第51話 来訪者
リィナが液体になったニャーを持ちにくそうにしていたので俺が伸びているニャーを抱きかかえてギルドを後にした。
真銀級については一旦保留ということにして、とりあえず冒険者としての階級が俺は銅級から金級、リィナは銀級から白金級へと昇格することとなった。
まるで二階級特進である。
縁起でもない。
伸びている猫様のニャーは初登録のため銅級からスタートすることになった。
ただ俺達が話た内容から実力については遜色ないためすぐに階級はあげられるとカールは言っていた。
この階級が上がることについてはギルドからの信用もあると言っていたことを思い出したがこの信用の大半はきっとリィナがいるおかげだろう。
一旦、停留所に置いてあるニャーの馬車を回収するべくそこへと向かう道中。
ニャーがぴくぴくと動き始めおめめをぱちくりさせる。
「にゃ……にゃぁ」
「お、めざめたか」
「ソラ……ニャーは一体?」
「ニャーさん大丈夫ですか? カールさんに抱きしめられて気絶してたのですよ?」
「お、恐ろしかったにゃ。あたり一面に地獄の肉壁が迫ってきてニャーは……ニャーは……」
「大丈夫、大丈夫だ……もう大丈夫」
俺はぴくぴくと震えるニャーをそっと抱きしめるのだった。
この痛みはやられた者にしかわからない。
するとニャーは何かを察するように。
「ソラもかにゃ?」
俺は無言で答えた。
俺とニャーは少し心が通じ合ったような気がした。
けれどニャーは何故か俺に疑いの眼差しを向けていたのだった。
それから馬車を回収して俺が馬車をひいてリィナは横に並んで歩く。
ニャーはなんだか疲れたと馬車の帆のところで横になっていた。
街中でひいているため道行く人からの注目がとても痛い。
「なんだあれ?」
「すげえあの人、馬車引いてるぞ?」
「隣にいる方はリィナ様じゃ?」
「そんな……リィナ様が奴隷を?!」
「そんなばかな。奴隷を見せしめにするなどここでは……」
「レジナード様は反対を貫いているのにそんなわけがない」
「あれ……よく見たら葉っぱの英雄様じゃないか?」
「なんで葉っぱの英雄様が馬車を?」
「やはり英雄様は何をお考えになられてるのかわからない」
「俺達平民に英雄様のお考えなんてわからないさ」
俺も俺が何でこんなことをしているのか考えてもわからないが理由はいたって単純だ。
馬車をひく馬はいないが馬車をひける人間がいただけの話でそれ以上でもそれ以下でもない。
こんなに注目されていても隣を歩いているご令嬢は平静を装っている。
いや装ってるんじゃなくて本当に平静でいる。
「いろいろありましたが冒険者としての初の依頼をちゃんと果たせてよかったですね!」とか「ソラさんってお料理が本当にお上手ですよね? もしかしてほかにもレパートリーがあったりしますか?」やら「ニャーさんが気絶しちゃってる時なのですが、もう全身ぷにぷにでやわらかかったんですよ! あんなぬいぐるみがあったらいいですよね」とか。
この人は周りの反応とか気にならないのだろうか。
けれどよく見るとその目は少し常軌を逸してしまっているような雰囲気もあった。
思うのだが異常者に対してそれに慣れる健常者という構図で麻痺してしまっているに違いない。
ここへ向かう道中は確かに暴走気味だったけれど、ここで普通の人たちに触れて正気に戻った気もする。
その理屈でいくならあの筋肉お化けがリィナの言う普通であったのなら俺たちは無色透明であることには違いなくなるだろう。
リィナとのおしゃべりに俺も普通に話をして団らんとした雰囲気の時をすごす。
賑やかな町を通り過ぎて元居た所が少し遠く見えるところまで来る。
丘の緩やかな坂。
高原らしい景色に晴れやかな天気。
周囲を綺麗に包み込んでアメリア邸は見えた。
アメリア邸を見て興奮気味にニャー。
「にゃー! あれがリィニャの家かにゃ?!」
目をまんまるとして驚いているニャー。
「はい。そうですよ!」
「おっきいにゃ。リィニャはお姫様かにゃ?」
リィナは驚いてるニャーに微笑みながら答える。
「アメリア領、領主の娘なのでお姫様じゃないですね」
「お嬢様にゃ……リィニャんち、お金いっぱいありそうだにゃ」
リィナは笑いながら答えた。
「ミダスの商人さんは商魂逞しいですね? 残念ですが私のお家にあまりお金はありませんよ?」
「あんな立派なのにそうなのかにゃ?」
「はい。主な収入源は牧畜と他国の行商人との輸出入での交易です。そして領民のみなさんからの領税ですがほとんどは国税としてとられますし残りは街道整備でしたり警備なんかで兵士さん達のお給料になってるみたいです」
何か納得するようにうなずきながらニャー。
「にゃあ。それは大変だにゃ」
「なので私達が使えるお金は最後に残った部分だけですね」
こういうのを聞いてるとレジナードはちゃんと領主してるんだなと思う。
ただ一つ疑問に思うのが他国との交易があるのならもっと物であふれていてもいいのにとも思う。
調味料とか食材とか工芸品やらエトセトラ。
氷も自分達で出せるんだし保存には事欠かないだろうに。
何か理由があるのかもしれない。
まてよ聖女様から出た氷っていわゆる聖水────
そんなこんなと考えていたり話しているうちにアメリア邸門前に到着した。
アメリア邸を守る白壁の薄い膜は今はなくリィナが「どうしたのでしょうか」と門に駆け寄って開けてくれた。
ご令嬢が直々に邸宅の門を開けてくれるってこういう世界感だとありえないような気がする。
少なくともおつきの人はいるだろうし、アメリア邸には執事のロンドールさんやメイドさん達がいるよな。
そんなことを考えてふと気づく、今のおつきの人って俺とニャーだ。
なにをしているんだろうなおつきの人。
相変わらずの広々とした邸宅に足を踏み入れ馬車も簡単に通れるほどの舗装された大きい道を進んでいく。
庭に植えられた花や植物はいきいきとした姿を見せており手入れが行き届いていた。
あの日の荒れた景色が嘘のようだった。
するとなにやら邸宅正面の玄関に豪華な馬車と綺麗な馬があるのが見える。
そして後ろには鋼鉄の檻が備え付けられた馬車がもう一台留まっているのが見えた。
とりあえず護送車両みたいなのであることはわかる。
反乱に加担した者達を王都に送るための馬車なのだろう。
それはいいのだが豪華な方の馬車は偉人か誰かが来ているのだろうがよくわからないのでリィナに聞く。
「あれってなんの馬車?」
「あれは王都アーグレンの馬車……罪人護送で兵士達が派遣されるとは聞いていたのですがまさか……」
それから舗装された道のりに沿って邸宅横にある停留所に馬車を留めて正面玄関へとたどり着き中へと入った。
すると使用人のビースティアのティノが元気よく出迎えてくれるのだった。
紺色の猫耳、黒いサラサラのショートな髪型とすっと伸びた尻尾。
黒を基調としたメイド服と白いエプロンがとてもよく似合っている。
「おかえりなさいませ! リィナ様! 葉っぱの英雄様! それと……?」
「もどりましたティノ。こちらは旅先でパーティを組むことになりましたニャーさんです」
するとニャーはすっと前へでて羽付きの赤い帽子をひらりととって挨拶をする。
「お初におめにかかりますにゃ。ニャーはロイ・アスラ・ニャステンブルクと申しますにゃ。少しの間厄介になりますにゃ」
メイドのティノは目を輝かせながらお辞儀する。
「こ、これはご丁寧に! 私はティノです。アメリア邸で使用人として働かせてもらってます!」
挨拶もおわりリィナ。
「それでティノ。罪人護送で王徒より兵士が来るとは聞いてましたが……」
「はい。そのように私もうかがっていたのですが────」
すると扉の開く音がして奥の応接間だと思れる部屋よりレジナードが出てくるのが見える。
その横には全身白銀の鎧にひらりとなびかせる深紅のマントのしならない男が見えた。
マントには黄色く輝く太陽に向けられた杖のシンボルが描かれており直剣を脇に差した青い長髪、青い目をした美形の青年が現れる。
両耳に下げられたピアスの光がちらりと青い長髪の隙間からキラキラと見える。
そしてその奥より現れたのは、ヒナのような白髪で長い髪が腰までかかっている女性だった。
ヒマワリのようなかんざしが編み込まれた髪を後頭部のところでとめている。
派手ではない淡い黄色と白のドレスを着ている様はどこか気品にあふれている。
最も特徴的なのはオレンジ色の瞳をしているところだ。
そんな気品あふれる女性が青い髪の青年に誘導され部屋から出てきたのだ。
その隣でレジナードがひざまずく。
瞬間、リィナも廊下の横へと下がりひざまずいたのだ。
咄嗟のことだったので俺もマネをしてしまった。
見よう見まねでニャーも一緒になって赤い帽子を脱いだままにひざまずいている。
リィナが後ろに控えた俺とニャーを見て少し頭をすっと下げた。
するとその白い髪の女性の靴を絨毯がやわらかくキャッチしていく音が聞こえ徐々に早くなると。
青い髪の青年の声。
「マリィ様いけません!!」
澄んだような力強い声で呼び止められながらも駆け寄ってくる白い髪の女性は開口一番に。
「リィナ!!」
白い髪の女性はリィナの前へと行き手を取るのだった。
そしてリィナ。
「おひさしぶりです。マリィ・ベル・アーグレン王女様」
なんとこの白髪の女性は王女様だったのだ。




