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第58話 戦おうかと唐突に

 殺し合わないかと唐突に始まるザンカからの決闘の申し込み。


 赤髪の男は真剣な目で俺を見つめて言った。


「あんた相当やるだろ?」


「いや……ただの冒険者だ。買いかぶるなよ」


「んー……よくわからないんだよなぁ。あんたほどなら否定より誇る事だとは思うんだけどさ」


「お前は俺の何を知ってるというんだ......」


「まあいいや。あんたのその刀と体から親父以上の何かを感じるんだ。飯作ってもらって悪いんだけどさ」


 よくわからないがいきなり攻撃されるよりはましなのだろう。


 こいつの話がどこまで本当であるのかもよくわからない。


 もし戦うんだとしたら俺は魔王の息子と戦うことになる。


 加えて何も考えてなさそうな目が、より本物感を出してくるのが正直怖い。


「悪いと思うならなしだ! 俺と戦って得られる物なんてないぞ? それにお前は武器も持ってないだろ? 加えて上半身裸じゃないか。服を着るんだ服を!!」


 するとリィナがこちらをジトっとした目で見る。


「ソラさんがそこを気にするんですね?」


「やかまし。リィナは気にならないのか?」


「それは気になりますけど……それ以上の人が目の前にいますからね。ソラさんのせいですからね?」


「お……おう。ごめん」


 そしてザンカは両腕を出しながら言った。


「武器ならあるよ。俺はケンジョウ流の使い手だ。外国風に……言うなら拳闘士ってところだと思う。己の体一本でけんけんにもなる。故にそんじょそこらの武器じゃ俺は倒せないぜ?」


 なんだかよくわからないことを言っていて猶更怖い。


「それでもだめだ! 俺は戦いは嫌い……じゃない……けどな。こんな無意味な殺し合いはしたくない。それと第一に燃えないしな」


「んー……確かにそうだな。困ったなぁ」


「物分かりはいいのな?」


「じゃあさ俺もあんた達に付いて行っていいか? ダメならこっそりついてくことにする」


「は?!」

「え?!」

「にゃ?」


「どうしてこの流れでそうなるんだ……?」


「俺はあんたが強いと思う。でも俺を試させてくれない。それじゃあさ! あんたがやられたらやった奴を殺せばいい。これで俺はあんたを超えられる! だろ?!」


「だろ?! じゃねえよ。なんだよその理屈」


「ということでよろしくな!」


「まてまて……このパーティの中心はリィナだ。リィナがだめだと言えばだめだ! リィナこいつどうする?!」


「ええ……」


 不服そうにザンカは言い、あっけにとられながらリィナ。


「私が中心人物ですか?!」


「そりゃ桃源郷の果実を探すのが目的だからな」


「そ、そうですね……んんん。ソラさんから見てこの方はどう思います?」


「言ってることすべてを信用できるかはわからないだけど……ザンカは確かに強いと思う。ただ何を考えてるのかいまいちつかめないのがなぁ……」


「考えてる事? 俺はあんたと戦いたいぞ?」


「そうじゃねえって」


「ニャーさんはどうですか?」


「ニャーもソラと同じように思うにゃ。ずっと体の芯がぶれない感じがあるのにゃ。剣を握るのならば土台が重要って師匠も言ってたのにゃ。それが一切ぶれてないのにゃ。きっと大丈夫にゃ」


「そこまでは見てなかったけど……ややこしいことになったなぁ」


「ですね……ですが魔王である父親を倒すってことはですよ? ソラさんの本来の……使命かはわかりませんが、それともかぶるのかもしれません」


「勇者と魔王は切っても切り離せないかぁ……だけどさ。魔王より桃源郷の果実を見つける事の方がいまのところ大事なことだしなぁ」


「それは……ありがとうございます。でもソラさんはその力でもっとできることがあるなら進んでやってほしいと私は思ってます……無責任かもしれませんが私はそれで世界がもっと良くなることに期待してもいるんです」


「え? そ、そうか……リィナがそう言うなら」


「はい! なのでこの方をパーティに加えてみてもいいのかもしれません」


「そうしようか……ザンカ」


「おう! いいのか?」


「ついてきていいぞ」


「そうか! ありがとな!」


「本当にややこしくなったなぁ」


 こうして俺たちはケンジョウ流の拳闘士、ザンカをパーティに加えることにした。


 葉っぱの勇者と猫の勇者に上裸の拳闘士と聖女。


 そろそろこのパーティがどういう方向性で組んでいるのか、よくわからなくなってきている。


 そんなこんなと一応依頼は達成したのでルロダンへと歩きはじめるのだった。


 俺とリィナが先行して周りでニャーが遊んでいる。


 ふと後ろを見ればザンカはしっかりとついてきている。


 そこで俺はザンカに聞いてみる事にした。


「なぁ、ニャーも強いけどいいのか?」


「ああ……強いと思うけどこの中だとソラが一番って感じだからな。ニャー!」


「なんにゃ?」


「俺と殺りあってみないか?」


「んにゃ? そう急くにゃ若造。ニャーもそんな無駄な殺生はしないのにゃ」


「そんなもんかなぁ?」


「そうにゃ。命は尊いのにゃ。覚えておくことにゃ?」


「でもその割には皆一瞬で死んじまうけどさ」


「そうにゃ。ザンカの言う通り皆すぐ死んじゃうのにゃ。はかないのにゃ」


「だよな? ならさ」


「でもにゃ……死んだらもう元にはもどらないのにゃ。だから皆、慎重だし必死に同じ時を生きるのにゃ。おみゃあも何か大切なものができたらわかるのにゃ」


「……そうか。確かにな。死んだらもう殺せないからな。大切なもの……か」


 死んだらもう殺せないってどういうことだよ。


 なにやら途中から深い話をしだしているニャーとザンカ。 


 そんな会話をしつつ山登りも大詰め。


 でこぼことした急斜面が足を滑らせると終わりではないのかと思わせてくる。


 そんな中でも軽々とひょいひょい登っていくザンカとニャー。


 その後ろでリィナの手を取りながらゆっくりと登っていく俺。


 あの格好でここまで来ただけのことはありそうだ。


 頂上に達する頃には夕暮れ時。


 そして遠目に見えるのは煙突から漏れ出る煙の数々。


 ルロダンが見えたのだ。


 そこへと目指すように登った山を下山する。


 そして緩やかな坂に差しかかかったところで突如、茂みより狼系の魔物が飛び出してくるのだった。


 錫杖を構えてリィナ。


「これは……囲まれてます! 鱗のような体毛……スケイルハウンドです!」


 レイピアを抜くニャー。


 右腕を前にし左手を腰に落とし構えをするザンカ。


 俺はリィナの前へと出て刀に手を添える。


「相手は……5匹はいるにゃ!」


「どこから攻撃を仕掛けてくるかわかりません。先頭を叩いてから始めましょう!」


「ん?……つい構えちまったけどこいつらか……」


 そう言ってザンカが前に出る。


「ザンカさん危ないです!」


 制しようとするリィナ。


「いや、大丈夫だ。あんたらの戦いをちょっと見ちまったし俺の手の内を見せないっていうのもさ。付いて行く身としてはどうかと思うんだ。こいつらは俺がやるよ」


 スケイルハウンドは体毛が鎧のような鱗状になっている狼で素手で戦うには心もとないはずだ。


 毛を逆立て目の前に歩いてくるザンカを警戒するスケイルハウンド。


 そして一定の距離に達した時、戦闘が始まった。


 飛び出すスケイルハウンド。


 鋭い爪と発達した牙が見える。


 しかしザンカは再度構えて何かを繰り出そうとしている。


天蓋落花てんがいらっか!」


 綺麗にすっと伸びる足が天上へと向き勢いよく振り下ろされた。


 そしてその勢いは空気を破裂させスケイルハウンドの首をえぐり取ったのだ。


 飛び散る血しぶきと肉片。


 次いで左右より同時にスケイルハウンド。


 しかし、近くにいるニャーは動かない。


 動き出すのはザンカ。


神流狩かんながり!!」


 流れるように態勢を落下させ手刀を作って左に一突き入れ急所を突くと敵にめり込んだ手刀を引き抜き次の獲物へと流れるように突き刺すのだった。


 刺されたスケイルハウンドは、しばらく立っていたものの次第に力を失い倒れる。


 そして俺とリィナの周囲にいたスケイルハウンドが走り出しザンカのところへと飛び込む。


 けれどザンカは冷静に一匹を右の手でつかみ取り左手でもう片方を手刀で真っ二つにしてしまったのだった。


 それはまるでその戦い様は、あのエンドルプスの戦いを見ているようだった。


 右手で喉元をつかまれたスケイルハウンド。


 とんでもない力でつかまれているせいか次第に力なく静かになっていく。


 最期には骨が砕けるような音と供にザンカはそれを地面に落とした。


「まあこんなもんだ。どうだ?」


「つ、つよいにゃ」


「そうですね……素手でここまで戦うなんて……初めて見ました」


 元の世界では空手やら柔道と言った獣をもやれそうな武術があったが、これほどの物かと思いリィナに聞く。


「珍しいのか?」


「珍しいです。アーグレンの兵士はもちろんですが冒険者の方々も武器を持って戦います……素手で戦うなんて無謀すぎますし拳闘術は武器を失った時の頼みの術くらいにしか私は知らないです……」


 確かに俺とザンカが戦ったらどうなるかわからない程の腕前のようで、とんでもない約束をしてしまったような気のする帰り道だった。


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