第76話 修羅の前に黒は散る
「ここ……どこだ?」
確か花を見てて伸びをして……変な奴がいたから追いかけて……ここに来ちゃって出れなくなて……。
まあ、いっか。
暗くてよくわからないしなんだか変な臭いもする。
「あまり外に出るなって言われてるんだけどなぁ」
ソラとニャー、リィナと来てから何かと決まりが多い。
でも……あいつの「人と生きる」ってそういう事なのかな。
自由ではないけど不自由でもない。
むしろなんだか楽しい気もする。
誰かとこんなに一緒にいたりするのって村に居た時以来かな。
俺は異臭の漂う暗がりの中をとりあえず歩いてた。
すると汚い中に薄っすらと血の匂いが混じってきた。
なんだか楽しそうなことをしていそうだ。
その元凶に向かうと大の字に横たわっている人。
リィナと同じような恰好をした人だ。
お腹に剣が刺さっててもう息はしてなさそう。
つまらない。
ただの死体だ。
でもこのままにしておくのは可哀そうだ。
それから近づいて剣を引き抜こうとした。
その時だ。
背後から近づく何かが俺を襲う。
直剣が向けられてるのが見える。
とりあえず俺はそれを足で折った。
びっくりした。
なぜか相手はかなりびっくりしていた。
さすがに街中の殺しはまずいだろう。
「なあ、あんた。俺は誰かを殺したらまずいんだ」
「な、なにを言っている?!」
「あれ? でも殺そうとしてきたってことは……いいのか?」
それに今は街中じゃないし地下っぽい場所だし……。
あ、別にいいのか。
「お前は……だ────」
目の前の奴が何かを言いかけたところで命のやり取りは終わる。
「彼岸渡」
急所を突く手刀。
入れる角度で技の名が決まる覚えずらい技だ。
文字通り相手をやっちまうから彼岸なんだって習った。
そんなことはどうでもいいか。
一呼吸おいてから何かが飛んでくる。
矢だ。
四方より何本も飛ばしてくる。
なんだか物騒な場所だ。
全てを叩き落とし矢をつまみ上げたところで男が現れた。
黒い装束。
顔は隠れていて全身を覆う黒い布が全体像をはっきりさせない。
背丈は同じくらいか。
でもその布の下に剣先がちらりと見える。
「ふっふっふ……死角からの攻撃を全て防ぎきるとはなかなかやるな?」
「褒めてくれてありがとな。でも……こんな棒きれじゃ俺は殺せないぜ?」
「ほう、そうか。この矢は毒仕込みなんだがなぁ?」
「へー……毒か。それがあるとどうなるんだ?」
「かすれば死ぬんだよ!!」
黒い男は腕を上げた途端に無数の矢が俺に飛んでくる。
再度それを全て叩き落とした。
「つまりだ。かすらずに全てを殴っちゃえば死なないんだろ?」
「…………」
かすりさえしなければ大丈夫だなんて器用な矢だ。
────目の前で何が起きたのかわからない。
半裸の男はいともたやすく毒の矢を全て防いで見せた。
矢じりをしっかりと拳で弾いてるが驚くことに傷一つついていない。
とんだ化物だ。
おまけにかすれば死ぬと言ったのに臆することもなく堂々と矢を触っている。
どうかしている。
アーグレン国、守護柱直轄特殊作戦隊……通称、黒。
今回の任はなんとしても成し遂げなければならない。
今ここで奴を止めなければ全てが破綻しかねないだろう。
中距離がだめなら近距離だ。
長物で間合いを詰めナイフの手数で翻弄する。
攻撃の手数もさることながら狭い場所での攻守もやってのける俺の洗練された技を食らうがいい。
幸い、この暗がりだ。
奴は俺のナイフなど見えないだろう。
「お、剣とナイフか」
さも余裕と言わんばかりの態度でまっすぐに俺を見る。
くそ。
そんなこと言ってる暇など一切なくなるぞ。
まずは剣でひとつ────
俺は甘かった。
そもそも容易く矢を落としていく技量があるのだから警戒すべきだった。
今まで培ってきた戦術など、この男の前ではとるにたらないものだったのだ。
見えなかった。
刺突しようとした剣が折れた直後。
飛ぶような感覚に襲われた。
俺の体がよく見える。
不思議な体験だ。
「刀頭雪花!!」
技の名前を高らかにいうなよ。
ばか……みたい……だろ。
────「うへぇ……この技、頭を飛ばすから血がいっぱいでちまうんだよなぁ。誰だかわかんないけど殺しに来るなら……殺していいよな?」
今までそうしてきたし。
それに誰も見てないし。
とりあえず二人殺したので埋める場所もないから一旦手を合わせておこう。
南無南無。
あとでちゃんと埋葬しよう。
それからずっと暗がりの中を進んでも出口が見当たらない。
どうしたら出られるのかとあっちこっち進んでいる。
とうとう元の場所もよくわからなくなってしまった。
まずい、これでは埋葬ができない。
そんなことを考えていると後ろから呼び止められたのだった。
────あれが情報にあった半裸の赤髪……。
こいつがのうのうと歩いているということは……ザクラムは死んだか。
さて、腕がなるぜ。
「おや~? おやおやおやおや? こんな場所に半裸さん?」
「ん? また黒っぽいのか」
冷気を空気に混ぜる。
「また……とは私に似た誰かを見かけましたかな?」
混ぜ終われば私の氷魔術は芸術に生まれる。
瞬間冷凍した遺体は綺麗なんだよなぁ。
「2人いたよ。すまないんけどさ……殺そうとしてきたから殺しちゃったよ」
やはりやられたか。
得意げに話しているがあと少し。
「気に病むことはありません。この世は奪って奪われて……彼が死んだのは彼の責任です。さて……さてさてさて」
相手が無防備のままでいる。
すごい緊張する。
ドキドキが止まらない。
普通は魔術など使えば魔力の流れで気取られる。
だが、俺はそれを極限まで減らし気配を抑えられる。
よし……終わった。
「あんたのそのしゃべり方って疲れないか?」
「うひひ。ごめんねぇ。私は……この場所でしか生きてこられなかったもので!!」
勝った。
奴の周りに氷の壁を生み出し閉じ込める。
瞬きにも等しい一瞬の出来事。
我ながら美しい仕事をした。
「うひひ……私のような域にまで達すれば詠唱など不要なのさ……あっけなかったなぁ」
しっかりと氷に閉じ込められている。
勝ったはずなのに違和感があった。
まだ終わってないような……。
しばらくして、その違和感の正体がわかる。
氷が鳴いている。
ぴきぴき……ぱきぱきと。
そして奴はよみがえった。
でかい氷の塊を蹴飛ばして……俺の目の前に。
「ま、まず────」
「天蓋落花!!!」
高く上げられた足は、私の足が動き出すより早く振り下ろされた。
初めての感覚だ。
右半身と左半身が二つに分かれる感覚なんて。
凍らせなきゃ。
もう寒いのなんて嫌なのに。
痛い。
寒い。
痛い。
寒い。
いた……い。
────「全く、いきなり冷たいなぁ」
いきなり氷漬けにされるとは思いもよらなかった。
こう戦いに勝ちはしてるもののなんだかしっくりこない。
あいつらと一緒に来てからなんだか変な感じがするんだ。
こうして戦って殺す。
そんな日常に何も思うことはなかった。
ふと、こいつも町で接してきた人みたいにいい奴だったのかな? なんて考えるようになった。
まるで人を殺すのが悪いことみたいな感覚。
だって悪いなんて感覚は今更だろう。
魔物や家畜は殺すのに自分達だけはだめとか言い出すのはまあおかしな話だ。
俺もそうだが命は皆、同じだ。
それはなんであれ変わりはない。
でも……殺しちゃったらもう二度と殺し合いができなくなるってことだって教えてもらったな。
ソラとニャーは勿体ないよな。
戦うことがあって死にかけたら治るまでまっててあげよ。
それから俺はまた歩いた。
今度もまた教会にいた人達と同じ服を着た人が大の字になってお腹に剣が刺さってるのが見える。
流行りなのかな。
にしては悪趣味だ。
俺は性懲りもなく剣を引き抜いたところで熱が走るのを感じた。
────「どっかーん!!
」
「うるさいぞシエラ。黒は静かにそつなく任務をこなすものだ」
「えー? だって、ここ地下だよ? 侵入者ってあの半裸だけでしょ?」
「ああ、ザクラムの場所からここまで来たと言うことは……コルトはやられたか」
「あの氷馬鹿を殺せるだけの実力があるなら容赦なんて────」
瞬間、殺気を感じた。
シエラと私は咄嗟に後方へと下がる。
シエラは杖とナイフを構える。
私は鉄甲を構えた。
「あっちいな!!」
「うそ……あれで死んでないの?!」
「どうやらとんでもない化け物のようだな」
「服が焦げちまったよ……俺さ。金ないんだぞ? あ、でも頼んだら買ってくれるかな」
そんな訳の分からないことを言い緊張感のかけらもない半裸の男は俺達をじっと見つめる。
どうやら武器を持たない殺人術を極めた者のようだ。
私と同じ道を選ぶとは奇特な人よ。
私はシエラの強力な炎魔術の詠唱時間を確保する必要がある。
前へ出る。
前衛として壁となり味方を守る。
私は剣も魔術もなんのとりえもない。
ただ体が丈夫で力が強いだけの私でも輝ける場所がある。
弱き者を救い強者を挫く。
私は奴の目前に迫り精一杯の力を拳にのせ構えた。
ただそこには一つ誤算があった。
どうやら私の丈夫な体を持ってして彼の攻撃は防げなかったようだ。
自慢じゃないが聖騎士の剣すら受け付けないんだがな。
胸がとても熱い。
気が付くと奴の細腕はいとも容易く私の胸を貫いていた。
「オルタガ?!」
シエラの声がする。
きっと……また無茶をしたと……怒る……だろう……か。




