表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/97

第42話 にゃーの剣

 今日までの鍛錬を忘れないにゃ。


 奴らはまたおいらの友達を漁りに来るにゃ。


 肉は腐りかけが一番おいしいんだそうにゃ。


 だから奴らは殺した人間や動物を加工して置いておいたりするんだにゃ。


 ほかの魔物や動物がそれを狙って来たところを捕食するのにゃ。


「許さないにゃ」


 みんなを守れなかった自分が許せないにゃ。


 せめてみんなの安息の地を守らせてほしいにゃ。


 鋭い爪とレイピアがぶつかる。


 ぶつかったレイピアは静かに震え対した鋭い爪は次々と折れていくのだった。


「8匹目!!」


 現れたにゃ。


 まだ姿は見えない。


 けどわかる。


 さっきまでの雑魚が漂わせる腐臭じゃないにゃ。


 すると地面を震わせる咆哮が一つ。


 続いて甲高い遠吠えが二つ。


 そいつらの後ろから多数の遠吠えが聞こえる。


 今回は確実においらの命を取りに来ようとしているようだにゃ。


「多いにゃ……」


 草木が揺れ真ん中から進んでくるそれは木々を次々となぎ倒しながら近づいて来る。


 日は完全に沈んで月夜に照らされた白銀の傷だらけの体が見えた。


 おいらの体と比べると一回りどころではない。


 二回り、三回り。


 回りすぎて目が回るほどに大きいにゃ。


 鋭い牙がきらりと光る。


 片腕はもう普通のルプスと同じ大きさ以上のもの。


 ルプスの細い体つきとは比べ物にならない程にでかい胴体。


 太ももなんかは、その胴体以上に太く硬そうな見た目をしている。


 さらに狂気を纏った太い腕には、さも腕輪のように貫かれた赤いマントがある。


 それを見るたびに全身の毛が逆立つ。


「それを返すニャ……」


 それはキータが持っていた物だにゃ。


 暖かな記憶がちらつく。


 とても綺麗な空の下でキータは笑いながら言ったのをおぼえてるにゃ。


「ニャーかっこいいだろう?」


「すごい派手な色にゃ」


「騎士はさ! 剣を持ってこうやって颯爽と登場してお姫様を守るんだぜ?」


「ニャーもそれをつけたら立派な騎士にゃ?」


「ああ! ニャーも立派な騎士だ! ああ、でもニャーは勇者かな?」


 露店に出す売り物の赤い布を切ってマントにしてしまいキータの親父さんにこっぴどく叱られたのを覚えているにゃ。


 だから────


 みんなを守る騎士の証だから。


「お前が持っていていいものじゃないにゃああああ」


 前に戦ったときは死にかけた。


 しまわれていたはずの自身の爪はずっとむき出しだった。 


 とがった爪は両の手のひらを傷つける。


 だけどこの痛みはみんなを守れなかった自身への罪なんだと思うにゃ。


「おいらの集大成見せるにゃ。キータああ!!」


 ニャーの鳴き声に呼応するように奴も遠吠えをする。


 駆ける。


 地面すれすれの低さ。


 やつもそんな戦い方をする。


 獣同士の殺し合い。


 まずは奴の取り巻きのルプスとハイルプスが向かってくる。


「ナイツ・ディソルディーネ」


 剣は自由にふるうと力の方向が定まらず役目を果たさない。


 守護の役目を果たすには相応の覚悟と修練を経て剣に役目を与えて果たさせる。


 型になぞらえ剣に役目を与える騎士の剣。


 忠義と主を守らんとする精神性から生まれたアスラの剣の道。


 目的なく繰り出された剣はそれだけで本来の力を失う


 剣を制し型を取り入れ主の意のままに操る。


 それがアーグレン国を守る剣技。


 師匠の教えにゃ。


 無数に繰り出した刺突と斬撃はルプスを切り刻み急所へと届かせ一撃で鎮める。


 ひらりはらりとやつらの爪をかいくぐりハイルプス。


 こいつらの黒い毛並みは夜闇では目立たない。


 けれどルプスより一回り大きい体躯。


 爪の鋭さと長さはまるで剣。


 爪と剣、いや剣と剣の攻防戦が始まる。


 より速く。


 より繊細に。


 より正確に。


 二匹がかりで繰り出された攻撃。


 だがおいらを仕留めるにはまだまだ遅い。


 そして繰り出される飛ぶ斬撃にも似た風魔法。


 師匠はウィンドカッターと呼んでいた。


 ここら辺についてはよくわからないけど強い魔力があれば自然と体現できるものらしいにゃ。


 繰り出される風の斬撃をレイピアで軌道を逸らして避ける。


 風の勢いで両の腕は一瞬でしびれるが関係ない。


 休むことのなく繰り出される爪の攻撃をやり過ごしながら剣をふるい続け一点に刺突。


「ナイツ・スタッビン!」


 一点を貫く一撃はハイルプスのおでこを捕らえ一瞬で動かなくなった。


「苦しませないにゃ。お前たちも生きるのに必死なだけなのはわかっているにゃ。守るべき主亡き今、これはニャーの私怨。もう騎士からは程遠いのにゃ。騎士の誇りも何もない。でもおいらはここを守り抜く。命を賭してでも!!」


 また聞こえるハイルプスの遠吠えと共に一匹が走り出した。


 剣と爪が交差したその瞬間、目の前のハイルプスより大きな両腕がおいらたちを捉えようとした。


 おいらは即座に後方へとくるりと一回転したけれどハイルプスは一撃で真っ二つになっていた。


 その光景は爪で切られたような傷跡ではない。


 力でもがれちぎれた巻き込まれた者の悲惨な姿がそこにあった。


 内臓は飛び散り血があたり一面を真っ赤に染める。


「手下をいくらぶつけても無駄にゃ。今日こそお前を倒すにゃ」


 ようやくはっきりと目の前に現れた。


 白銀の体にところどころある傷、ニャーがつぶした右目はつぶれている。


 綺麗に研ぎ澄まされた両の手から見える4本の爪。


 真っ黒の目玉は次第に赤く染まり夜闇に赤い軌跡を描くようになる。


 そして大きな両腕を上にあげて始めようとしていた。


 大気を震わせる咆哮。


 木をなぎ倒さんとする勢いで迫りくる。


 初手。


 思うより速く奴は動く。


 小回りがききそうな体ではないだろうに動きはとても繊細だ。


 間合いを詰められ一撃、二撃、三撃と通り過ぎる太い腕と爪。


 空を切る音はまさに轟音。


 一撃一撃が雷を落としたような衝撃を周囲に轟かせる。


 やつのリーチの長い腕が伸びる。


 寸ででかわし一突きいれようとするも届かない。


 ひらりとかわされる。


 その度に赤いマントがちらつく。


 おいらは毎日気絶するまで鍛えたにゃ。


 奴の手先を何度も屠った。


 何度も。何度も。何度も。何度も。


「ナイツオブ・レピエルッタ」


 翻したところから放たれる一撃は突きに体ごと回転を加えより強力な一撃に昇華させる技。


 その渾身の一撃でようやく受け止められる奴の斬撃。


 しかし止められたのは左腕だけだった。


 右腕から繰り出される攻撃は止まることを知らない。


 この技で反動も与えられるだろう。


 普通なら怯ませられる騎士の技のはずが奴にとっては風が拳にあたったのと同じ程度だというのか。


 寸でのところで右腕のギリギリに攻撃をかわす。


 しかし巨体であるにもかかわらず攻撃次々と繰り出し何度も移動して切り刻んでくる。


 ひとつひとつ丁寧に避けて行くしかない。


 何もできない。


 わかっているにゃ。


 おいらの実力じゃ勝てないのにゃ。


 唯一優っているところはスピードだけにゃ。


 奴も異常に早いがおいらほどではないのにゃ。


 そして奴が勢いよく両腕を振り上げ地面へと叩きつけた。

 

 地面が膨れ上がり爆発したかのように周囲の岩や石なんかが巻き上がる。

 

 巻き上がったそれらより高く飛び上空で腕を思いっきり振り下ろして衝撃波を作る。


 とんでもない無数の岩の弾丸だ。


「ナイツオブシールド」


 魔力を使って展開する魔法の盾。


 無意味だけど威力を減退させるのに役立つのにゃ。


 盾が割られた次の瞬間蹴りの動作が目の前に現れるも避けた。


 だが三本目。


 毛だけに覆われた尾が飛んでくる。


 それはニャーの腹部にあたりとんでもない勢いで弾き飛ばされてしまった。


「にゃが────」


 レイピアを放してしまった。


 ころころと転がり木へと叩きつけられる背。


「い、いき……が、できにゃ」


 赤く落ちる光。


 赤い涙を流しているような光景。


 涙をながしたいのはにゃーだ。


 ああ、でもやることはやったにゃ。


 奴の足音が徐々に近づいてくるのがわかる。


「師匠……ごめんなさいにゃ」


 声がかすれるにゃ。


 剣を教えてくれてありがとうにゃ。


 短い間だったけどなにもできないニャーの面倒を見てくれてありがとうにゃ。


 こんなやつにやられる不甲斐ないニャーを許してほしいのにゃ。


 今日来たリィニャやソラは大丈夫かにゃ。


 まさかエンドルプスが来るなんてあいつらわからないにゃ。


 ソラはなんか大丈夫そうだけどリィニャは守ってあげなきゃにゃ。


 でも師匠はきっとわかってるにゃ。


 大丈夫にゃ。


 きっと大丈夫にゃ。


 無慈悲にゆっくりと振り上げられた太い腕が見えるにゃ。


「大切なニャーに会える。キータぁ……約束、果たせなかったよごめんにゃ」


 さっきのお腹の衝撃で麻痺して動けない体が次の一撃の覚悟を決めた次の瞬間、熱い何かがニャーの体に降りかかるのを感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ