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第82話 黒き理想に鈍る剣

 大空を自由に行く鳥さん達はなにを想っているのかな。


 私も、ああなれたらどんなに楽なんだろう。


 これまで何人の人をお空に届けてきたかもわからない。


 私がこんなことを考えてるなんて疲れているんだと思う。


 私がしてることっていったいなんなんだろう。


 部下を捨て駒にして私を拾ってくれた大切な師匠を殺した。


 そんな黒色の私に何があるのか。


 すべての始まりはあの任務のせいだった。


 ここから南東にある王国アグリス。


 他種族が共存共栄する国で前々から人が絶対的な権力を持っている体制のアーグレンを敵視している。


 メールヴァレイとの戦いもずっと平行線をたどっている中でアグリス王国とも戦争が起きればアーグレンはただでは済まない。


 そんな中で私の師匠はアグリス王国へと亡命した。


 即座に私達、黒は先行偵察を兼ねて師匠の居所を掴むべく潜入する任務を女王陛下より承る。


 そして数名だけを選抜してアグリス王国へと潜入した私はすぐに師匠を見つける。


 驚くことに戦争の準備をしている数々の部隊もあった。


 師匠は敵にこちらの情報を売っていたのだ。


 けれど私は粗末な管理体制で簡単に露呈してしまうことに違和感を感じるがそのことを上に報告した。


 それから奴らの狙いがアーグレンの南東にあるアメリア領を攻め落とすことにあると掴む。


 この領は昔からアグリス王国との国境を防衛する要の場所だ。


 それなのにアメリアは他種族統合派でもあることから厳しく税を取り立てられ徴兵もされて弱体化を余儀なくさせられている。


 その派閥のおかげもあってアグリスとは仲良く交易もしているのに……。


 そこを突いて一気に占領し戦争を有利に進めようとしている。


 アメリア領も昔は勇者ゆかりの地として、そのつながりからアメリア守護騎士隊は各領の中でも最強を誇っていた。


 今はかつてあった強さなど見る影もない。


 攻められれば国は傾く。


 そこで戦争を阻止するべく私に課せられた任務が上から下されることになった。


 それは師匠の殺害。


 並びにアーグレンへの侵攻を阻止するべくアグリス侵攻部隊の殲滅。


 作戦は決行され見事に成功した。


 師匠の最期。


 売国奴と罵られ弟子に殺される不名誉で幕を閉じることとなった。


 私が師匠に剣を突き立てた時のことを今でも覚えてる。


「リース。成長したね」


「私達を捨てて今更何を……」


「そうね。一切の情を捨て何に剣を捧げるか……」


 その一言を言い終えて満足したように師の険しかった顔が笑顔に変わった。


「いつまでも、あなたは私の宝だよ」


 剣が鈍る。


 でも、この剣を止めてはいけない。


 灰色だった私の世界を師匠は優しい黒で塗りつぶしてくれた。


 行き場もない。


 ただ捨てられるだけの忌み子を。


 闇は人を恐れさせる。


 小さい子に闇がまとわりついて光を奪うなんて不気味な子は周囲の人を恐れさせるのに十分だった。


 ルクサーラを象徴する光にとって闇は対。


 私に生きる自由はなかった。


 そんな私を拾ってくれた。


 育ててくれた。


 そして私は立派な黒になった。


 師匠との思い出が剣を鈍らせる。


 わかってる。


 私の考えるような自由な鳥なんていない。


 絶えず生に縛られた不自由な空を飛んでいるだけなんだから。 


 迷う私に師匠は言った。


「私は私の理想を体現できなかった。結局、最期まで私は、あの人の愛したこの国が好きだったんだ。さぁ……使命を遂げなさい。あなたは私とは違うの」


 師匠はそう言って最期を迎えた。


 後日、師匠のいたアグリスの先遣隊はアーグレンの差別思想を撲滅するべく動いた暴徒が勝手に招いた事態であるという事になった。


 主導した人物並びに関係者のほとんどは死罪か重い罪を課せられ戦争はなかったことになった。


 多数の犠牲を払って払いのけた戦争。


 私の大切な人に全ての罪を擦り付けて終わった平和。


 師匠の理想ってなんだったんだろう。


 この仕事は心を鋼鉄の仮面で覆わなければならない。


 私達のような闇に自由なんてものはない。


 でも慈しむ心は忘れてはならない。


 愛のある光は常にすべての者に手をさしのべているのだから。


 そんな師匠の教えに疑問を抱いている時。


 揺れ動いているところへとソネイラルが来た。


「カルナティアさんは立派に黒の勤めを果たされましたね」


「……」


 答えず。


 すると私の反応を見て優しく微笑んだ。


「あの方も目指したところは同じなのでしょうね」


「目指した所?」


「冷徹な行いに反し本当は優しい方でした」


「うん」


 私はうなずいてしまった。


「これから私は、この国を沈めます」


 私は驚いてソネイラルを睨みつけた。


 それを私に言うとは血迷ったのか。


 私は静かに鞘に納められたままの剣の柄を握る。


「愛はすべての者に差し伸べられるべきだと思います。しかし、享受するにはあまりにも歪んでいると思いませんか?」


「……」


 何とも言えない。


「あなた方は少し手を貸していただくだけで構いません。私がこれから行うことはあなた方の頑張りを無に還すようなものなのですから」


 ソネイラルの懐から光に包まれた剣が見える。


 ルクサーラ神の奇跡じゃない。


 いつでも私とやりあう準備はできているようだ。


 今までの行いが無に還るってどういうことだろう。


 師匠の理想はきっと自由に愛がはぐくまれる世界だったんじゃないのかと私は思う。


 もし、それが現実にできるのなら。


「話、聞く」


 そして全てを聞いた。


 それから私の。


 黒の最期の任務が決まった。


────この突き立てられた刃がしっかりと命をとるものであったのならどんなによかったか。


 体を闇に還す究極の魔術。


 闇に愛された者にだけ許される力。


 勇者の剣なんて本当は怖くない。


 防ぐ必要もない。


 でもそれだと私は納得できない。


 だから打ち合った。


 結果。


 今日、ここで黒としての私を終わらせてくれるのに十分な剣だとわかった。


 私は私の全力をもって彼を殺そうとした。


 でもダメ。


 やはり勇者は強い。


 その上、底が見えない。


 いろんな方法で戦った。


 これで殺せないのならあきらめるのも仕方ない……か。


 下に潜った子らは真面目だからね。


 ひどい終わり方をしちゃったみたいだからちゃんと弔わないと。


 ちゃんと退くように命令したつもりだったんだけどな。


 逃げたってもう関係ないのに。


 つらい事、全部。


 もう受けなくてもいい。


 自由な世界で生きられる所にいていい。


 何を言ってるんだろ。


 私もわからないや。


 そんな鈍った剣。


 だからか私を刺した彼の剣も狙いが甘い。


 急所からちゃんとずらして刺してくれている。


 おかげで痛み分けられるかな。


 サーヴェリスは私のことを知っているから声を上げたけどだめ。


 私も彼が刺した所と同じ所に剣を突き立てる。


「っく!!」


 葉っぱ一枚で挑む狂った勇者様。


 そんな狂人でも痛そうにしている。


 私も闇を解いて生身で彼の剣を受けた。


 本当に……痛いんだね。


 師匠以外に傷を貰うのは初めてかな。


 私を終わらせてくれてありがとう。



────ぽたぽたと流れる血。


 互いに剣と刀を引き抜く。


 するとよろけて彼女は連絡橋の端によりかかってからのこ壁に腰かけた。


「ごめんね。何かきっかけがないといけなかったの……」


 何の話しをしているのかわからない。


 でも脇腹の痛みが強くてそれどころじゃない。


「な、なんの話だ?」


 するとサーヴェリスは動揺するように言う。


「リース。どうしてだ?!」


「ソネイラルも……そうだけどね。私も……同じだったの」


「そんなことを聞いているんじゃない!! お前に普通の剣が通じるわけがないだろ!」


「なんでだろうね。でも私がここまで戦ってダメなんだもん……彼には勝てない」


 リースは息を整えてから剣をアルχに向かって振り下ろした。


「フィエロ・グラ―ヴェ」


 黒い斬撃が飛び出し天使を一刀両断する。


「な?! 解!!!」


 サーヴェリスはそう言い残し葉っぱから気配が消えた。


 それを見てからリース。


「ねぇ」


「なんだ?」


「その姿……勇気、もらったよ」


「変態呼ばわりされることは多いけどな?」


「ふふ、そうね。頭おかしいもん」


「うるせ」


 必死に脇腹の痛みをこらえてしゃべる。


 しかし、同じように血を流しているのにリースは痛くないのだろうか。


「あの娘、生きてるよ」


「本当か?!」


「うん。それじゃあね」


「お、おい!」


 そのことだけを俺に伝えてリースは高い連絡橋から落ちて行ってしまった。

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