第84話 集結
抱き合う。
これは一つの愛情表現でありスキンシップなんだと思っていた。
けれど俺はその価値観が一変する。
互いに存在を確かめ合うためにするのだ。
暖かく柔らかい感触がそのまま伝わる。
それと同時にどういう思いでいるのかも。
震えてる肩。
頬をつたう雫。
落ち着けてあげるようにポンポンっとゆっくり背中をさすった。
不安だったよな。
とてつもない爆音が上から聞こえる。
サーヴェリスさん達が戦っているんだ。
いつまでもこうしてるわけにはいかない。
「リィナ?」
その問いかけには無言のまま。
それから深呼吸してリィナは答えた。
「なんで……」
「なんで?」
「また葉っぱ一枚なんですか? その姿じゃないとだめなんですか?」
「ああ、いや。あんな衝撃波だったし……多分その時に服ごとさ。俺は悪くないぞ?!」
「わかってます。吹き飛んだのが服だけで良かったです……死んじゃったのかと思いった」
「あ、あぁ……ほんとな」
確かにあの威力は死んでてもおかしくはない。
というより普通は死んでるだろう。
なのに生きている。
とんでもなく痛く苦しかったけれど無駄に頑丈なのは勇者であるおかげなのだろうか。
「俺もさ。リィナが死んだかと思ったよ……本当によかった」
ゆっくりと顔をあげたリィナと目が合う。
今にもその綺麗な青い瞳に吸い込まれてしまいそうになる。
そっと俺の頬を触るリィナ。
「さっきのは何があったのですか?」
「あ、ああ。さっきのは……」
言葉に詰まる。
もういろいろありすぎて何がどうなってるのか自分の中でも整理できていない。
沈黙。
その中で冷静になってきたようで頬を赤らめた。
もうこの距離感は今にも……。
そう考えた時ゆっくりと手を下ろし、そっと目を閉じた。
ここへきてからというもの本当にいろいろあった。
どうしよもない状況で刀を握って戦った。
一度もそんなことしたことないのにだ。
そしてリィナと出会った。
最初は強引だったな。
引き込まれて反乱している物騒な奴らとも戦った。
けれどあれやこれやといろいろあったのにリィナとは驚くほどに短い付き合いだ。
それに拘わらず。
心はどうしてだろう。
こうも大切に刻んだのか。
たくさんあったことを思い返して俺は決意を固めてゆっくりと……。
そんな時だった。
斬りつけた地面が大きく崩れて思いがけない人物が現れる。
「お? ようやく出れたぜ」
俺とリィナはびっくりして慌てて距離をとる。
そして現れた人物を二度見した。
「ザンカ?!」
「ザンカさん?!」
「あ、ソラとリィナ」
間違いない。
とぼけたような声、まっすぐこちらを見つめてくる純粋そうな目。
紛れもないザンカだ。
けれどところどころ汚れていてなんだか臭い。
「んんんんんんん!!」
伸びをしながら周囲を見渡すザンカ。
「今までどこにいたのですか?! 心配したのですよ?」
「ああ、それだけどさ。俺もよくわからないんだ」
「よくわからないってなんだそれ?」
「んー……暗いし臭いし変な奴らには襲われるしでさ。でもなんか楽しかったぞ?」
「楽しかったって……襲われたのか?!」
「ああ。黒い奴らに襲われたんだよ」
「地下にいた黒をザンカさんが全滅させたって話は本当だったのですね」
全滅させたとはとんでもないことをしていたようだ。
「そう言えばあのリースって剣士も弔わなきゃとか変なことを言っていたな」
瞬間、上から刺すような光があふれ爆音が鳴り響く。
いろいろ話したいことはあるけれどそうも言ってられない。
神風で突き抜けた時に周囲、一面に群がる無数の何か。
もしかしたら今、国を揺るがす何かが起きているかもしれない。
「おぉ? なんだか楽しそうだな」
「楽しいことだったらいいんだけどさ」
「ソネイラルさんの目的はわかりませんが彼を止めなくては……ソラさん、ザンカさん。力を貸してもらってもいいですか?」
「もちろんだよ」
「ああ、思いっきり体を動かせるぜ」
「ありがとうございます。サーヴェリス様やステファン様のところへ加勢しにいきます。案内しますのでこちらへ!」
その時だった。
何かが流星のごとく吹き飛ばされサンレリアス大聖堂に突っ込んだ。
────時はさかのぼる事、数刻前。
「ナイツ・ベレスカ!」
倒しても倒しても倒しても次々と出てくるのにゃ。
「ニャーさん。ご助力感謝いたします」
キャロニャやほかの兵士さん、騎士さん達ももういっぱいいっぱいなのにゃ。
ニャーがなんとかしないと。
ニャーが。
もうあんな理不尽はこの剣にかけて起こさせないのにゃ。
『ニャー。騎士とは気高く常に高潔であらねばならないのです』
唐突に師匠の言葉を思い出す。
『けれど、そんな騎士でも大きく品を掻く行動に出なければならない時がくるでしょう』
そうにゃ。
あの技があったのにゃ。
ニャーが脅威から皆を守るのにゃ。
決死の覚悟を決めた騎士の咆哮。
ナイツ・オブ・ハウル。
魔力を胸に秘めて敵すべてに心を惑わせる力を作用させる上位の闇の魔術にゃ。
「ニャアアアアアアアアアア!!!!!」
空気が震え、その鳴き声は全てを飲み込んだ。
「ニャーさん。今のは?!」
これで出来ているのかはいまいちわからないのにゃ。
けれどその効果はてきめんであったと思い知らされる。
「まずいキャロニャ。一旦離れるにゃ!!」
周囲の敵意を一点に集める魔術って聞いてたけど師匠から教わってた以上に範囲がひろいのにゃ。
大地が揺れる。
奥より見えたのは巨大な甲冑を身にまとう天使。
とてつもない速度で高々と槍を掲げ迫ってきた。
キャロニャを押しのけその天使の一撃を受け止めた瞬間とてつもない勢いで吹っ飛ばされてしまった。
「にゃああああ!!」
「ニャーさん!!」
態勢は問題ないにゃ。
着地にゃ。
いや、まだくるのにゃ。
町という町を貫きまっすぐにこちらへと迫る巨体の天使。
それに続くように後方から無数の天使がニャーめがけてやってくる。
その時、不覚にも瓦礫に足を滑らせてしまった。
「まずいにゃ」
再度、迫りくる巨体の槍を受けてしまいとんでもない力で吹っ飛ばされてしまった。
「ニャアアアア!!」
────ひらりと見える赤いマント。
間違いない。
ニャーだ。
ニャーが飛ばされてきたのだ。
「ニャーさん?!」
「「ニャー?」」
サンレリアス大聖堂の壁に叩きつけられたニャーが落ちてくる。
「にゃ?! みんにゃ!」
ニャーをキャッチする。
「いてててて、ありがとにゃ。不覚をとったのにゃ」
たたきつけられた背中をさするニャー。
「今癒しの奇跡をします。遍く光の主神よ。奇跡を私の手にもたらし、かの者に治癒の恩恵を与え給え。サンテイル!」
「お゛ぉ゛お゛ぉ゛おぉぉ。心地良いのにゃ」
なんだか気の抜けるような声をあげるニャー。
「えっと……ご無事でよかったです」
そしてニャーはリィナを見るや否や慌て始める。
「にゃ?! リィニャ! 腕怪我してるにゃ! 大丈夫かにゃ?!」
「はい。大丈夫です! ニャーさん心配してくれてありがとうございますね」
「ニャーも治療ができたらにゃ……」
するとニャーは赤いマントを剣で裂いた。
「ニャーさん?!」
リィナの怪我をしている右腕に包帯のように括り付ける。
「ニャーさん……それは」
「いいのにゃ。傷が悪くなったらいやなのにゃ」
「ニャーさん……ありがとうございますね!」
瞬間、態勢を低くするニャー。
「来るにゃ」
しばらくした後。
その異様な気配に俺とザンカは構える。
ここまで伝わる地響き。
その足音が大きくなり城壁を突き破った。
四散した瓦礫がここまで飛んでくる。
その瓦礫からリィナをかばって払いのける。
あがる土煙。
次第にもやは晴れて中から巨体の天使が現れた。
「かっこいいな!!」
どうやらザンカの何かに触れたらしい。
「遠目に見えていたのはあれでしょうか……」
「わからない。でもあの王都の外壁に並んでいた何かは粒くらいの大きさで見えてたからな。きっとあれが無数に取り囲んでいるんだろう」
ゆっくりと歩き呼吸を整えるように巨大な槍を構える天使。
倒さないとまずい。
「すみません。聖天の杖がないので思うように奇跡を使えませんが加護をみなさんに授けます!」
「頼む」
「御力に猛し者を愛した御神の愛。その尊き器より零れんばかりの力の雫をかき集め猛し者の片鱗を分け加護を与えたまえ。ヴィス・テクト」
体の内側より力が湧き出る。
「無情で無慈悲なる世界に焼かれし魂よ。その光は守護の象徴。注がれた御神の愛を持って光となり迷子を包まん。ルクス・テクト!」
「おぉ?! なんだかいつもよりすっごい元気になった感じがするぞ?!」
「これがリィナの加護の奇跡ってやつだ」
「へぇ」
「最後です! 御神に救済を求めし魂へと駆けるは差し込む輝き。その速さをかの者らに宿したまえアグィニ・テクト!」
リィナが加護を与え終わりずっと待っていたと言わんばかりに動き出した巨体の天使。
意図せずして全員集合した俺達は突如現れた巨体の天使との戦いが始まった。




