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第49話 馬車を引いてルロダンへと

 異世界召喚されたら馬だったのできままに馬車をひいてみました。


 そんな話があったのかもしれない。


 変なことを考えていたら心配そうにリィナが言う。


「ソラさん。休みたい時は休みたいって遠慮なく言ってくださいね! それに靴も……足痛くないんですか?」


「うん。ありがとう……リィナって気が利くね。本当に……でもね。当分まだまだ引けそうだよ?」 


 苦笑いしながらリィナ。


「あはは……すごいですねソラさん……やっぱり勇者様ですね!」


 どこの世界線に馬車引く勇者がいるだろうか。


 ここにいるけれども。


 あの音速を超えた衝撃波で靴も爆散してしまったので裸足だ。


 無用に気を遣わせることになってしまった。


 元の世界であれば単身馬車をひくなんてとち狂ったことなどしないだろう。


 せめて荷車だ。


 それに裸足であるのならば痛くて痛くてしょうがないはずだ。


 召喚されてからこういうのをあまり気にしないようにしていたのだが全く大丈夫だ。


 不思議と足は痛くない。


 こういうところに自分の体が自分じゃないみたいな恐怖を感じる。


 もっと考えるべきところはあるだろうに。


 それから俺たちは進み続けた。


 ニャーは馬車の横で物珍しいものを片っ端から遊んだり触ったり見たり嗅いだりしている。


 つまりなんか遊びまわっている。


 これはあなたの持ち物が大半だぞ二番目の勇者さん? と心の中でつぶやく。


 しかし楽しんでいるニャーを見ていると不思議とこう怒りがわいてこない。


 猫だからだろうか。


 そういえばニャーはあの村から出たことがないと言っていたので外の世界が珍しいのだろう。


 だとしてもそこまで周囲の環境が変わったようには見えないのに、はしゃいでいる。


 道中いろいろと思う所はあるものの足が擦り切れてしまいそうなほどのごつごつとした山道を容易く登っていく。


 青臭い匂いのする生い茂った草原がゆらゆらと風になびくところに風情を感じながら引く馬車は最高だ。


 またしてもそんな馬鹿なことを考えていた俺を励まそうとしたつもりなのかリィナ。


「あの、その……手綱を握らなくていい便利なお馬さんだと思うととても優秀ですよ!」


「いや別に不機嫌とかそういうのじゃないから。気を使ってくれてありがとね」


「いえ、その……あの……すみません」


 なぜその言葉をチョイスしたのか聞きたいほどの辛辣なお言葉を頂戴するのだった。

 

 ご本人様は褒めたつもりだろうが馬であることに変わりはない。


 それと手綱のいらない便利なお馬さんってなんだ。


 自動運転かな。


 俺は、ふとそこで思い立った言葉が漏れてしまう。


「いやまてよ。ドMにとっては最高のシチュエーションでは……?」


「ドエム……?」


 お嬢様の知らない単語で本当に良かったと切に思う。


 しかし金髪美女に手綱を握られ「さあ、走りなさい! この豚野郎」なんて言われながら鞭を叩かれ馬車をひくシチュエーションとはもしかしたらきっと燃えるのかもしれない。


 いや燃えてしまうのだろう。


 だがしかし、すまない……俺はドMじゃない。


 妄想の中で馬から豚になってしまったような気がするが気のせいにしておく。


 メドレ村からルロダンへの遠回りの道のりも終盤を迎え最後の坂を上りぬいて下っていく。


 山を避けるようになだらかな道を選んだつもりでもそこそこ上り下りの激しい道のりだったように思う。


 だが悔しいほどに俺の足はよく耐えている。


 それどころか余裕すらある。


 もはや怖い。


 それからしばらく進み続けてようやくルロダンへとたどり着いたのだった。


「長かった……」


「お馬さんえらいえらい」


 そう言いながらリィナは俺の頭をなでていた。


 羽織来た葉っぱ一枚の男をなでる聖女。


 事案ではないだろうか。


 完全にリィナの目が逝ってしまっている。


 非常識の中に埋もれてしまった常識人というのはこうも脆いものなのだろうか。


 なぜか道中で俺を気にかけて言葉をかけてくれていたのだが次第に本物の馬のように声をかけてくれるようになっていたのだ。


 その間ニャーは遊んでいた。


 いやここは、はっきりさせた方がいい。


「リィナ……俺は馬じゃない」


「えらいえらい!」


「その手をやめろう!!」


「ああ、すみません!」


「立派な馬だったにゃ。ありがとにゃ」


 ひらりと馬車から降りるにゃーは悪びれることもなく髭をちょんちょんと触って手をなめていた。


「もうやらないからな!」


 それから俺達は街の監視所へとたどり着き衛兵と顔を合わせるもリィナの顔パスで通れてしまう。


 馬車をひく俺を見る衛兵達の顔をきっと忘れないだろう。


 そこで衛兵にリィナ。


「あの~今よろしいですか?」


「は、はい! リィナ様!! い、いかがなさいましたか?」


 なにやら緊張な面持ちの衛兵。


 リィナは少し衛兵の様子を見てから続ける。


「新人さんですか?」


「はい! リィナ様とお話ができてとても光栄であります!」


「こちらこそお話できて嬉しいです。私とお話する時はそこまでかしこまらなくて大丈夫ですよ?」


「あ、ありがたきお気遣いをしていただたきありがとうございます!」


 すごい緊張している兵士、そこへ裏よりベテラン風の兵士が一人こっちへと来た。


「すみませんリィナ様。こいつは一昨日配属されたばかりでまだ慣れてないんです」


「いえいえ、がんばってくださいね!」


「は、はい!!」


 元気に新人衛兵は返事をした。


「それで折り入ってお願いがあるのですが……着替えってあったりしますか?」


「へ? 着替え……ですか? 女性兵士のものくらいしかないのですが……」


「いえ、私じゃないんです。あの馬車を引いてる人の……」


「あ」

「あぁ」


 二人して同じような反応をするのはやめていただきたい。


「あれが、葉っぱの英雄様ですよね?!」


「まて、葉っぱの英雄様は葉っぱと呼ばれることを気にしておられる。あの方の前では英雄様と言うのだ」


「は、はい! すみません」


 その注意を本人の前で言わないでほしい。


 そしてリィナは苦笑いしながら答える。


「あはは……それではここの一般の兵装で構いませんので着替えをお願いしてよろしいですか?」


「はい! 謹んでお受けいたします! ささ、英雄様こちらへ!! 馬車は……あちらの停留所へどうぞ! しかし立派に引いていらっしゃいますな!」


 こんなことそう言われないだろう。


「あ、まあね。それと英雄様じゃなくてソラでいいからね。本当に」


「すごいにゃ! ソラは英雄様なのかにゃ?」


「そうですよ! 私や皆を守ってくれた英雄様なんです」


「英雄が葉っぱ一枚ってすっごいかっこつかないのにゃ」


 余計なお世話だ。


「そうなんですよね……もうちょっと衣服に執着した方がいいと思うんですけど……その点ニャーさんはお洒落さんですね」


「騎士として身だしなみと髭を整えるのは大切なことなのにゃ」


 そんな他愛のない会話を聞いた後に俺は兵舎にて用意された着替えを着る。


 英雄様にお渡しするのに一般兵の物では示しがつかない。


 などと言われてしまい豪勢な物を用意されてしまった。


 ところどころ華美な装飾のついた重厚感あふれる西洋風の甲冑。


 ふと肩のところを見れば光輝く太陽に向かう杖の絵。


 それが国旗であることに今更気が付いた。


 それは置いとくとして、とりあえずとんでもなく派手な着替えがきてしまったので地味な奴で大丈夫だと伝える。


 するとしょんぼりと新人兵士君はまた着替えを探しに行くのだった。


 それから少し経ってからようやくちょうど良い着替えを持ってきてくるのだった。


 茶色い歩きやすいブーツ。


 下地は黒く頑丈そうなボトム。


 鎖帷子のついた長袖のTシャツのようなものと少し細工のある胸当て。


 肩から腕まで銀色の金属板に細工のあるグローブ。


 なんかかっこいいけど刀を扱う上で邪魔なので左腕だけグローブをはめることにした。


 そしてその上にニャーからもらった羽織に袖を通す。


 まるで西洋かぶれの侍になってしまったような気分だ。


 その姿を見て新人兵士はなにやら感動した様子で言うのだった。


「ソラ様……とても、とてもお似合いです! まるで英雄様です」


 こいつまるでって言ったぞ。


 敬ってるのかこいつら本当に。


「あ、ありがとう。それと様はつけなくていいからね?」


「は、はい!」


 それからリィナ達と合流する。


「またせたな」


 ニャーは目をまん丸にしてこちらを見る。


「にゃー! ソラがまともにゃ!」


「まともってなんだよ」


 リィナは万遍の笑みでご機嫌な様子。


「すごい! とても似合ってますよ!」


「お、おうありがとな」


「今度はちゃんと着ててくださいね?……ね?」


 リィナの圧が少し怖い。


 その表情をニャーもじっと見ていた。


 怒らせたらまずいと言わんばかりの顔をしている。


 それから新人兵士とベテランの兵士に別れを告げてから馬車の停留所にて少しだけ一休みをいれることにした。


 道行く人たちはニャーを物珍しいものでも見るかのようにじろじろと見ている。


 ひげをちょんちょん触ってニャー。


「ニャー人気者にゃ」


「考えてみればしゃべる二足歩行のネコって珍しいんだよね?」


 何故かぼーっとしているリィナ。


「は! そうですね……ここでは珍しいだけで済みますが一部の領と王都ではどうなるかは不安です」


「いっそのこと首輪でもつけて猫の散歩みたいにしてみるか?」


「ニャーはペットじゃにゃあにゃ」


 ニャーは足をばたつかせて違う違うというように体をくねらせる。


 その光景を見てご満悦な様子でリィナ。


「う、ニャーさん可愛い……そうですね。ニャーさんにはとても悪いのですが場合によってはそうするほかない……時が来るかもしれません。ですが大体の場所では問題はありません。場合によっては捕まってしまう……かもしれませんが……」


「そんな大変なのかにゃ?!」


「はい……すみません。人種覇権国家ですので他種族への差別が強いんです……他種族を国政に入れることをせずに自分達の文化や主権を守って他種族による犯罪を制御したりした一面もあるります。それに歴史的に他種族への印象があまり良くないのが今の国民性につながってるんだと思います。こんな事をニャーさんにわかっていただくのは本当に申し訳ないのですが……すみません」


 リィナは悲しそうな顔をして謝る。


 けれどニャーはどこかあっけらかんとした表情であった。


「そうかにゃ。いろいろあるんだにゃぁ。にゃーは別にいいにゃ。リィニャが困らなきゃそれでいいにゃ」


「ありがとうございます……」


 リィナの目はより悲しそうだった。


 ニャーの生い立ちやそうなった元凶を考えるのであればこの国の人種覇権国家であることや他種族差別が根底にあることは間違いないからだろう。


 ギルドでの依頼ですら無視されてしまうほどに差別されてしまっている。


 どうしてそこまで嫌うのかはわからない。


 なにかそこに特別な理由でもあるのだろうか。


 あまりにも常軌を逸しているように見える。


 それから一休みを終えて俺たちは依頼の報告のためルロダンギルドへと向かった。


 馬車はそのまま停留所にて預かってくれることとになり、その足でルロダンギルドへと辿り着く。


 そんなに時間が経ったわけではないが見るのが久しぶりな感じがする。


 とても不思議だ。


 重厚な扉を押して中へと入り受付にいるビースティアの赤い毛並みが特徴のネコ娘、コナに話しかける。


 ニャーはマスコットっぽいけれどコナの姿は完璧な異世界獣人キャラって感じだ。


 時々耳をピンピンっとさせているのも何かの癖か習性なのだろうか。


「こんにちは! これはアメリア様。ソラ様お帰りなさいませ!」


「ただいまもどりました!」


 リィナは笑顔で答えるとコナは早速ニャーの存在に気づく。


「そちらの……可愛らしいビースティアさんは新しいお仲間ですか?」


 ずっと疑問に思っていたのだがニャーは結構ビースティアからかけ離れた見た目だがやはりビースティアなのだろうか。


 そしてニャーは帽子をさっと脱いでお辞儀して答える。


「そうにゃ、リィニャの旅に同行することになったロイ・アスラ・ニャステンブルクと申す者にゃ」


「あ、あのアスラ家の騎士の方でございましたか!」


 コナが話したアスラ家の騎士、何か意味ありげな感じだがニャーは首を傾げて答える。


「なんにゃのかはわからないけどそうにゃ!」


 しかしリィナは何かを知っている様子で話した。


「ニャーさん……コナさん、すみません。アスラという名であることに変わりはないのですがそのアスラ家の方々とは無縁なんです」


「ん? そうなのかにゃ?」


「ニャーさんごめんなさい。一旦そういうことに」


「わかったにゃ!」


「あら、そうでしたか。確かにあの家系はビースティアに家名を与えることなんて考えられませんからね」


 リィナは少し気まずそうに話を切り替えた。


「そして依頼の報告なのですが……」


「はい。承りますよ!」


 それから向かった依頼先で何が起きたのかを全部話した。


 依頼した人やその村は全滅していたこと、そしてエンドルプスやそのほか多数のハイルプスとルプスが巣くっていたこと。


 その話を聞いたコナは次第に青ざめた表情で言った。


「ええ?! え、え、え?! エンド……エンドルプス……あの?! 本当に討伐されたのですか?!」


 周囲がざわめくのと同時にニャーは得意げに言う。


「にゃー! にゃー達がちゃんととどめを刺したにゃ」


 そして自分たちの功績が信じられないようにリィナ。


「ごめんなさい。私も少し信じられないのですが……エンドルプスを討伐したんだと思います。実物を見たのも初めてですのでわからないのですが……」


 リィナはエンドルプスの一部をコナへと渡すのだった。


「これが……もし……本当であれば歴史的快挙どころの話じゃないですよ? 王国が軍を率いて犠牲を出しながらようやく倒せる怪物をあなた方は1パーティのみで倒したのですから……聖騎士長や聖騎士の方々でないとそうそうできるようなことではございません」


 ここで一つ重要な情報がわかった。


 俺とリィナ、そしてニャーが力を合わせて倒した存在を単騎で倒せそうなやつがいるのだと。


 もしそんな奴らと戦うことがあれば一体どうなってしまうのか。


「褒め称え敬うにゃ!」


 俺の心配事をよそにニャーはどや顔だ。


 リィナは苦笑いしている。


 もはや板についてしまったような苦笑いな気がする。


「あはは……一応これが事の顛末です。調査は任意でしていただいて大丈夫だと思います」


「そうですね。ギルドマスターに報告してからでないと事の対処は私には出来かねます。久しぶりに仕事をくださってありがとうございます!」


 なぜか感謝されるのだった。


 それから報酬の件の話を済ませてついでにニャーのギルド証をもらうため手続きを済ませるべく俺たちは待合の椅子に腰かけるのだった。

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