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第53話 本題にケーキを添えて

 マリィ王女からの直々の申し出にリィナ。


「私達がアーグレン城にですか?」


「そうよ。そこで────」


 そこへノックする音が聞こえリィナが答えた。


「どうぞ」


「お話の途中でしたか……申し訳ございませんが失礼いたします。おまたせいたしました。お茶とお茶菓子を少々お持ちいたしました」


 するとロンドールは銀細工のあるカートを引きながら現れる。


 ソファに座っている俺達の前へとロンドールは王女様から順番に配膳をしてくれた。


「にゃぁ……おいしそうだにゃあ」


 さきほどまでの騎士のふるまいとは対照的にニャーはよだれが零れかけていた。


 しかし、ニャーの反応は仕方のないものだと思うのだ。


 なぜなら目の前に現れたお茶菓子は異世界へきて初めて食べる物であったからだ。


 夕食の時に、ここでデザートとして出してもらったものが卵をなめらかにしてペースト状にしたプリンのような甘未であることを覚えている。


 だが目の前の物はどうであろうか。


 スポンジだ。


 スポンジケーキなのだ。


 この世界にスポンジケーキが存在するのだ。


 さすがに異世界なめすぎだろと思うかもしれない。


 まあ、パンという名のクロカがあるのならケーキは存在するだろうがスポンジを作るまでの労力と過程はパンとは違い計り知れないものがあると思う。


 なきゃないで作ろうと考えていたのだが、まさかこんなところで出会えてしまうとは驚きだった。


 加えて黄色いスポンジの上に映えるように金色のねっとりとしたクリームがかかっているのだ。


 しまいには薄い飴のようなものを上にのせて少しあぶったようなものまで乗っかっている。


 そのスポンジケーキにカスタードとあぶった薄い飴が乗っけられたお菓子。


 いったいなんなのかと、とても気になって仕方がない。


「リィナ……これって?」


「これはムーリアってお菓子です。来客があった時や特別な時にお出ししたりするのですが、ふわふわで甘くておいしいんですよ?」


「まさかスポンジケーキに出会えるなんて思いもよらなかった……」


「た、たべてもいいかにゃ?!」


 しびれを切らしたようにニャー。


「いいですよ。お召し上がりくださいね」


 恐る恐るニャーはフォークを巧みに操りちょこんとしたお皿の上に盛り付けられた二等辺三角形にカットされたケーキを切り分けて口に運ぶ。


 すると今にも溶けだしそうな表情を作るニャー。


「にゃ?! にゃぁぁぁあ!!」


 ニャーはほっぺを抑えて震えた。


 その光景を見てリィナとマリィが癒されるような顔をしていた。


「ニャーさんってかわいいですよね?」

「そうね。この子いいわね」


 二人の会話を他所にニャーは足と尻尾をばたつかせながらケーキをほおばるのだった。


 一口食べては片方のオテテでホホを抑えて、また一口食べては片方のオテテでホホを抑える。


 だが、この時ニャーには目もくれず俺は俺で覚悟の時であった。


 異世界で食べる初めてのケーキ。


 それが一体どのような味がするのかとてつもなく気になる。


「お、俺も……いただきます」


 恐る恐るフォークを手に取り弾力あるスポンジを切り分けてから口へと運ぶ。


 とんでもない破壊力が口の中いっぱいに広がった。


 スポンジとはケーキを彩って質を担保するための屋台骨のような存在だ。


 そのふわふわさは元の世界と遜色ないどころかまるで泡のようだった。


 加えて金色に輝いているようなクリーム。


 カスタードのような風味ではあるものの何かが違う。


 バニラが入っているわけではない。


 けれど鼻先にひょこっとなぜかバニラの風味が残っている。


 そんな不思議な風味に濃厚な卵の黄身と柑橘系のさわやかな甘さが舌を包み込んで脳がまた食べたいと訴えかけてくる。


 ソースやらなにやらにあまり試行錯誤をしない料理の文化なのかと疑っていたが異世界人はとんでもないものを生み出していた。


 そんな俺とニャーの姿を見てロンドール。


「ほっほっほ。お喜びいただけてなによりです。さて私は失礼いたします。何かございましたら呼び鈴を鳴らしてくださいませ」


 そうしてロンドールは一礼して部屋から出るのであった。


 ニャーの姿を見ていたマリィ王女は、また我に返って仕切りなおす。


「は!! ちょっとお話がそれてしまいましたわね……先ほどのお話の続きですが、あなた達に王城へと来てほしいの」


 リィナは察したように答える。


「もしかしますと……ソラさんのことでですか?」


「……そうね」


「……え、俺か?」


「はい。メールヴァレイの侵攻を受けて南レラデランの城塞の調査が行われた結果。誰かがここを死守したという見解と侵攻のあった当日に召喚の儀式が行われた痕跡を確認しましたの。それでレラデランを守った人と召喚された人が同一人物である可能性が高いと考えられてます」


「……それは俺が召喚された者ではないかと疑いがかけられていると?」


「はい。延いては勇者様の召喚に成功したのではないかと追加で議題もあがりました。今、王都では躍起になって勇者様を探してます。単刀直入に聞きますがソラさん……あなたは当時召喚された勇者様で、お間違いはありませんか?」


 その問いに対してどう答えるか迷う。


 人払いまでしてこの話題を出した時点で、この王女様はある程度の目星をつけてわざわざここまで来たということだ。


 ここでの俺の動きなどとうに情報は得ているだろう。


 勇者だと言ったところでどうということもないような気はするけれど面倒に巻き込まれるのは当然の流れだ。


 かといって嘘を言うのもなんだか怖い。


 はてさてどうした物かと視線を逸らした先でリィナと目があった。


 その目は不思議と正直に話しても良いと信じさせてくれる何かがあった。


 俺はそれだけで決心がついた。


「ああ、そうだな。確かにマリィ様の言う通りで俺は、あの日召喚された」


「……」


 マリィ王女は見つけたと言わんばかりの表情で沈黙を続けた。


「それで6番目の勇者と言われている」


「やはり……そうでしたか。ようやく見つけました……これで先手を打てますわ」


「先手?」


「いえ、こちらの話ですわ。それと……あの侵攻があった日、以降にメールヴァレイ帝国との戦争は一旦終わっているかのような状況になっていますの」


 驚いた様子でリィナ。


「え?! 終わっているって……西はどうなったのですか?」


「西の占領された地区は野放し状態よ。魔物の魔の字もないくらいに静からしいわ。早急に調査に動いてますし、黒も……動いてますわ」


 なんだか不穏な黒の単語。


 アーグレン国の密偵やら暗部のような存在だろうか。


「もしかしてこのまま戦争は終わるのでしょうか……」


「いえ、どうもきな臭いわ。ああも犠牲を払ってまで得た土地を手放しておいて王都まであと一歩のところまで追い詰めておきながら即時撤退。何が起きているのか全くわからない状況ですの」


「マリィがわからないってことはよっぽどのことなのね」


「王女の身で知ることができることなんてこれくらいよ。ウィラットお兄様とお父様は相も変わらず頭の中は、お花畑だしサーヴェリスの力に恐れおののいた。なんて言ってましたけれど……私は勇者様が現れてうかつに手を出せなくなったんだと考えてます」


 難しいことを話しているがなんとなくマリィ王女が何かを目論んでいるのがわかる。


 そしてマリィ王女はニャーがもぐもぐ食べてる様を見てから続けるのだった。


「それと……ニャーのアスラってどういうことですの? リィナは何か知っていますの?」


「はい……ニャーさんはアスラ家の剣を受け継いでるんだと思います」


 するとマリィは少し困ったようにした。


 俺はたまらずその理由について聞くことにする。


「ギルドでもそうだったが……そのアスラに何か意味でもあるのか?」


「そうですね。ソラさんはご存じないですよね」


「話してはないのね?」


「はい」


 そこからマリィ王女は俺にアーグレンという国について知る必要があると続けるのだった。


 アーグレン国の王は代々最高位の神父または聖母がなるもので代々アーグレンという名を継承してきたルクサーラ神の信仰国であるのとルクサーラ神のご加護により国の防衛が成り立ち魔王の手から民を守り抜いてきた国であること。


 現在魔王は6体世界におり、その1体が隣国メールヴァレイ帝国現皇帝の座にいるアヴァラティエスであること。


 王都は強力な祈りの力を持つ女王を筆頭に四天の信徒と四天の守護聖騎士が強固な守りの光の供給源となっている。


 そして王都の各方位については優れた神官であると称えられた神父様と聖母様が守護の光を担当し、それらを守る聖騎士により国が防衛されている。


 ルクサーラ神は愛と守護の女神であり信じるものはその守護により等しく愛されるという教典がある。


 けれど王国は一度、政治内の種族間闘争により人が虐げられていた時代があった。


 しかし晴天様と呼ばれた神父が他種族を抑え人種に覇権を握らせ平和を築き上げた歴史があるのだそうだ。


 それからしばらく経ってアーグレン国の内部にて一大勢力となった人種覇権派が優位に力をふるっているのだそうだ。


 けれどそれは諸刃の剣のようなもので世界各国は基本的に7種族のいずれかが入交国を治めている。


 連携をはかることができないのが今の現状らしい。


 そこで他民族共闘を目的として全種族の平和のため他種族統合派の派閥に二分され派閥争いが起きていることを伝えられる。


 なんだか込み入った歴史の授業を聞いているみたいだった。


 明日にはきっと忘れているだろう。


 しかしラスボスが隣の国にいることに自分の置かれてる状況がとんでもないことに気づかされる。


 それからはニャーのアスラ家の件についてマリィより話されたのだった。


「アスラ家は代々聖騎士を勤める家系なのです。四天の守護聖騎士の一人はずっとアスラ家が担当しておりますし今も長女ヴァレリア・アスラが勤めていますわ。それとロイというのも……それはいいわね。アスラ家は人種覇権派の象徴みたいな家なの。そんな家からニャーのようにビースティアの騎士が出てきてしまっては家の恥として最悪殺しに来る可能性もありますわ」


「なんて物騒にゃ」


「それだけ威厳や体裁って大事なことですの。全体を指揮する以上半端は許されませんわ。だからニャーには悪いのですがアスラという名はあまり出さないでいた方が身のためです。それと……その剣技も」


「わかったにゃ! このお菓子に誓うにゃ!」


「素直ね。ですがリィナがいればあまりことにはならないと思うのですが心配ね……」


 マリィのその言葉を聞いてリィナはニャーに聞く。


「ニャーさんのこともマリィにお話ししても大丈夫ですか?」


「ニャーが勇者ってことかにゃ? ニャーは構わないにゃ」


 自分でそのまま白状するニャーだった。


「え……今なんと?」


 不意をつかれたと言わんばかりに驚きをあらわにするマリィ王女。


「ニャーも勇者なのにゃ。勇者が必要なら多いにこしたことはないにゃ」


 苦笑いしながらリィナ。


「あはは……ニャーさん心強いんですよ?」


「そ、そうね。それなら……もしかしたらニャーさんが切り札になるやもしれないですわね……」


 王女の口からニャーにさんが付いた瞬間だった。


「それで俺が王都に連れて行かれる理由というのって、もしかして人種覇権派の政争に使われるとかか?」


「あら、察しが良いじゃない? そのために私がここまで来たのよ。ほとんどはリィナの無事を確認するためだったけどね。けどわかっていると思うけれど人種覇権派を終わらせるために使わせてもらうわ」


 ニャーへの接し方を見るにこのマリィ王女は他種族統合派というやつだろう。


 レジナードもきっとそれに賛成する立場でここのアメリア領のビースティアが占める割合が多いのはそれが理由なのだろう。


「面倒なことになりそうだなぁ……」


「あら、そんなことないと思うわ。これがうまくいけばリィナの目的だって達成しやすくなると思うの」


 そんなところを掛け合いに出してくるというのはどういうことだろうか。


 今の前提条件で行くならリィナの目的など王女様から見れば俺にはあまり関係のないことのように思えるが。


「桃源郷の果実の入手か?」


「そうね。今や王国は隣国同士の関係はおろか。この戦争の状況でさえ他国の支援や援軍は受けられてませんもの。情報もね?」


「なるほど合点がいった。だからこの物のすくなさというわけか……」


「ふーん……まあ貿易の質もそうね。人が優位に立って動かしている国家なんて世界では片方の指で数えられるくらいしかないって聞くもの。さてと私から話したいことはここまでかしら」


 すると再度改まってマリィ王女は続けた。


「あなたがこれまでしてきたことは本来であれば国王陛下より直々に褒美を受けられる程の功績よ。それを抑えて、この頼みをしています。どうかこの争いに終止符を打っていただけないでしょうか」


 とてもこの頼みを受けるのは面倒ではある。


 けれど結果としてリィナのために桃源郷の果実を得られるかもしれない選択肢が増えるのであれば、やぶさかではない。


 だが一つ気になる。


 国王陛下より直々に賜われるだろう褒美とは一体何なんだろうか。


「ちなみに褒美というと例えば……?」


「そうね……例えば領地を与えられて領主になり貴族の位が与えられると思うわ。今ノードランド領の貴族が暗殺にあってしまってるから、それの後継になるんじゃないかと私は考えてるわ」


「あぁ……」


 俺の反応を見て慌ててマリィ王女。


「た、確かにこんな話は滅多にないかもしれないわ。私も協力してほしいけれど協力し合うため信頼を築く以上嘘は……いやでしたら……断ってくださいまし。リィナのパーティメンバーですもの悪いようには────」


「協力します」


「え? あんなに苦い顔をしていたのに?! どうしてですの?!」


 すると笑いながらリィナ。


「本当にソラさんらしいですね。きっと国王陛下からの褒美は美味しいお酒じゃないか? っておもってたんじゃありませんか?」


 俺はリィナが俺の思考を読んでるかのように言うためとてつもなく驚く。


「な、ななな、そんな馬鹿な事あるわけな、なないだろう? いや本当なんで……すごいな。何で考えてる事わかったの?」


「なんででしょうね?」


 リィナの笑顔が怖い。


 その中で本日二度目のキョトンとした表情でいるマリィにリィナは続ける。


「ソラさんにお願いする時はとっておきのお酒を報酬にすると動いてくれますよ?」


「え、でも……それだけじゃだましてるみたいじゃないですの?」


「大丈夫ですよ。それにソラさんはもう決めてますよね?」


「なんだかチョロい奴みたいに言ってるのは腑に落ちないが……美味しいやつ期待してるぞ」


「わかりました。では可能な限り美味しいものをご用意いたしましょう」


「よし! のった!」


「ありがとうございます。ではアーグレン城にて12日後に王都の主要な貴族を集めた国家議会が開かれます。その時にソラさん達はいらしてください」


 こうして俺が勇者であることを知られマリィ王女の王都招請を受ける。


 そして国内の人種覇権派と他種族統合派の政争に巻き込まれることになるのであった。


 あまり国のいざこざに介入するのはとてもとても面倒ではあるが、これを受けることによってリィナの目的、ヒナを助ける事が叶いやすくなるのであれば儲けものだろう。


 マリィ王女は罪人の連行とアメリア領の視察のために直接こちらへと来ていたため今日、早々に王都へと多数の護衛兵を引き連れて帰るためここで別れることになった。


 俺たちの存在は一旦伏せる必要があるためマリィ王女とは別れて一旦遅れて王都へと出発する手はずとなった。


 12日の国家議会が開かれる前に最初にマリィ王女のいる王城へと直接行くと打ち合わせた。


 そして人種覇権派をつぶす計画についてはそこで話すことになった。

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