第88話 破滅の光
ソネイラルの体は変化していく。
右目に紋様のようなものが現れ3枚の白い翼が背中から突き出る。
まるで天使のように頭上に輪を出現させさっきの天使みたく目のついた輪が体の周囲を衛星のようにくるくると囲んでいる。
「なんだあの姿?!」
「わかりません。まるでソネイラル様の体が天使と合わさっているような……」
「そうだな。姿形はもうさっきまで戦ってた天使と似ている」
「ソラさん。こちらは任せてください」
「わかった」
「ソネイラル様を……止めてください」
「やってみる」
ソネイラルの頭上に光輝く剣が次々と展開されていく。
さっきよりまずいんじゃないだろうか。
「さあ、私に信じさせてください」
何を信じさせろって言うんだ。
けれど、ここで一つ確信めいたものがある。
ここでどちらかが倒れるまで戦って勝った者が全てを制すると言うことだ。
鞘を軽く前に突き出し持ち上げ刀を握る。
緊張の一瞬。
大きな瓦礫が大広間へと落ちて戦いは始まった。
光速の如き速さで光の剣が命をもぎ取らんと迫る。
勢いよく引き抜いた刀。
切っ先を剣へ当て重心をずらしてやり過ごす。
光の剣は地面へとぶっ刺さり深く食い込んでいた。
当たれば即死だろう。
そして次から次へと宙に浮く剣が迫る。
いなし、避け、体勢は崩さず剣の隙間を搔い潜りソネイラルと斬り合った。
空間を抉るほどの斬り裂きは凄まじい。
自身の体勢を落ちるようして避けてから突きを放つ。
しかし飛んできた剣に阻まれてしまった。
「な?!」
ということは……。
背後から空を切る音が迫る。
「ソラさん!!」
身体を捻って刀に重みをのせる。
「紫電華撃!!!」
2本、3本と剣を弾いてから間合いを詰めてソネイラルと斬り合った。
初めての鍔迫り合い。
両者拮抗した力。
外見にそぐわず、ずいぶんな体力を持っている。
「ホーリークロス」
ソネイラルがそう呟いた途端に頭上より大きな十字架が迫る。
「まじか」
力を抜いて鍔迫り合いの反動を利用して後方へと飛ぶ。
追撃してくる剣を避けては叩き落とし大きな十字架が地面へと突き刺さった。
舞い上がる煙。
それが晴れゆっくりとソネイラルは姿をあらわにする。
「剣を交えてわかりましたが……あなたは本当に恐ろしい人ですね」
「それ、あんたが言うか?!」
「そうでしょうか? その剣と技。技こそ達人の如き洗練さはあるものの剣事態は素人のそれです」
「っく……」
そのとおりだ。
この世界へ来る前は刀なんて握ってこなかったんだ。
今日までずっと何かに突き動かされているかのように戦ってきた。
うまくいってたのなんて奇跡みたいなものなのに。
俺は俺がおかしいと感じてる。
命を落とすかもしれないのに恐怖を感じない。
なんとか取り繕うように鍛錬と称して刀を振ってみてはいるものの肝心なところで刀は教えてはくれない。
「だから思うのですよ」
ソネイラルは続けながら迫る。
こんなばっちばちに斬り合ってる中でそのまま語る。
「技量にそぐわない身のこなしが、この上なく恐ろしく希望を私に魅せてくれるのです」
「希望?」
「まるで何十、何百、何千と死んで培ったかのような身のこなし……私もこの目を持ってしてようやくわかりました」
「何を言っているんだ」
「この目は破壊の神が見る世界の……言わば現身のようなものです」
「現身?」
「はい。ですが神の御業を似せるなど本来であれば烏滸がましい所業ですよね」
「だからなんだ?!」
「私の一手一手は必中のはずなのですがね」
するとソネイラルは後方へと飛び宙を舞う剣をひらひらと花びらが落ちるように操る。
そして準備が整ったと言わんばかりにすべての剣が俺へと迫る。
「この神の剣は断罪するべく動きます。にも関わらずです。あなたは全てを斬り伏せ向かってくる。恐ろしい意外に形容する言葉などないでしょう」
何が恐ろしいだ。
俺は普通に見ていなして避けてをしているに過ぎない。
けれどこの剣の数をさばき斬るのは難しい。
俺の隙を否応なしについてくる。
「ルミニ・マルス!!!」
リィナが光の壁を出し援護をしてくれる。
とても的確だ。
まるで俺の窮地を直感で感じているようだ。
しかし、剣の威力は凄まじく数度ぶつけられた途端に割れてしまう。
それからソネイラルは高く飛びあがり何かを唱え始めた。
「いと尊き偉大なる御神よ。全ての祖となりし生まれ出は其方の偉大なる御業。その御力を顕現させ矮小なる我が身に天の帝たる力を授け給え」
左手をこちらへと向けて直視できない程のとてつもない光が満ちている。
まずい。
何か手立てはないか。
またあの仮面の力を。
いや、だめだ。
あいつがあの仮面をつけていられる時間は5分と言っていた。
さっきの戦いでどうして5分なのかを思い知らされたのにまた使うのはリスクが高い。
つけ続けると確実に心が蝕まれる。
体を食い殺される。
でも。
後ろにいるリィナを見る。
恐ろしいものをみる目でもなく不安そうにしているでもなかった。
悔しそうな顔をしながら詠唱を始めていた。
「いと尊き御神よ。導かれし我らが大切な子らに慈悲深き光の恩寵を顕現させ給え。ルミニ・マルス!!」
あきらめていない。
リィナの懸命に唱えられた光の厚い壁が展開された。
俺が迷っていてどうする。
守ると決めただろう。
ソネイラルの力は異常だ。
この熱い壁ですら耐えられるという確信は得られない。
いや、破壊できるだろうとふんでいるから詠唱を続けているのだろう。
左手で顔を拭い再び仮面を出す。
『ほほう。もう出番かえ?』
謎の女の声。
ああ、出番だ。
ここで終わるわけにはいかないんでね。
右手に刀を持ち左手に脇差を握る。
順手に逆手。
その持ち方を刀が教えてくれる。
ふと目の前の景色が変わる不思議な感覚に襲われた。
そこは静かな野原だった。
刀を取り合っているのは親子にみえる二人。
「刀は相手を斬るために使うだろう?」
「そりゃそうさ。おらはこれで悪い奴を斬るんじゃい」
「だめだぞ──や。奪うためだけが全てではないのだぞ?」
「じゃあなんのための刀だってんだ!! あいつらは奪う!! おらはそれが我慢ならねえってんだ!!!」
「視点を変えるんだ」
「視点?」
「磨き方次第であの破滅の光をも跳ね返せるだけの力をもってんだぜ? そりゃおめえなんだって守れる可能性を秘めてるってもんだ」
「へぇ。あんなの逃げなきゃ一瞬でおっちんじまうってのに立ち向かうのか?!」
「ああ、それでだ。今からおめえに立ち向かう技を教えてやろう。ありがたく思え?」
「おうさ! なんだってやってやる! ──を悲しませるような奴らなんておらがやっつけちまうんだ」
「お前はもうちょっと慎みを持て」
「それ──には言われたかねえ」
「はっはっは!! そうだな。これはお前に必要な技だ。その技の名は────」
この感覚にはもうなれたかもしれない。
一切合切を飲み込まんとする光が収束しているのが見える。
「葬光」
ソネイラルの左手より幾重にも重なった魔法陣からとてつもない光が爆音と共に放たれる。
光の壁にぶつかる。
何とか耐えているが次第に厚い壁はガラスのようにひびが入る。
「ソラさん。ダメです! 逃げてください!!!」
『ここで逃げたら男が廃るぜ?!』
なんだこの言い回しは。
だがしっかりと、はっきりと覚えている。
受けし右、散らすは左。
刀という絶対的な暴力で護る矛盾を覆した崇高な技。
「廻舞晴嵐!!」
光の壁が爆散し迫る光線。
攻撃の主体となる流れが無数にある中の一点を捉えて逃がして捌く妙技。
回転する右手と左手。
とても熱く両手の感覚が薄れていく。
俺は思わず叫んだ。
散り散りになる光。
弾かれた光線がサンレリアス大聖堂を次々と破壊していく。
次第に光は止みソネイラルはゆっくりと地に足をつけた。
「おやおや。まさかこれも防がれてしまうとは……」
体が熱い。
頭がぼーっとする。
気が付くと仮面はまたぼろぼろと剥がれ落ちてしまっていた。
刀を杖にして呼吸を整える。
「もう限界のようですね?」
「まだ……まだまだ!!」
その時だった。
後ろで何かが崩れる音がしたのと同時にリィナの悲鳴が聞こえた。
「リィナ?!」
よろける体を必死に動かすもソネイラルに邪魔をされる。
「さて、まだ動けるのであれば斬り合いましょうか」
光る剣が俺に向けられる。
そしてすぐにリィナの声が聞こえてきた。




