第81話 刀と黒い双剣
闇より現れた剣は俺に斬りかかる。
1本目は避けられるも巧妙に2本目の追撃がきた。
それを刀で受けるがとても重い。
ダンテの剣とは比べものにならない程の重さだ。
例えるならエンドルプスの爪のそれをはるかに上回る。
必死にその剣をいなし後方へと下がる。
次第に闇がはれてその攻撃の主が姿をあらわにした。
灰色の髪に色白の肌、赤い色の瞳をした女性だった。
黒いベールに黒い装束。
剣まで黒くとても不穏な感じがする。
そこへ葉っぱのサーヴェリス。
「貴様がソネイラルに加担してるとはな。リース!!」
「んー?……サーヴェリス?」
きょろきょろとあたりを見渡すリースと呼ばれた女性。
わかる。
いま喋ってるのは俺の股間についている葉っぱだ。
少しして彼女の視線は俺の葉っぱにうつり困惑している様子だった。
そして一呼吸おいて一言。
「かわいそうに……」
何に対しての可哀そうなのか。
「聞いてたけど葉っぱ一枚……事実って恐ろしい」
「好きでこの姿じゃないんだけどな」
刀を構えなおす。
するとリースは剣を両方の腰に納めて礼儀正しくお辞儀をするのだった。
「初めまして勇者様。私は黒統括のリース・アマービレ」
「俺はカタナシ ソラだ。ここをどいてもらうことはできないか?」
「だめ。通りたいなら……私を倒して」
「ソラ殿……言ってはなんだが本来なら戦いを避けていただきたいところだ」
「どうしてだ?」
「奴は黒の中でも最強……もしかすると私か、それに次ぐ使い手だ」
「聖騎士長さん程の……ええっと、それでその黒ってはなんです?」
「説明している暇はない。さっきも見た通り闇の魔術を駆使して奴は戦う。だがその手の内は私でもわからない」
「へぇ」
「そうね。あなたと戦うなんてことはないもの」
リースはゆっくりと剣を引き抜いた。
「あなたは闇の魔術って言ってた……でも違う。これはあなたの葉っぱになる術と少し似てる。例えば……」
その瞬間、リースの右腕が黒くなり霧散した。
「ラーピド」
小さな声が響く。
黒い霧がこちらに近づき剣が現れる。
次々と迫る剣と剣。
剣をやり過ごしたと思いきや、その霧の場所へと瞬時に現れるリース。
瞬き一つ程の時間に数回も打ち込まれた。
俺はそれらを寸でのところで受けきった。
瞬間、リースに隙ができたように見えた。
逃すまいと斬り上げるも届かずかわされる。
「遅い。ノービレ・ルジガンド」
かわした勢いを利用しくるりと優雅に回転して勢いよく剣が振り下ろされた。
剣が刀にぶつかるたびに目の前で大玉の花火でもはじけるような爆音が響く。
一つ一つが異常なまでの重さがある。
怪力ゴリラか何かを相手にしている気分だ。
最期に刀と剣がはじける勢いを利用して互いに後方へと下がった。
「これ受けきるのなかなかいないよ? 惜しい……戦闘は初めて?」
「初めてに見えるか?」
「我流って感じがする……」
数度打ち合ってわかる。
今まで戦ってきた誰よりも強い。
あれほどの力を出しながら華奢な両腕に握られた絶対の剣がそう語ってる。
「ああ、何ならこの世界に来るまで剣なんて握ってこなかったよ」
「ふーん。なのに変態なまでに私の剣を見てる。私はあなたの目が怖い」
「かろうじて見えてるだけだよ」
「見れる人、指折りくらいなのに……怖いなぁ」
「そんな強くても怖いのか?」
「怖いよ? だって……命は一つだもん」
「だったらここを通してくれないかな? できれば女は斬りたくない」
自分でも甘いと思う。
外へ出た時に一瞬だがチラッと周囲の状況が見えた。
全方位といってもいい。
街中で煙はあがっているし何やら大きいやばそうなのまで見えた。
リースだって後には退けないだろう。
「ふふ。私を女の子扱いしてくれるの? 惚れそう」
「急に何を言ってるんだ」
「私は化け物。影として、闇として、黒として……何人も殺してきた。大切な人でさえも。任務のため、国のため動く。それが私達」
「……」
俺は沈黙することしかできなかった。
こういう世界なのだから仕方のないことなのかもしれない。
「だから……今は私の意志で動くの。お人形さんごっこはもう終わり」
リースの冷たい視線が俺の心臓を貫く。
ここからだ。
「ありがとう。あなたのやさしさ。もっと早くほしかったな。ラーピド」
流れるように闇へと溶けてくリース。
四方より飛び出る剣。
くそ。
闇のある所から自在に剣が伸びる。
体の一部を霧散させて攻撃範囲を広げることができるんだ。
それら全てを刀で弾く。
一つ一つの一撃が重い。
「写死」
そして無数に広がる暗闇から何度も迫る剣をいなしているとサーヴェリス。
「ソラ殿後ろだ!!」
背後より人の形をしたなにかが襲い来る。
「な?!」
そいつは剣を振り下ろしてきた。
寸でのところでかわして姿を見るとリースの黒い影のような分身体だった。
瞬間、黒い分身体は霧のように消えて俺を覆う。
まずい視界をやられた。
だが目をやられたところで関係はない。
物には存在しているだけでそれらが発する気配が少なからずある。
刀の記憶だ。
けれどリースはその気配がとても薄い。
けれど薄いだけでしっかりとそこにいる事に変わりはなかった。
空気の流れが変わる。
まずは上から、そして横。
同時に上下の斬りつけ。
それらを避け最後の横薙ぎを刀で受けた。
「しぶとい」
「つよいな」
双剣を弾き互いに後方へと飛ぶ。
「まだ躊躇してる?」
「少しな。だが譲れないものができたからな。そのためにあんたを斬るよ」
「そう……それってあの娘の事?」
「そうだな」
「やける」
再度ぶつかり合う刀と剣。
速さは互角。
急所を狙い合い殺し合う。
先を読んでかわしていなして斬り合う刀と剣。
縦横無尽に飛び回る様は日本にいた時を想えば想像できない戦い方だろう。
刀に熱が宿る。
繰り出しあう剣技にそれぞれの力をぶつけ合った熱い戦い。
気が付けば闇に紛らせて戦う技をリースは使わなくなっていた。
大きく振り下ろした刀が彼女を捉える。
それを避け斬れず双剣で受け止める。
しかし受け止めきれず態勢を崩した。
「な?!」
俺の渾身の突き。
「まだ!」
終わるまいと双剣が再度受ける。
しかしその守り叶わず。
弾かれ突き刺さった。
「急所……外してる」
「……すまない」
正直に言うと殺めたくない。
今まで人殺しなんてしたことはない。
ダンテの時、ロンダインやアランと戦った時も。
こんな死と隣合わせの世界で何を甘いことを言っているんだと本当に思う。
一歩間違えれば普通に殺しているはずの戦いをしているのに、自分でもおかしいと思う。
最初の日だって命をたくさん奪ったはずなのに。
そんな葛藤があるということは刀に飲まれまいとする俺の心がまだそこにあるんだと思う。
でも戦わなくちゃいけない。
今まであまり考えないようにしていたけど、これからの旅はきっとより困難な道が待っている。
これが本当にどうしよもない悪党だったらすんなり殺せたのだろうか。
「ソラ殿!! リースに剣は刺さってない!!」
「え?」
その時、俺の腹に剣が突き立った。




