黒の死体があったとのことだった。


 ソネイラルの思惑はいったい何だったのかはわからない。


 こんなことを自分の激情のまま起こして終わるような男ではないだろう。


 残した物と言うと他種族への迫害がもたらした晴天様の再来としてひどく国中を騒がせた。


 その後、マリィ王女が主体となり国民の意識改革が行われ他国と良好な関係を築ける国へと変わっていくのは別のお話。


 愛と護りの女神の元で国を憂いた人達が織りなす物語。


 その愛は時として憎しみへと変わる。


 強い思いに焼かれた男がアーグレンを傾かせる計画がここに幕を閉じる。




 第四章 傾城傾国の女神 完。

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