第61話 客間でのひと時
ルチアとリィナに客間へと案内される俺達は静かな廊下を歩く。
するとこちらをチラチラと見てリィナ。
「ソラさん……お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたね。幻滅……しましたか?」
なんだその可愛らしい仕草。
どこか気にするような所でもあったのだろうかとは思うものの、いつものリィナの感じではなかった。
もしや……それだろうか。
「……いや、普段丁寧だからさ。できすぎたお嬢様かと思ってたけどなんか安心したよ」
「ほ、本当ですか?」
「本当だよ」
なぜか安堵するリィナ。
すると信じられない光景でも見ているかのようにルチア。
「あ、あなた……本当にリィナ?」
「何よ! 私がちゃんと立派に聖女している証じゃないですか!」
「ですか……って、ちょっと私より上になったからって偉ぶらないでちょうだい! それと、なーに顔を赤くしちゃってんのよ?」
「ぇ……え?! こ、これは……その……」
「え……黙っちゃうの?」
和気藹々としている二人。
友人とはいいものだなと思いながら二人に付いて行く。
しかしレイーネが言っていた猫人様と言う単語が頭から離れない。
この隣でお気楽そうにトボトボと歩いているニャーの存在が物体Xと言わんばかりにどんどん謎が増えていく。
ニャーの尻尾もご機嫌なようでゆらゆらとさせている。
この謎もいつかわかる日が来るのだろうか。
けれど綺麗な燭台が立ち並び、ルクサーラ神と思われる女神像が柱に掘られた風景はただの廊下といえど圧巻な光景だ。
改めて教会の中を見るがアーグレンの建築技術はなかなかのものだろう。
重そうな石をここまで高層にまで積み重ねても崩れない建築技術。
おまけにその石に精巧な彫刻まで掘られているのだ。
重機もなさそうなのにどうやって作っているのだろう。
そして目的の客間の前へとたどり着き綺麗な木目調の扉を開ける。
そこには教会らしい今は使われていない暖炉と、その上には純白の羽が6枚ある白い長髪の美しい女性の絵。
綺麗な装飾のある食器もいくつか飾られており、とても趣深い。
「リィナのお連れ様はこちらでおくつろぎください」
「おう、ありがとな」
ザンカがニコニコとお礼を言う。
ついでにと言わんばかりにリィナ。
「では、私もくつろぐと────」
「リィナはこっち!!」
「ぇええ?!」
「ぇえ?! じゃないでしょ! レイーネ様が修業場へ来なさいっておっしゃってたじゃない。行かなかったらあんたもっとひどい目にあうよ?」
「うぅ……わかったわよ。気が重いです……みなさん。私行かなくちゃいけないみたいですので……行ってきますね……他の僧侶もいますし、わからないことがあったら遠慮なく言ってください」
「お、おう。がんばってこいよ?」
「リィニャがんばってくるにゃ!」
「わかんねえけどがんばれよ!」
「うぅ……ありがとうございます」
「ほら! うじうじしてないで来なさいって!」
それからルチアがリィナを引きずるように部屋から出ていくのだった。
こうして俺たちは、よくわからないまま部屋で休むような形になってしまい暇をお持て余すことになる。
「どうするにゃ?」
「まあ……暇だな」
「なんだ? やりあうか?!」
「なんでこうザンカは喧嘩っ早いんだよ」
「ん? 喧嘩? 殺し合いだぞ?」
「すーぐ殺し合いを始めようとすんな。命の重みをちょっとは知っとけ」
「ニャーもびっくりしたにゃ。本当にゃ節操がないのにゃ」
「えー。わかったよ」
「でもまあ……暇だし久しぶりに飲みにでも行きたいところだがニャーって連れまわしたりして大丈夫なのかな?」
「さあにゃぁ。ここへ来る途中やっぱり視線を集めたにゃ。リィニャの言う通りあまり出歩いちゃまずいのかもしれないのにゃ」
「ん? ニャーがいるとまずいのか?」
「ああ、ここは人が主権を握る国家で他種族には結構厳しいんだってさ」
「……つまり、こんなに強そうなのに生きづらいのか?」
なんだその間は。
「まぁ……そんなところだ」
「へぇ、なんか言ってきたら殴っちゃえばいいんじゃないか?」
「おまえ……とんでもない鉄砲玉かもしれないな……」
「てっぽうだまにゃ?」
「もう何をしでかすかわからないって事だよ。そんなことしてたらどこにもいられないんじゃないか?」
「そうかもしれないな。でもそんなに大変なことにはならなかったけどな」
「嘘だぁ」
「んー……大体の奴は殺してきちまったし、ぶん殴っちまってたからよくわからんね」
「殺しって……ちょっとは言葉で解決することを覚えろって」
「でもさ。俺さ? 頭が悪いから難しいことはわからないんだ。妹にもそれで何度か殺されかけてきたしな。あははははは!」
「お前の妹本当にやばそうだな」
「一度も勝てたことなんてないからな。あまり戦いたくはないよ」
ザンカもいろいろと話してみるとよくわからない所は多いがちゃんと話せば根はやさしそうな奴だってことはなんとなくわかった気がした。
ただ無邪気に力を求めているのか父親を超えようとしてるのか、わからない。
でも、その無邪気さに時折、残忍な側面があることに気づく。
だいたい普通の奴は父親を殺そうだなんて考えたりしないし。
それからミチナという僧侶がレイーネ聖母様に言われたらしく、ちょっとしたお菓子とお茶を用意してくれたのだ。
ニャーはとてもご満悦な様子でそれをほおばる。
そんなこんなと時は過ぎて、なかなかリィナが帰ってこないので俺は以前にもしてたように教会の敷地内で刀の練習をしに行くことにしたのだった。
ちらりほらりと視線は感じるものの誰も話しかけて来ようとはしてこない。
「相変わらずだなぁ」
そもそも教会の敷地内でこんな物騒な物を振り回したりしてる奴の近くに来ようとは思わないか。
すると後ろから聞き覚えのある声。
「へぇ、そうやって稽古をつけるのか?」
声の主はザンカだった。
ニャーも一緒なのかとおもったらそうではないので一応ニャーはどうしてるか聞く。
「ニャーは?」
「寝ちゃったよ」
それを聞いて俺は構わず刀を振る。
「稽古か……正直に言うとさ。俺は刀を振ったりした経験ってないんだよ」
「ほんとかよ?! そりゃ驚いた。まさかカミツナみたいな奴がほかにいるとはね」
「そうか……話に聞いてる限りだとお前の妹は真の天才なんだろうな」
「んー多分、そうなんだろうな」
「けど俺はお前の言う妹のような天才じゃないよ」
「ふーん。というと?」
「経験したことのない太刀筋に刀さばき。まるで俺じゃない何かが覚えてるように俺の体を動かすんだ。何かに取り付かれているみたいにさ」
「んー、それで?」
「それ以上もなにもないんだけどさ。おかげで今日まで生きてこれたし感謝はしてるけど俺は俺のままでいられるのかなって時折思うんだよ」
「へぇ、難しいこと考えてるんだなぁ。俺なんか腹へりゃ飯食うし喉乾けば水飲むし強い奴がいたら挑むし親父がいたら殺す。それぐらいしか考えてないよ」
「ほんとかよ……」
「あ、あとお前と殺し合いたい」
「相変わらず物騒だな。稽古……とかじゃだめなのか?」
「いいけどさ。稽古っつっても俺は結局死ぬまであんたとやりあうと思うんだよ。だからやるならちゃんとした殺し合いがいい」
「変なやつだな」
ザンカと話しながら鍛錬をしているうちに日も沈む。
一旦リィナが戻ってきてないかどうかを見に客間へと戻ることにした。
そして客間の扉を開けるとソファに液状になったように倒れ込んでいるリィナがいたのだった。
「え、リィナ?! 大丈夫か?!」
「ソ、ソラさん……」
こちらに気づいたリィナはゆっくりとぴくぴくと痙攣するような足取りで俺のところへと来て俺に倒れ込む。
危うくメロンをキャッチしてしまう所であった。
俺の危機察知能力が働いたおかげでおとがめはないはずだ。
もし万が一やってしまったら俺に明日はなかっただろう。
神回避。
「わ……わた、しが……────」
何を言っているのか聞き取れない。
「なんて?」
「わた……しが……たおれましたら……ヒナのことを頼み……ます」
「え?! ちょっとまてリィナ?! リィナ?!!」
そう言い残して力を使い果たしたリィナなのであった。
「なんにゃ?! なんの騒ぎだにゃ?! にゃああ?! リィニャが溶けてるにゃ!!」
「とけ……いや、これはどういう状況?! ……息は……ある」
そしてどうやらリィナは寝てしまっていることに気づくのだった。
「なんだ……驚かせやがって」
後ろからザンカ。
「ボロボロだな?」
「ああ、修業場へ来いって言われてたけどそこで何が……?」
すると気配の主が後ろから瞬時に現れるのだった。
「あらあら、私の弟子ながら情けない。よくここまで聖女としての血を守って来れたものですね」
レイーネ聖母様だ。
「あ、おばさん。菓子うまかったぞ?」
気兼ねなく失礼にもおばさん呼ばわりするザンカ。
「あらそう。お気に召していただけたようでよかったわ」
するとレイーネ聖母はザンカのおでこに向かって手をかざしてデコピンの形を作る。
瞬間、小さく空気が破裂した音と同時にザンカの頭部を弾いたのだ。
「な?!」
「にゃ?!」
「ぐぉあ!!」
ザンカが弾き飛ばされる。
そして綺麗に着地して戦いの構えをとるのだった。
「待てザンカ!」
ザンカは驚きの表情でいっぱいだった。
そうだろう。
俺もレイーネ聖母のデコピン一撃がここまでの威力を作り出せるとは思ってもいなかったからだ。
「びっくりしたぁ」
「おもしろい子だねぇ。今ので気を失わないのかい」
気を失わせるつもりでいたんかーい。
そう心で突っ込んだ。
「教え子に入れる倍は力をいれたんだけどねぇ……歳にはかてないのかね。小僧の言う通り私はおばさんってことさね」
「ザンカ謝れ! 綺麗な奥様って謝れ!」
「そうにゃ! 綺麗な奥様レイーネ聖母様にゃ!」
「あんた達も大概だよ?」
にらみつけられる俺とニャーは身震いするのだった。
「それはさておくとしましょう。日も沈みましたし、お夕飯時ではありますが……ソラさん。少しお話が」
俺はニャーと目を合わせる。
「え、俺?」
「ソラという名の方は他にだれかいるのですか?」
「いえいえいえ! い、いません! 私です。はい」
「よろしい」
そして俺の腕の中で寝ているリィナをそっと抱きかかえてソファに寝かせる。
「すみませんね。まったく……だらしない弟子だこと……」
「いや、まあ……こんなにボロボロですし一体何を?」
「まあいいわ。ついてらっしゃい。それとそちらのお二方は食堂の方へどうぞ。ミチナに案内させます」
影が薄くて気づかなかったが脇の方に先ほど見た僧侶の女の子がいた。
「ザンカ様、ニャー様。こちらへどうぞ」
二人は飯だ飯だとウキウキになりながら食堂の方へと向かうのだった。
しかし俺は聖母レイーネとの一対一の話し合いが始まろうとしていたのだった。




