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第86話 魔の片鱗

「怨敵に見初められし者らよ」


 機械音が響く。


「主はのうのうと生き抜く仔羊どもが不快であると仰せである」


 まさか会話ができるとは思わなかった。


「それでどうするって?」


「抵抗せず贄となれ。世の調停のため糧となること誇りに思うがよい」


 すると宙に浮いた槍が分裂し3本に増えた後に静かに唱える。


「サルヴァート」


 即座に構える。


 まずい。


 あの重さの槍に3人を守れるのか。


「ルミニ・マルス!!」


 リィナの光の壁に阻まれる槍。


 しかし槍の勢い止まず光の壁は徐々に崩壊しかけてしまう。


「だめ! 逃げて!!」


 リィナの声。


 迫る槍。


 奥でニャーがこちらに気づいて戻ってこようとしているのが見える。


 リィナを狙う槍だけでもと動く。


 けれど間に合わない。


 そしてリィナと目が合った。


 互いに考えてることは同じだったようだ。


 だめだ。


 その瞬間だった。


『早いのう……』


 頭の中に響く女の声。


『我を起こすが良い』


 そう呟かれ無意識に俺は顔に手をかざした。


 知らない男の声が頭の中に響く。


『天に抗いし者よ。不満、不条理、不公平、不平等の理に異を唱えよ。偽りの調和をもたらさんとするかの者らの傲慢な思想に刃を向け解放せよ』


 知らない景色。


 倒れていく人達。


 それら全てが頭の中をかき乱す。


 熱い何かが胸から溢れ出る。


『世を律せよ。我らは神殺しを成さん』


 抜刀の姿勢。 


零式参型ぜろしきさんがた


 飛び出すは斬撃の波。


 飛んできた槍を払いのけることに成功する。


 同時に槍投げの要領で刀を投げた。


────俺はいったい何をしているんだ。


 天使は避ける。


 不敵に笑う天使は大剣を振り上げ迫ろうとした。


────こうするのが正解だと体が動く。


写身月光うつしみげっこう


 そう呟くと刀のある位置へと俺が転移した。


────気持ち悪い感覚に襲われる。


『良い。そのまま刀に身を預けよ』


 俺を見失う天使。


 そこに数撃、刀を振り下ろす。


 白い鎧に傷をつけ地面へと叩き落とした。


 負けじと天使は態勢を立て直す。


「サルヴァ―ド・マニピュレート」


 自在に槍を操り俺へと飛ばすが関係ない。


 俺はまた刀を投げ即座に転移し間合いを詰める。


 しかし今度は転移先を読まれ天使は構えていた。


『これしきで止まる主ではなかろうて』


「ムーン・スラッシュ」


 光る剣が信じられない速度で振り降ろされる。


 矢無負えず転移した俺はそれを受け止めはじき返す。


 すると大地を両断するほどの斬撃が飛んだ。


 その先にいた天使達は瞬く間に斬り飛ぶ。


 追撃の横薙ぎ。


『ここで主の目が活きるか』


 俺はひらりとかわして体を捻らせ回転し刀に勢いを持たせた。


 そして羽へと突き刺さりそのまま斬り裂く。


 羽を切り取られ体勢を崩したのか天使に隙ができる。


雷電らいでん


 上段より魔力を込めた渾身の振り下ろし。


 天使の腕が吹き飛ぶ。


 しかし、まだ握られた大剣が俺を切り裂かんと迫る。


 細い刀が対するには大きすぎる剣を圧倒した。


 力が湧き出てくる。


 幾度も周囲を鳴らす激しいぶつかり合い。


 両者が立っている以上。


 終わることはないだろう。


 何度も迫りくる槍を見送り大剣を受けてはいなす。

 

 大きく振りかぶられた刀と大剣がぶつかり後ろへと飛ぶと天使は剣を高らかに上げ唱える。


「ジャッジメント・スラッシュ」


 瞬間、とてつもない光の筋が天上へと届き振り下ろされようとしていた。


『さあ覚悟を決めるが良い』


 ここで終わってもいい。


『そうじゃ終わっても良い』


 俺の大切を奪おうとしたのだから。


『奪う者を許すでない。全てを壊し尽くすのじゃ』


 全力で屠ろう。


 もはや怖い物なんてない。


桜花命天おうかめいてん!!」


 決死の覚悟が生み出す命を差し出す技。


 世界から色が亡くなっていく。


 心臓が加速していく。


 全ての臓器に力が行きわたる。


 鼻血が落ちる。


 目からも流れる。


 刀を背後へと隠し上下左右のいずれからも来ることを悟らせないよう忍ばせる。


 天使の味方も敵も分け隔てなく斬り飛ばすように振り下ろされた大剣ごと捉えた斬り上げが決まった。


明星昇閃みょうじょうしょうせん!!


 天使は瞬く間に半分に断たれた。


 終わった。


 まだ頭の中で声が響く。


『まだ残っておるぞ?』


 そして俺は即座に間合いを詰めて天使の喉元へと刃を突き立て────


「ソラさん!!!!」


 その声を聞いた瞬間、色が戻った。


 まるで時間が止まったかのようなひと時。


 柔らかい感触が背中にあたるのを感じた。


 俺はいったい何をしていたんだ。


 仮面がぽろぽろと崩れ落ちていく。


 気が付くと羽織を身に着け脇差が腰にくくりついていた。


「リィ……ナ?」


 俺は鼻についた汗を拭う。


 しかし、それは汗ではなく血であった。


 誰のだ?


 いや、俺?


 顔にも違和感がある。


 濡れている?


 涙……?


 いや血だ。


 目の前にいるあの絶望を感じさせるような天使はもうボロボロになっていた。


 羽は斬られ大剣は転がり落ちて体は半分になっている。


 石膏が崩れたようにボロボロだ。


 横からサーヴェリスが歩いてきた。


 サーヴェリスはゆっくりと剣を振り下ろし天使の首めがけとどめをさした。

 

「無理をさせてしまった。おかげで助かった」

 

「いや、俺は……っく」


 その時、胸に強い痛みが走りしゃがみ込む。


「ソラさん?! どうしましたか?!」


「……わからない」


 慌てるリィナ。


「えと! ええっと?! 今! 治癒の奇跡をしますね!! 遍く光の主神よ。奇跡を私の手にもたらし、かの者に治癒の恩恵を与え給え。サンテイル」


 暖かな優しい緑色の光。


 重い体が軽くなるのを感じる。


「ありがとうリィナ」


「いえ……」


 治癒の間、しばらく沈黙が続いた。


「私、ソラさんがどっかへ行っちゃうような。そんな感じがしました」


「うん。俺もリィナに呼ばれるまで我を忘れていた」


 一瞬の心の揺らぎだ。


 リィナを傷つけられた恨み失ってしまうかのような焦燥感や怒りが一気に爆発して妙な衝動に駆られた。


 あの面はいったい何なんだ。


 もう考えたいことや知りたいことだらけだ。


 ニャーは事が済んだのを見るや否や天使達を食い止め続けている。


 ひたすら斬って斬って斬り続けている。


 ザンカはこちらを気にすることもなくひたすら天使達を砕きまわっていた。


「すまないがソラ殿。まだ動けるか?」


「ああ、動ける」


「ならば……上にいるソネイラルを討ってほしい」


「それはかまわないが……」


「わかっている……自分でも情けない」


「そういうわけで言ったんじゃないぞ?」


「あの天使との戦いで私の魔力は底をついてしまったんだ。多少の戦力にはなるやもしれないが正直足手まといだろう」


「そうか……」


「ああ、すまないが私は下で国防の指揮をとることにする」


「わかった」


 それから無双しているニャーとザンカを見るサーヴェリス。


「あの二人は君の仲間か?」


「ん? そうだ」


「これが勇者パーティの実力か……弱小国が強国を覆すだけの力を持つという噂は本当なのだな」


「あまり買い被るなよ?」


「ああ、でも期待はしているさ」


 すると遠くの方より兵士や騎士達が隊列を組んで現れた。


「エトレア殿も短時間でよくぞまとめてくれたものだ。ひとまずここは俺と加勢に来た兵士達に任せてくれ」


「わかった」


 俺は駆けようとしたところでリィナ。


「ソラさん!」


「リィナ?」


「私も行きます」


 その青い目はどこか決意で満ちているようだった。


 正直あの天使の方はかなりやばかった。


 それでも上にいるソネイラルとあの騎士も強いだろう。


 そんな奴らがいる場所にリィナを連れて行きたくはない。


 足手まといなんてことはない。


 いざという時に俺を救ってくれたのは紛れもないリィナだ。


 どこか怖いんだ。


 だからといって……。


 いや、リィナは仲間だ。


 信頼している。


 この先、互いに助け合って旅をする仲間だ。


 その仲間を信頼せずしてどうする。


「わかった」


 そう答えるとリィナは笑顔で返してくれた。


「頼りにしてくださいね!」


「頼りにしているよ。ということで」


「わ?! わわわ?! ソラさん?!」


 リィナをお姫様抱っこする。


 おぶってもいいのだが正気に戻った俺に葉っぱ一枚はさすがに心もとない。


「ソラ殿は随分と大胆なのだな?」 


「そうか?」


「まあいい。頼むぞ」


「……ああ」


「はい!」


「じゃあリィナ行くぞ?」


「すこし不服ですが仕方ありません。おねがいしますわぁぁああああああ?!」


 あまり驚かさない速度で駆けたつもりだがリィナはとてもびっくりしていた。

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