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第44話 紡ぎ合う

 ニャーに降りかかったものは生暖かったにゃ。


 振りかぶっていたはずの腕は一直線に横にのばされたまま赤黒く染まっている。


 よくわからないけれど助かったんだにゃ。


 奴はこちらに目もくれず何かが飛んできただろう方向へとゆっくりと振り向く。


 そこにいたのは、ここまでくるのに何匹のルプスを殺したのかもわからない程に赤黒く全身を濡らしていた奴がいたにゃ。


 よく見るとリィニャと一緒に来ていた変態だったにゃ。


 だけど変態が一人加わったところで倒せるような相手じゃないことに変わりないにゃ。


 例え変態でも誰も死んでほしくないにゃ。


 段々と体のしびれも取れてきたにゃ。


 声も出せそうだにゃ。


「ソラにゃ?! だめにゃ!! 早くにげるにゃ!!」


 しかし帰ってきた答えはニャーを気遣うものだったにゃ。


「ニャー動けるか?!」


「ニャーのことはいいにゃ! もう、だれも死んでほしくないにゃ! この場所で……もうだれも────」


「いい覚悟だ」


 ソラは静かに言ったにゃ。


 さっきまではただの変態な感じだったのに不思議とどこか違って見えるにゃ。

 

 ゆっくりと剣を抜く様は妙に落ち着いていてもしかしたらこれが本物の勇者の姿なのかと思ったにゃ。


 相手がどんな化け物かなんて関係ないというような堂々とした姿勢と立ち居振る舞いにゃ。

 

 そんなソラを見てニャーはただただ怯えていることに気が付いたにゃ。


 いつ死んでもおかしくない戦いにゃ。


 本当は果敢に立ち向かうことなんてできないにゃ。


 本当は早く逃げ出したいにゃ。


 でも……でも、それをしたら絶対に後悔するにゃ。


 自分が許せなくなるにゃ。


 許せなくなった自分は死んでいることとなんらかわらないんだにゃ。


 エンドルプスはニャーに目もくれず目の前に現れたソラにくぎ付けだったにゃ。


 そしてやつの鼓動が加速していくのが聞こえるにゃ。


 ニャーには見せなかった心臓の高鳴りを感じたにゃ。


 次第に距離を縮めて行く二人。


 静かに吹く風。


 草木のこすれる音。


 一瞬一瞬が互いの緊張で埋め尽くされるような空間。


 いったい何を見ているのか理解できない情景の中始まった。


 地面を爆発させるかのような跳躍。


 転がりこむようにソラへと振り上げられた爪。


 しかしそれは空を切るだけ。


 対して繰り出された剣。


 細く洗練されたような美しい刃が奴を捉える。


 レイピアのようにしなったりするような直剣ではなく芯のある固い剣だったにゃ。


 それらが月明りで煌めいた瞬間。


 エンドルプスは片方の爪で刃を受け止める。


「まだ来るにゃ! 気を付けるにゃ!」


 一手の攻撃だけで終わらせずエンドルプスは腕を地面に突き立て自身の体を持ち上げてステップを踏むように太い後ろ足がソラを捕らえようとした。


 しかし、その軌跡にいるはずのソラはおらず巨体と密着して戦う小さい影は懐へと潜り込み腕へと一撃入れるのだった。


 重い悲鳴。


 それと同時にエンドルプスの目になにかを投げ見事に命中するのだった。


 目をかばうエンドルプスはよろよろとあっちにこっちにと無作為に攻撃を加えるばかりだったにゃ。


 鼻が良いはずなのになぜなのかと思ったけどニャーを含め周りは血まみれだったにゃ。


 きっと周りのハイルプスの血で鼻がきかないのだろうにゃ。


 再度エンドルプスに一撃を入れて回り込みニャーのところへとソラが来た。


「大丈夫か? 立てるか?」


「ごめんにゃ。立てるにゃ」


 そしてソラが目の前に差し出したのは、まだ戦えるぞと言わんばかりの輝きを持つさっき落としたニャーのレイピアだったにゃ。


「これ落ちてたぞ」


「ありがとうにゃ……」


「逃げるか?」


「ソラはどうするにゃ?」


「足止めはできたが逃げ切れる感じ……じゃないからな。とりあえず戦ってみようと思う」


 ソラはどこか楽しんでいるような目をしていたにゃ。


「怖くないのかにゃ?」


「ん? ああ、怖いよ。あの化け物強すぎだよな? よく一人? いや一匹? どっちでもいいか。よく戦えたな。ニャーは勇敢だな」


「ニャーは勇敢でもなんでもないのにゃ……でもソラも怖かったのかにゃ?」


「そりゃな。腕に刃を入れて斬ったとおもったらめり込んだだけで斬れすらしない。おまけにどえらく速いしどうしたもんか」


「あいつの筋肉は異常に分厚いにゃ。ニャーの剣技じゃ斬ることはできなんて不可能だったにゃ。刺突でようやく傷をつけられるかどうかだったくらいにゃ……」


「そうか……ニャー」


「なんだにゃ?」


「できるかわからないけどニャーもあいつを足止めできるだけ強いんだよな?」


「あいつに勝てる程じゃない……にゃ」 


「なら二人でやろう。一人一本だ。あのバカげた太さの腕を一人一本の担当と行こうじゃないか」


「よくわからないけどソラが一緒なら心強いにゃ。頼むにゃ」


「ああ、二人でならきっと倒せる」


 次第に視力を取り戻そうとしていたエンドルプスは首をぶるんぶるんと振りより怒りをこみあげるように空へと咆哮した。


「来るにゃ!」


 同時に暗がりの中で後ろより光が差すのが見えたにゃ。


「尊き御神に導かれし我らが大切な迷い子らに慈悲深き光の恩寵を顕現させ給え。ルミニ・マルス!」


 それはリィニャの声だったにゃ。


 前面に光の壁が広範囲に展開される。


 爆音と共に駆けだそうとしたエンドルプスはその光の壁にぶち当たりよろけた。


「二人じゃありません! 三人です!!」


「あ、リィナ」

「リィニャ!」


「あ、リィナ……じゃありませんよ?! 勝手にどっか行っちゃって! だめですからね?! 次はしっかりどっかいく! って言ってください!! 私もパーティメンバーなんですから!」 


「その断り方はありなのか?……いやだって────」


「言い訳は聞きません! 今日はお酒抜きですからね?」


「ええ!! ちょ、ちょっとそれだけはご勘弁いただけませんか?! リィナ様! ああ、こんな月夜だとより一層リィナ様の美貌が映えますでございます。なんてお美しいのでしょうか」


「いつもはそうでもないと言っているのですか?」


「いやいやいやいやいやいや、そんな滅相もございません。リィナ様には日頃感謝の言葉を述べても述べきれない程でございますですはい。どうかなにとぞ!」


 いやを6回も言ったニャ。


 一瞬で情けない生き物になるのがとても不思議でしょうがなかったにゃ。


「もう……あれがエンドルプスですか?」


「ああ、斬ってみたが全然斬れる気配がない」


「そうですか……」


「あいつに弱点はないのかにゃ?」


「そうですね。記憶は曖昧ですが前に現れたのも確か50年以上も昔の話ですし伝承や記録はあると思うのですが……」


「そんなレベルのやつなのか?!」


「そうですよ! だからギルドへ応援を……でも。ニャーさん達は見殺しにできませんね」


「……すまないな」


「いえ、立ち向かわざる負えないのは確かですからね。私ももう覚悟は決まってます。三人で倒しましょう!」


「おう!」

「にゃ!」


「お二人とも前へ! 治癒と加護を与えます!!」


「あれか!」

「あれってなんにゃ?」


「はい! 光の壁が持たなそうです。ですが完全の祈りをしますので途中でも壁が割れ次第対応をお願いします!」


「おう!」


「まずはニャーさんの治癒。遍く光の主神よ。奇跡を私の手にもたらし、かの者に治癒の恩恵を与え給え。サンテイル!」


「にゃ?! 痛みが引いていくにゃ!」


「次です!! 御力に猛し者を愛した御神の愛。その尊き器より零れんばかりの力の雫をかき集め猛し者の片鱗を分かつ加護を与えたまえ。ヴィス・テクト!」


 力が湧いてくるにゃ。


 今ならあいつとも打ち合える気がするにゃ。


「無情で無慈悲なる世界に焼かれし魂よ。その光は守護の象徴。注がれた御神の愛を持って光となり迷子を包まん。ルクス・テクト!」


 暖かな光が身を包み何かが守ってくれているのを感じたにゃ。


 そしてガラスが砕け散った音と共に空気が破裂したかのような音と衝撃が眼前に迫る。


 これならやれるかもしれないにゃ。


「にゃあああ!! ナイツ・スタッビン」


 今までにない強烈な刺突は奴の勢いあまる右腕の爪を弾いたのだった。

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