第38話 山を越えて
跪き手を取る
「へ?! あの? ソ、ソラさん?」
それからさっとリィナが背負っているリュックを奪い去る。
「え?!」
「荷物、重たいでございますでしょう?」
「えとえと、大丈夫ですよ?!」
「私こう見えて体力には自信があるのです。あほですから! はっはっはっは」
「いえ、悪いですって!」
「目的地までは徒歩ですからね? 全て持ちますよ。はっはっはっは!!」
「あのソラさん。そのお酒に何かありましたか?」
「はい! それはもう!! 私の探し求めていたお酒を……よくぞ見つけてくださいました」
「そう……だったのですね」
「リィナ様。あなたこそ至高の御方。我が魂の救世主にございます」
感極まるそんな俺を見るリィナはドン引きしていた。
「あはは……すごい。お気に召していたでけたようでよかったです」
だがドン引きだろうが俺のここ一か月ちょっとと探し求めていた酒屑の頂点を発掘してもらった恩。
返さぬ他ない。
この刀はきっとリィナのためにあるのだ。
「ちなみにこのお酒は何というのでございますですか?」
まあ変な敬語も出てしまうのも仕方ない。
「ヴィーレというものらしいですよ」
「さようでございますか! ヴィーレ!!!! ああ、なんとう甘美な響き。私もう────」
「もうわかりましたから!! もう普通にしててください!!」
「そうおっしゃるのであらば……そう致しましょう。これから飲んでもいい?!」
「ダメに決まってるでしょ! お預けです!!」
「ああーそんなあああ!!」
それを見ていた使用人達は口々にこう言ったそうだ。
「リィナ様はやっぱり苦労人です」だそうだ。
それから山岳地帯をひたすら上り下りと歩みを進めていく。
「あの……私の分は持ちますよ?」
いたって余裕なのだがリィナは結構気にしているようだった。
「ああ……さっきはすごい興奮して言っちゃったけど大丈夫だよ。体力がバカ強いのは俺の強みだ。リィナはあまり得意じゃないでしょ?」
「そうですけど……ソラさんだけに重荷を背負わせるのは少し心が苦しいです」
「その言葉だけでも俺は軽くなれるさ。そういう所は本当にリィナの魅力だと思うよ」
「魅力……魅力だなんてそんな」
そう言われてリィナはなぜか嬉しそうだった。
そんなこんなを繰り返してひたすら山を登る。
「ソラさん。あれが野生のギウですよ!」
「え、牛じゃん」
「うし?」
「そそニホンにもいたよ」
「あれがニホンにも」
「でもここのは茶色い感じだね。白と黒のブチって感じだよ」
「それはなんだか見て見たいですね」
日常会話を挟んで平坦な道をひたすら歩いていく。
「あ、見てくださいレナスロラが咲いてます! 綺麗ですね」
「何それ?」
痛み止めの薬にもなる花らしい。
異世界のイブプロフェンみたいなものだろうか。
見て行くもの、通り過ぎるもの、岩肌からみえる苔、生えてる植物に至るまで興味は尽きないがリィナとおしゃべりしながら平和に時は過ぎていった。
そして夕日が沈みかける頃合いでリィナ。
「ここらへんで野営しましょう」
「おう」
テントを立てる。
もちろん別々にだ。
元の世界だと一つ立てるので精いっぱいだったかもしれないが二つ立てたところで体力はそこまで落ちることなく余裕にこなせてしまった。
「気を使っていただいてありがとうございます」
「というか俺は地面で寝っ転がってるだけでも寝れるけどな。これがあれば楽でいいや」
朝にリィナからもらったヴィーレを指し示すと笑いながらリィナ。
「ソラさんらしいですね」
その間にリィナは火をおこし焚火を用意してくれた。
「焚火は俺じゃ起こすのに時間がかかるからな。ありがとうな」
「ふふ。ソラさんって結構、お礼を言ってくれますよね?」
「そうか? というかリィナもそうだと思うよ」
「そうですか? ですがソラさんは何かしてあげたら大体ことあるごとにありがとうって言ってくれますよ?」
「ああ……あまり意識したことはなかったけど、まあ一人が長いからかもな」
「そうなのですか?」
「まあね。リィナはあまり砕けた口調じゃないけどそれが普通なの?」
「ん~……私の師匠である聖母のレイーネ様が言葉は武器にもなりえるのです。正しく使いなさいって教えていただいたおかげでしょうか」
「へぇ。俺も気をつけなくっちゃなぁ。だけどまあ、パーティを組んでる訳だし砕けた感じでもいいと思うよ? 言いたいこと言えなくなったらつらいでしょ」
「そうですね。でも言いたいことが言えないってことはないですよ? お酒は控えてくださいね?」
「心が痛い。控えてください!」
「言ったところで治さないじゃないですか!」
俺は焚火を見ながら夕食を用意していくのだった。
献立は干し肉をベースにしたスープだ。
「ソラさんってやっぱりお料理上手ですよね……」
「酒屑してるとあてもこだわるからね」
「私はあまり得意じゃないので羨ましいです。ルクサリア教会には食堂がありましたし、こういった遠征でも作ってもらってばかりだったのでなんだか……いいですね」
「そうか? 究極を詰めると自分好みの堕落した味になっちまうからな。リィナはどんな料理が好きなんだ?」
「私は、ぺスティもいいですがギウグランもいいですね……なんでも美味しく食べれますよ!」
「結構わからない料理出てきたわ。なんだそのぺスティとギウグランって」
リィナ曰く。
ぺスティはクロカの元を細くして煉り合せたもっちもちの食べ物でそれを酸味あのある野菜とキノコ、ベーコンで炒めたものらしい。
トマトソースパスタみたいなものだろうか。
ギウグランは煮込み料理だそうだ。
ギウといろんな野菜と一緒にじっと煮込んでほろほろにとろけるまで煮込む料理でパン……もといクロカと一緒に食べるらしい。
ビーフシチューかな。
というより一部こちらの言葉と重なるものがあるが何か理由でもあるのだろうか。
卵はそのまま卵だし、キノコはキノコで伝わる。
まあ、伝わればいいか。
そもそも敬語が伝わってる事自体不思議だし。
「へぇ。こっちの世界でも似たようなものはあったな」
「ソラさんの元居たところはなんでもありそうですよね?」
「そうだなぁ」
二人で囲む食事。
アメリア邸でもそうだったけれど元の世界からこっちへきてこんなに賑やかに食べているのっていつぶりくらいだろう。
今まであったと言えばあった。
飲んで。
くだを巻いて。
そこらへんで寝て。
ゲームしたりして。
そんな生活じゃない。
「なんかさ。最近まで誰かと一緒に過ごしたのはいつぶりかと思うくらいにはさ。一緒に食事を摂るって久しぶりだよ」
「そうなんですか? ソラさんはお友達多そうなイメージですよ?」
「そう? ある意味じゃ生きるのに精いっぱいだったのかもしれない」
「大変だったのですね……」
「がんばったって何もないのにがんばってさ。それで結局今だよ」
「がんばることはいいことです。報われないことも多いですが……後悔は少なくなります」
「リィナの言う通りだな。今はリィナのためなら頑張れるかもしれないよ」
「……」
なぜかそっぽを向いて黙ってしまうリィナ。
とりあえず夕食ができはじめてくる。
なんとまあ酒屑好みに作ってしまったことでしょう。
ルロダンで買ってもらった酸味と香りの高い調味料でベーコンを少しあぶりスープに浸してからあらかじめといた卵を入れる。
あとはパン。
もうクロカと呼ぶのはだるい。
それもギュウの乳で作ったらしいバターのようなものを塗りたくってから焚火にくぐらせる。
パンの焼けるような匂いがやばい。
ちょうど干し肉のスープも出来上がった頃合いでリィナに差し出した。
「あ、ありがとうございます!」
「おう。ということでこの世のすべての食材に感謝をこめて! いただきます」
「それ嘘なんですよね?」
「ある意味じゃこれが正しいよ」
「本当ですか?」
リィナとそんなやり取りをしながら夕食を摂った。
夜の番も交代で行い翌朝。
濃い霧。
視界は不良。
立ち込める湿気。
けれどおいしい空気。
軽くパンを焼いて干し肉を挟んだものを作って朝食を作り摂り終える。
そこからは先行きが見通せないため迷いそうになるが目印となりそうな道のりはわかりやすく簡単だった。
それからひたすらに下山ともいうべきルートを進んでいき森の中へと入る。
「ルートはここであってそうだな」
「もうちょっとここらへんじゃないですか?」
そう言いながらリィナはとんでもないところ指さすのだった。
「指さしてるところ……出発地点だよ?」
「え……?」
顔を真っ赤にしているリィナ。
「地図読める?」
「ほんのちょっと……」
「よく帰ってこれたなロルダンへ」
「故郷ですので……」
「万が一にも迷ってたかもしれないってこと?」
「違います! 私だって地図読めます! 方角魔法はちゃんと作用してますから!」
「そんな魔法あるんかい!」
「ですがどうしても地図を見てしまいますとちょっと……」
「それ読めないっていうんだよ?」
「なんでソラさんは魔法使えないのに読めるんですか? 地図……」
「……まあ。そりゃ勘?」
「勘?! 勘でなんとかなったら魔法はいりませんよ?!」
「そうなのか? けど向かう場所はもう近いぞ?」
「そうなんですか?」
「ああ……」
言い合いを繰り返しているうちに
何かが見える。
少しの明かりがゆらゆらと霧の中でうごめいていた。
そこへと向かうと馬車に連結した簡易的な木材で作られた小屋があった。
濃い霧で周囲の様子はよく見えないがその建物は古くもなく最近新しく建てられたもののようだった。
看板にはニャアマートと書いてある。
「「ニャアマート?」」
リィナとハモってしまう。
すると扉がゆっくりとギギギギと音を立てながら開くのだった。




