第80話 焦る心
「葉の形をした神器があるのも驚きだが……」
やばい。
葉っぱが喋ってる。
喋るたびに気持ち悪い振動が伝わってくる。
なんなんだこの状況は……。
「これを身につけられている御仁よ。どういう経緯で裸に葉っぱ一枚となったかはわからないが…………うん。助けてほしい」
葉っぱにすごいためらいの間を空けて助けを求められた。
むしろ助けてほしいのは俺の方なのだが?!
「ああ、驚かせてすまない。私の名はサーヴェリス・ロンド。女王陛下の王家護衛聖騎士だ。聖騎士長とも呼ばれている」
は?
サーヴェリスというと……。
議会の時に国王の隣にいたあの?
え? なんで……え?!
本当に異世界というのは不思議で満ちている。
なんて言葉でかたずけられると思ったら大間違いだ。
とりあえず、この際何なのかは置いておくとして……どうするか。
いや、まずは挨拶からか。
一応偉い人だし。
「あ、あの……どうも初めましてサーヴェリスさん。とんでもない所からのご挨拶ですが俺はカタナシ ソラと言います」
「まさか?! アメリアの従者をされている勇者殿であらせられたか!」
「あ、はい」
「良かった。生きておられたのだな?」
「なんとかかろうじて……」
「しかし、あの衝撃を耐え抜くとはやはり勇者というべきか……」
「さっきまで気絶してましたよ。ところで助けてほしいとはどういうことですか?」
「あ! ああ。今、国家転覆を謀っているソネイラルに捕らえられてしまっている。国王陛下やあの議会にいた者達と一緒に」
「そしたらリィナも……」
「いや。アメリア嬢はソネイラルに連れて行かれてしまった」
「な?! それはどういうことですか?!」
それから股間のサーヴェリスから今まで起こった経緯を話してもらった。
アルχ(カイ)と呼ばれる天使に空間ごと異次元に捕らえられてしまった事。
王族や四天の守護柱の3人と守護騎士、王都貴族が捕らえられていること。
この状況から脱するべく魂を神器に宿すと言う古代魔術を使用したこと。
自身の傀儡に憑依しようとしたところでなぜか葉っぱになってしまったのだとか。
俺はまたしても大事な時にいなかったようだ。
まさかこんな事態になるとは思いもよらなかった。
自分の警戒心のなさに腹が立つ。
「なぁ……リィナが連れて行かれたってのはどういうことだ?」
「あ、ああ。そのことだが……先ほど大規模な天使の召喚が行われた。もしかしたら……」
「まさか、その天使召喚の贄に?!」
「断定はできない」
全身の力が抜ける。
気が付くと俺は膝から崩れ落ちてしまった。
俺が不甲斐ないばかりにリィナを死なせてしまったんだ。
思えば今までただ運がよかっただけだった。
人生は常に死と隣り合わせだってのに。
俺はなんて迂闊なんだ。
「おい! どうした勇者殿!!」
「すまない。俺が迂闊だったせいでリィナは……」
何も出来なかった自分にはらわたが煮えくり返る思いだ。
その時、俺の中で何かがうごめく感覚に襲われる。
『我を起こしたな?』と聞こえた。
この感じは刀じゃない。
なんなんだ。
顔が熱い。
呼吸も荒くなってきた。
『憎しみに任せて振るう剣はさぞ。気持ちよかろうて』
「ソラ殿早まるな!!」
サーヴェリスが大きな声を上げて俺は我に返った。
早まる?
俺は何をしようとしていたんだ。
「どういう事情かは知らないが恨みにとらわれてはいけない。それにアメリア嬢はまだ生きている」
「生きている?」
「ああ、微かだが気配はある。だがどういう状況なのかはわからない。事態は一刻を争うかもしれん」
「……そうだな」
気が付くと顔にあった熱い感触は消えていた。
俺は立ちあがり一度深呼吸をする。
正直、頭の中はもうぐっちゃぐちゃだ。
さっきのドクロ紳士といい、股間のサーヴェリスといい、仮面といい、謎の声といい。
リィナも……。
そもそも葉っぱのサーヴェリスが本物なのかすら怪しいというのに俺は全てを信じてしまっている。
でも今は信じるしかない。
俺をだましたところで利があるわけではないだろうし。
あまりに情報が少なすぎる。
そんな俺を気遣ってか股間のサーヴェリスは深呼吸が終わるまで待ってくれていた。
「とてもまずい状況だ。破壊の神の天使が召喚されているんだと考えられる」
「破壊の神?」
「ああ。ソネイラルが何を考えているのかはわからないが全ての異端者を殺し尽くすまであの天使どもは止まらないだろう」
それらが何なのかはいまいちわからない。
けれど俺にとっては正直どうでもいい情報だ。
天使がどうのとか聞いてる場合じゃない。
「そうか……それでリィナはどこにいる?」
リィナが無事でいるのならそれでいい。
「今はサンレリアス大聖堂の最上、光の大聖堂にいるのを感じる」
「案内できるか?」
「できる。だが一つ約束をしてくれ」
「なんだ?」
「サンレリアス大聖堂の最上へと行く途中に俺達はアルχに捕まっている。まずは俺達を解放してほしい」
「俺は早くリィナに────」
「アメリア嬢が心配なのはわかる。だがお前ひとりで何とかできるのか?」
だめだ。
冷静になろう。
そうだ、戦力は大いに越したことはない。
サーヴェリスやそのほかの神父や聖母も強いはずだ。
今は国の最高権力者であり最有力者達が一斉に捕らえられて身動きができない状況だ。
早まっちゃ助けられる者も助けられなくなってしまう。
「確かに……すまない」
「気持ちはわかる。だがこの局面は急を要するが慎重であらねばならない。すまないが協力をしてほしい」
俺はもう一度呼吸を整えた。
「わかりました。ところでサーヴェリスさん達を解放するには、そのアルχって天使をどうすればいいのですか?」
「そうだな。術者が倒されれば私たちは元の次元に戻れるだろう。だからアルχを倒せばいいと思う」
「わかりました」
俺は刀を引き抜く。
一刻も速く上に辿り着かなければならない。
ただ、この瓦礫を上るか。
それとも通路を渡って目的の場所に辿り着くか。
悠長なことはできない。
「サーヴェリスさんが捕らえられてる天使の場所ってサンレリアス大聖堂の途中って言ってましたが、ここからどの方向ですか?」
「ん? そうだな。すこし待て…………」
葉っぱがもぞもぞしている。
できれば動いてほしくない。
というかこの葉っぱの姿で動けるのかよ。
「上を向いて右側をまっすぐだ。ここは別塔1階だからその部屋をでて階段を……って何をしているのだ?」
「時間がないのでしょう?」
「それはそうだが」
態勢は違えど基礎は同じ。
胴は重く安定させ左手を狙いの方向へと出す。
なにやらサーヴェリスが言っているが集中している今、俺の耳には届かない。
正直成功するかわからない。
けれどこれが一番速くたどり着けるはずだ。
左手の親指と一刺し指の間へと刀を突き立て右腕をいっぱいに引いた。
いっぱいに引いて会に至り離れた瞬間。
爆発する。
「神風」
全てをぶち抜きまっすぐに目的の場所へといたる。
葉っぱから悲鳴が聞こえるが壁を次々とぶち抜く音でかき消されていく。
一気に外へと出られた。
「あれか!」
「あぁあぁあぁあぁあぁあ!!!!」
葉っぱの悲鳴がうるさい。
物見塔といえばいいのか。
その最上にその天使はいた。
いくつかの光の中に人が閉じ込められているのも見える。
俺はそのままサンレリアス大聖堂へと至る連絡橋に着地した。
また神風に頼ろうと態勢を整えたその時。
「ソラ殿!!」
サーヴェリスの声。
そして黒い闇が現れ剣が飛び出したのだ。




