第52話 王都招請
王女の前でひざまずくリィナにゆっくりと語りかける王女。
「面を上げてリィナ……」
「はい」
「御無事でなによりです。アメリア領が襲われたことを聞いて急いで来てしまいました」
なぜかリィナを気に掛ける王女。
「マリィ様には大変ご心配をおかけしてしまい申し訳ございません」
「本当に……ですよ?」
マリィと呼ばれる王女様がレジナード達の方へと目くばせをするとレジナードと青い青年がこちらへときた。
青い青年はそのままでレジナードが物申したそうにしているマリィに伺う。
「マリィ王女いかがなさいましたか?」
「リィナとお話がしたいですわ。お部屋をまたお貸ししてくださらないかしら?」
「ええ、もちろんでございます」
とりあえず俺とニャーはお呼ばれなどされなさそうなので跪いた姿勢でいるとリィナ。
「あの……マリィ様。この者らも一緒ではいけませんか?」
「こちらの方は?」
「ここアメリア領をお救いくださいました葉っぱの英雄様です」
なんて紹介の仕方であろうことだろうか。
「ほほぅ。隣のは……ビースティアであるか?」
「はい。このビースティアは此度の依頼にて共にパーティを組むこととなった者でございます。信頼に足る者です」
「ふむ……リィナらしいわね。許します。そこのビースティアも一緒に」
「はい! ありがとうございます! 行きますよソラさん、ニャーさん」
すると青い髪の聖騎士は少し訝しむように王女へと進言するのであった。
「マリィ様! それは────」
すると王女の気迫が感じられるような声で青い髪の聖騎士を制するようにマリィ。
「アレックス・ロンド! ここには誰がいて?」
「は……はい! マリィ様とアメリア様方、そして英雄様とビースティアの……」
「つまり……心配無用でございます」
「で、ですがこんな得体のしれない連中、ましてやビースティアなど────」
言いかけたところに遮ってマリィ王女。
「アレックス? 二度はないわよ?」
そんな空気の中で王女の横に現れたのは、ここアメリアの執事ロンドールだった。
「お待たせいたしましたマリィ王女様。ささ! こちらに新しくお部屋をご用意いたしましたので、ごゆっくりとお寛ぎくださいませ」
ロンド―ルはレジナードにあとはお任せくださいと言うような素振りをしてから王女様の前でひざまずく。
「気が利くわねロンドール」
「お褒めのお言葉ありがとうございます。さてリィナ様、ソラ様、それとニャステンブルク様もこちらへ」
俺が少し難しい顔をしてしまったのを見たのか察したのかわからないがリィナが俺を見て首をすこし横にふった。
けれど、それ以前になぜかロンドールがニャーの名前を知っているのが不思議だった。
入口での会話を聞いていたのであろうか。
それからロンドールに案内されて奥の部屋へと通される。
案内されたのは、以前朝食をみんなで摂った居間であった。
暖炉近くにあるソファへとゆっくりと腰を下ろして何かを確認するかのようにあたりをきょろきょろと見まわしてからマリィ王女。
「わかってるじゃない」
微笑みながらロンドール。
「堅苦しいのは苦手と存じております。お変わりないのですね?」
どうやらロンドールと王女様は互いに知り合いのようだった。
マリィは途端に先ほどまでの気迫を発していた威厳ある王女様から気が抜けたようにソファでくつろぎはじめたのだった。
「あなたもお元気そうでうれしいですわ。先ほどはあまりお話ができませんでしたが、さてと……はぁ、もう疲れたましたわ。外は大丈夫そうですの?」
ロンドールは扉を開けて外を見てから戻ってきて答える。
「はい、問題はございませんよ」
「まったくアレックスは……すぐお父様にお話ししてしまうから面倒ったらしょうがないわ」
「では私目はこれで、後ほどお茶をお持ちいたします」
「ありがとうロンドール。それとアレックスには外で待っててって伝えておいてください」
「はは。光栄でございます。アレックス様にはそのようにお伝えしておきますね」
そう言ってロンドールは退出した。
それからくつろいでいるマリィにリィナ。
「大変ですねマリィ王女様」
「いつものことよ。それとね……久しぶりの再会よ! リィナ! マリィって呼んで!!」
すると少し笑ってリィナ。
「ふふ。はい。 マリィ!」
そんな微笑ましいような光景は二人がまるで友達同士のような間柄にみえる。
「もうすっごい心配したんだから!! メールヴァレイの奴らに攻められてから王都にはいないしアメリアに帰ったって聞いて安心したかと思えば今度はアメリア領内でアメリア邸が占拠されてて反乱は起きたって聞くし。もう……」
「すみません。ご心配おかけしました」
「本当に心配したんだからね? 何かあったら言ってって言ったのに!!」
「ですがあの時はあまり……そのような状況じゃなかったので……」
「確かにね。大変だったといえば大変だったけどサーヴェリスがなんとかしてくれたし、それに……」
そう言いながら一呼吸おいてマリィは俺を見た。
「あなたが南の要所。レラデラン城塞を守ったって本当ですか? あの時を詳しく知りたいのです」
王女様がなぜか少しかしこまって俺に問う。
これはなんだろうか。
あまりどういう状況なのかいまいちつかめてない。
リィナとこの王女様はずいぶんと親し気な感じではあるものの下々の俺は口の利き方一つ間違えてしまうものならば首でもはねられたりするのだろうか。
だがうまく答えられるような気はしない。
とりあえずお茶を濁したほうがいいのだろうか。
ええい、なるようになるしかないだろう。
「いや、私の存じ上げるところにはないでございまする」
すると王女様はため息をつきながら頬を膨らませる。
「はぁ……もう、あなた緊張してるって感じじゃないのに濁しちゃってどういうつもりよ?」
割って入る様にリィナ。
「あの、ソラさん大丈夫です。マリィ様は私も信頼してます。ソラさんの悪いようにはならないと思いますよ?」
そう言ってリィナは俺に笑顔を見せるのだった。
緊張してる感じじゃないと言われてしまったがこう見えて目の前に王女様がいれば緊張の一つや二つするものだろう。
けれどリィナの笑顔がその緊張をほぐしてくれて俺はとりあえず事の成り行きを話すことにした。
「あ、そう……まあ、リィナがそう言うならいいか。要所を守ったつもりはないが四大従魔とかいう訳の分からないのと戦ったのは覚えているぞ」
「やっぱり……それがなかったらと思うとぞっとするわ。それにアメリア領での一件も……」
すると少しの沈黙を経てからマリィは立ち上がって急に改まるのだった。
「申し遅れてしまってごめんなさい。私はマリィ・ベル・アーグレン。アーグレン国第四王女です。アーグレンを守ってくれたこと。私の親友リィナを救ってくれたことを心からお礼を申し上げます」
そしてマリィ王女は俺に頭を下げたのだった。
王族ってこんなにあっさりと頭をさげるものなのだろうか。
SNSやらなにやらで情報がマッハで伝達する時代ならいざ知らず。
そんな物などなさそうな時代に威厳の一つ、礼の一つ、権威の一つで今後を判断されかねないだろう立場でもあるはずなのに。
ただ誠心誠意、礼を述べてもらった。
そこまでされたのであれば俺もこたえなくてはならないだろう。
「い、いやいやいやいや本当に成り行きとかさ。運でそうなっただけでさ。それと俺はカタナシ ソラ。適当にソラって呼んでくれ」
普通に動揺して何も言えなかった。
ニャーの方が礼儀正しいまである。
「ありがとうございます。わかりました。サーヴェリスもソラも……アーグレンを救ったことに変わりはないのですね。あと一歩違えていたら今日のような安寧の日はなかったの。本当に感謝しています。それとそこの……」
俺へのお礼を述べ終わり王女の表情がすこし変わる。
しかしそれは気のせいにも近いような変化であるためその違和感の正体がわからない。
そんなことを考える暇もなく王女の視線の先にはずっと帽子をとって胸に当てていたニャーがいた。
けれど何もしゃべらないニャーにリィナが王女様に言う。
「ニャーさんですか?」
リィナに呼ばれて初めて反応するニャー。
「にゃにゃ?」
やはり珍しいものを見るようにまじまじとニャーを見つめてマリィ王女。
「ニャーさんって言うの? 先ほどニャステンブルクってロンドールが言ってましたけど?」
その問いに姿勢よくかしこまって深々とお辞儀をしてからニャーは答える。
「お初にお目にかかりますマリィ王女様。おいらはロイ・アスラ・ニャステンブルクと申しますにゃ。気軽にニャーと呼んでほしいでございますにゃ」
はにかみながら口ひげを整える仕草。
するとマリィ王女は口元に手を当てて震えはじめるのだった。
恐る恐るニャーが何かまずいことをしたのかと聞きたげに俺とリィナをちらちらと見る。
そして数秒経った後にマリィ王女がどうしてそのような態度であったのかがわかることとなった。
「……んんんんんんんん!! かわいいわ!!」
抱きつきたそうにしているがすごいこらえているマリィ王女。
「にゃ?」
ポカーンと驚いた表情でいるニャー。
リィナは笑いをこらえていた。
ニャーにおそるおそる手を伸ばすがこらえようとするマリィ王女はたまらずニャーに聞く。
「な、なでてもよろしくて?!」
「なでていただけるなど光栄だにゃ。おねがいしますにゃ」
そしてそっとなでるマリィ王女。
マリィ王女は万遍の笑みを浮かべながらご満悦の様子だった。
「はぁ、ビースティアの方々って奥が深いものよね。まさかこのような希少なお方がおられるなんて……」
うっとりとニャーを撫でて余韻に浸る。
そこへリィナが笑いながら正気を戻すように呼びかける。
「あのマリィ? ここへ呼んだということはお話があったのではないですか?」
はっと我に返ったマリィ王女様。
「っ! ありがとうニャー」
王女様の語尾にニャーが付いたように聞こえてしまう。
「楽しんでいただけたようで何よりにゃ」
「んんん! 抱きしめたいけど我慢ね……」
「にゃ?」
「さっきはごめんなさいね。ビースティアへ向ける態度は王族として、ああするほかはなかったの……」
そうだ。
邪見にするような目、あの青い青年はニャーを汚いものでも見るような目でいた。
「かまわないにゃ。ニャーはリィニャが困らなければそれでいいにゃ。それにマリィ王女様もいい人の匂いがするのにゃ。ニャーはマリィ王女様も困らなければそれでいいにゃ」
「ニャーさん……」
「なんて素敵なお方なのニャー……」
感動している二人をよそになぜかギロリとにらみつけるニャーの視線が俺に向けらる。
「だがしかしソラ。おまえはだめだにゃ」
「なんでだよ」
そのセリフどっかで聞いたぞ。
「キャロライナがやってきた時にソラは何かを察したように隠れたにゃ? あれはニャーを見捨てたにゃ」
キャロライナ呼びとはあの一瞬ですごい調教されたな。
「いや、まさかああなるとは思わなかったし……」
「絶対にゆるさないにゃ! ニャーは死にかけたにゃ!!」
「じゃあ、どうしたら許してくれるの?」
「もっとソラが料理作ったら許すにゃ?」
「そんなんでいいのかよ」
「おいしいものには逆らえないのにゃ」
「安い舌だな。くいしんぼさんめ」
「なんとでも言うにゃ。おいしいものはおいしいのにゃ」
「そう言われると照れるな」
これは王女様の前でやるようなやり取りではないのだがポカーンとこちらを見ているマリィ王女。
「ねぇリィナ。あの二人どういう関係なの?」
「仲は良いのですが……私もよくわかりません」
「へぇ……そうなのね。それで……本題です。あなた達に王城アーグレンへと来てほしいの」
そして本題が先延ばしにされていってしまうなかでマリィ王女は何とか切り出したのであった。




