第45話 刀とレイピア、光の祈りの協奏戦
ニャーの放つ一撃は完全にやつの右腕を抑えていた。
迫りくるもう一つの爪。
ニャーが止められて俺が止められないじゃ話にならない。
しかし普通に勢いを込めたとして、ただの突きでは押し敗けてしまうに違いない。
そうなれば技に乗せて威力を強める必要がある。
紫電華撃や天雷一閃、烈風、神風と刀の記憶が教えてくれた技に頼るしかない。
俺が努力して獲得した技なわけではない。
練習もなにもなしになぜかできてしまう不思議な体験をしているが先人が血と汗と涙の結晶を刀に宿してくれたからこそ成せることだ。
ニャーが最上級の突きを放つのならばあの技しかない。
右手に握った刀はやや肩より高い位置に引いて構える。
刃先を左手の親指と人差し指の間へと添えて一直線に構えて狙いを定める。
左手、手の内は強く握らず弱く握らず。
卵を握りつぶさずされど支えとして生かす。
すると不思議と懐かしいようで見たことのない記憶がよみがえる。
────「これが私の刃、きっと……きっとこれならあの悪鬼の喉元に届くだろう」
万遍の笑顔で語る和服を着た謎の女性が脳裏に現れる。
江戸時代、いや大正。
近代に近い服装に思う。
そしてダンテと戦う前、ララナの光の壁を砕いたあの時にはなかった感覚が宿る。
知らずと技の型が記憶に上書きされていく。
光の壁をぶっ壊した技がより段階を経て洗練さが増したのを感じた。
基礎を固め足に力を入れる。
胴を強固に地面へと乗っけるぶれることを許さず。
手の内を作り、打ち起こしから引き分ける動作。
右腕をいっぱいに引く。しかし力は入れない。
満を持して会に至り離れる。
まるで張り詰めた弦が力をかけず均等にひっぱられ自然と張り裂けるような感覚と同時に一気に右腕が加速した。
「神風」
大気が揺れる。
爆音がすると同時に土埃も舞う。
「にゅわぁぁぁああああ!」
そしてニャーも舞ってしまった。
「え?! ニャーさん!!」
今気づく。
この刺突は音速を超えていたのだった。
しかも自分の体ごと。
毎回爆音はするわ体は痺れるわで不快な技だと思っていたが、その原因は音速を超えていたからだったのだ。
衝撃波がニャーを吹き飛ばす。
それを横目にやっちまったと確信する。
放たれた神風はやつの左手にぶつかりエンドルプスの巨体に衝撃波が叩き込まれた。
そして両者をそのままぶっ飛ばす形となってしまった。
エンドルプスは盛大に吹っ飛んだ。
俺はニャーに向き直り一言。
「あ、ごめん」
「ごめんじゃにゃあにゃああ!!!」
「いやすまんって」
すると顔を赤くしてなぜかこちらを見ないように怒り気味のリィナ。
「って!! ソラさん!!! なんでまた裸なんですか?!」
「え?」
そうか。
体ごと音速を超えたことにより服は大破し葉っぱ一枚になってしまったのか。
藍色の錫杖を俺に向けるリィナ。
エンドルプスと同じようにガルルルと唸り声が聞こえるように睨んでくる。
「いやいやいやいや! 不可抗力だって! 不可抗力!」
「この変態さん! 容赦しませんよ?!!」
「ソラはやっぱり変態だったのにゃ」
「事故、事故だって!! 事故! 俺も見せたくてやってるんじゃないんだって!」
前門の狼。後門の聖女。
やばい、あっちも怖いがこっちの方がもっと怖い。
「もう、せっかくお洋服を揃えたのに……話はあとです!! エンドルプス来ます!」
この時俺は切に願った。
戦いが終わらないでいてほしいと。
高速でこちらへと突っ込んでくるエンドルプス。
奴は腕を振り上げ風の斬撃のようなものを何個も飛ばしてきた。
それらは地面を大きくえぐりながら放たれる。
結構太い木も容赦なくスパっと綺麗な切れ口を残して倒れて行く。
地面が吹っ飛んでるところや木々が薙ぎ払われているところを見ると確かに天災と呼ばれてもおかしくない力だ。
寸でのところで避けこちらも奴の間合いへと入る。
一瞬で奴は目の前で止まり威嚇をするように両の腕を大きく上げた。
一呼吸置いた後に俺を狙っていた右の拳が地面へと叩き込まれる。
一歩後ろへと下がり打ち込まれる攻撃を俺は避けた。
だが突っ込まれた地面は盛大に割れ突き刺さった拳を潜りこませて地面を抉りながら振り上げてくる。
とんでもない力技だ。
ついでに風の斬撃も飛ばし後ろに避けるだけでは対処できないようにしてきた。
そこへひらりと赤いマント。
繰り出されるは刺突。
それらがエンドルプスにダメージを与えたのだ。
エンドルプスの悲鳴。
刺突の主を捉えんとするエンドルプス。
視線がニャーに向かった瞬間に俺は間合いを詰める。
背に入った一筋の軌跡。
だが、これも分厚い筋肉に阻まれ衝撃を与えるだけで終わってしまった。
「だめか」
四方から攻撃を仕掛けるもそれらすべてをはじき返すエンドルプス。
互いに一定の距離をとった時、エンドルプスは地面へと両腕を突っ込み盛大に土や石を勢いよく巻き上げるのだった。
その後、宙に舞う石や岩が落ちてくるのを待ち、まるでスクリューのように大きな両腕を広げて体を捻り始める。
嫌な予感がした。
「リィナ! すぐに光の壁!! ニャーごめん」
「はい!!」
「にゃ?! にゃ? え、にゃにょ゛ぁ゛────」
ニャーをつかみリィナのところへとぶん投げる。
光の壁の後ろ側へとニャーが行ったのを見届けエンドルプスに向き直る。
それから嫌な予感は的中することとなった。
エンドルプスはとてつもない勢いで回り始めたのだ。
巻き上げられた小石や岩は弾丸や大砲のように周囲へと飛び散る。
それらがぶち当たった木々は文字通り穴だらけになりこれが街中であったと思うとぞっとするような光景を作り出していく。
飛んでくる小石や石を何とかして刀で弾くがままならない。
致命傷は避けてはいるものの腕や足、頬、脇腹や太ももに熱いものがこぼれ出るのを感じる。
次第に巻き上がった石や岩、土がなくなり奴の回転が終わる。
気が付いたらいろんなところが切れていたりした。
俺が血を流す姿を見てリィナ。
「ソラさん!!! 今治療を!」
「大丈夫だ! リィナとニャーは?!」
「ですが!!」
「ニャー達は無事にゃ!!」
「よかった。だが治療の暇はない! 次来るぞ!!」
ここぞとばかりに威嚇をする咆哮。
奴は地面を蹴る。
爆音と共にまた低い姿勢。
駆け抜けてくる巨体。
狂ったような攻撃が縦横無尽に繰り出される。
体力が無限にあるかのように動き回り風の斬撃も同時に飛ばしてくる。
それらを右に左に倒れ込むようにして避けて行く。
一瞬一瞬が命をもぎ取らんとする勢い。
目の前まで迫った瞬間。
ニャーが素早く回り込んでおり、やつの横から剣技を繰り出す。
「ナイツ・ストラドル」
剣を上から流れるように振り下ろし回転する。
ニャーの剣は勢いを増してエンドルプスの爪を弾いた。
そして弾いた勢いをものともせずに片方の腕が俺に迫る。
それを精一杯に思いっきり斬り上げてはじき返す。
「っく!!」
とんでもない勢いを受け止め腕が痛い。
加えてしびれも起きる。
「ソラさんニャーさん! 隙を作ってみます! その間に一撃を加えてみてください!!」
唐突にリィナ。
だが俺たちはその言葉を信じるほかない。
「おう!!」
「にゃあ!!」
「光の元に捧げるは祈り。我らが敬いし尊き御神の偉大なる光の奇跡を顕現せよ! ルクロル!!」
一直線に構えられた藍色の錫杖の先端より魔法陣のようなものが浮かび上がり光の球が放たれた。
しかし遅い。
だがニャーは奴に気取られまいと赤いマントを奴の眼前へと差し出す。
そんなニャーを狙う太い腕。
俺はその腕が振り下ろさせまいと勢いよく刀をぶつけニャーを守る。
すると光の球が見事奴の顔面にヒットしすさまじい光が周囲を照らした。
俺とニャーは一歩後ろへと下がり体制を整える。
奴は目を抑え無意味な攻撃を周囲にぶつける。
リィナが作ってくれた勝利への一手。
「ここで決める!!」
「とどめを刺すにゃ!!」
────ありったけの力を込めろ。
────ニャーがここで終わらせるにゃ。
────後先考えてる暇はない。今この一瞬に己の全てをこの一刀に捧げろ。
────師匠が教えてくれた騎士の誉れ高き剣技。力いっぱいに振るえるのは今しかないにゃ。
誓いの剣技。折れることのない騎士の魂、永遠の友キータに捧げるにゃ。
────「うまく使わせてもらうぞ! 零式一型!!」
体中の血液という血液が沸騰していく。
心臓は煮えたぎる力を全身へといきわたらせるべく加速する。
刀が次第に熱くなっていくのを感じ鞘へとしまい時を待った。
────「キータ!! 今おいらの限界を超えるにゃ!!!」
右腕の力を極限までに抜くにゃ。
腕はバネ。
羽ばたかんとするグリフォンのごとき躍動を宿した誇り高き騎士残した最期の剣技にゃ。
「天雷一閃!!!」
「ピアッシング・デュランダル!!!」
轟く雷鳴。
草木を震え上がらせる衝撃波。
互いの技は時間を置き去りにしエンドルプスへと放たれた。
草木が風でなびく音だけが周囲を包む。
しばらく技を打ち込んでからエンドルプスは動かなかった。
ニャーは転げるように前へと倒れる。
静かに時は過ぎた。
もうあいつの鳴き声は聞こえない。
そして駆け寄ってくるリィナ。
「や、やりましたか? やりました!! すごいです! 二人とも!!」
その言葉と同時にエンドルプスを見ると体は真っ二つに斬れ、首から上は大きな丸い穴のような形状を残し飛んでいた。
「や……ったにゃ。やったんだにゃ。やったにゃ。にゃぁああああああ!!」
ニャーは泣いていた。
「ニャーさん……」
そして静かにリィナはそっと泣きじゃくるニャーを抱きしめるのだった。




