第34話 エルフとは
受付のビースティアはにこやかに挨拶をしてくれる。
「これはアメリア様! こんにちは! ギルドルロダン支部へようこそ。本日はどういったご用件でいらっしゃいましたか?」
「ここへ来るのはとても久しぶりですが……今もカールさんはいらっしゃいますか?」
「はい。おりますがギルドマスターのカー……キャロライナは今サボってます」
さぼってるんかい。
サボれそうな役職かもしれないがどういうことだろうか。
するとリィナは聞き返すものの少し苦笑いをしている。
「キャロライナ?……あはは、相変わらずですね」
それから受付のビースティアは不満そうな表情をして語る。
「本当ですよ。サブのクリスさんは寝首をかこうとがんばってますがあと一歩及ばないらしいですよ?」
「寝首をかこうとしてるのですね……」
「はい……まあ、お見苦しい状況をお聞かせしてしまいましたがいたって健全にギルドは動いてますのでご安心を! 私たちスタッフが使えない上司に変わって働いてます!」
「ありがとうございます……」
「いえいえ! 領主様はお忙しいですからね! 何も思ってません!! 何も!!!」
いやいや尖りすぎだろこの人。
「すみません。何も言えません……」
リィナはギルドは公平をうんたらかんたら言っていたが領主が何か物申せたりするのだろうか。
「いえ、アメリア様がお気になさることではございません。それで本日はキャロライナに?」
「はい。ちょっとカールさんに頼み事があったのですが────」
すると奥の方より豪快にきしむ音を響かせ登場する人物が現れた。
「あら! あらあらあらあらあら?! 懐かしい声がするじゃないの?」
突如現れた色の強い大男。
金色の長髪と金色の髭、そして大きな特徴となっている筋肉。
もはやタンクトップみたいになってしまった哀れなシャツが見るに堪えない。
そして色の強い化粧がその人の特徴をより前面に出した。
首の色と顔の色が違う。
そのやばい人を見てリィナが懐かしい人を見るように言った。
「カールさん!!」
まってギルマスあれ?!
危うくそう口に出すところだった。
リィナは早々にカールの元へと行く。
「お久しぶりですカールさん!」
「まあ、まあまあまあまあまあ! カールさんだなんて他人行儀はおよしよ。キャロラインと呼んでちょうだい?」
どこから出たキャロライン。
「キャロラインさんですね!」
「あ、間違えたわ。私はキャロライナよ。今はそう名乗ってるわ」
間違えるんかい。
「でもまあ……リィナちゃんおっきくなったわね。あんなにぺたぺただったのに私の大胸筋くらいお胸も成長しちゃってまあ!」
「あはは……どうしたら大きくなるの?って聞いたのまだ覚えてますよ?」
「でもあなたは必要なかったみたいね。いやんもういろいろ話したいことがいっぱいじゃない! コナちゃん。ちょっと応接間行ってくるわね!」
しかしコナと呼ばれた受付の娘は少し不満そうに言う。
「早く戻ってくださいね? クリスさん仕事まみれで壊れてますよ!」
「神速で戻るわ!」
「それやるとギルド壊れるのでやめてください。いつもギルマスが直してるじゃないですか」
「ん~。もうちょっと丈夫に作ってくれたらねぇ」
「普通でいいんです。普通に過ごしてたら丈夫なんですよここ。早く戻ってきてくださいね?」
「わかったわ。ささリィナちゃんこっちよ。それとあなたは?」
急にリィナから矛先が俺へと変わる。
つい矛先と言ってしまったがこの人の眼はなんとも言い難い何かを感じてならない。
威圧とも呼べる何かに硬直してしまっているとリィナ。
「あ、こちらはソラさんです。あの反乱の日に私たちを救ってくれた方です!」
「あらあらあらあらあらあらあらあら!!!」
そしてばっと開いた両腕。
きっとキャロライナの背中は鬼の泣き顔のような形となっているだろう。
それから避ける暇もなくショベルカー並みの腕に挟まれ抱きしめられてしまう。
筋肉が苦しい。
まって本当に死ぬ。
俺は声にならない声でもがき苦しんだ。
そして圧死も持さない威力の抱擁が徐々に解かれてキャロライナは言った。
「本当に……本当にありがとう。私は向かうことも何もできなかったわ。ギルドの掟は絶対なの」
「掟……ですか?」
「ええ……ギルドはいかなる時いかなる状況であっても全ての者に公平であれ」
リィナが言っていた理念の話だろうか。
「ギルドを創設された勇者様のお言葉でね。つらかったわ」
やはり、冒険者といいギルドという名前といい異世界にあるよね? みたいなものは勇者の手が加わっていたようだ。
「ギルドに奴らの矛先が向いたのなら別だったけど……リィナちゃんやレジナード坊や。ラウナちゃんの残した人達がこんな形でなくなってしまうなんてそんなのあんまりよ」
「ラウナって確かリィナのおばあちゃんじゃ……カールさんっておいくつ? ぐぶふぅ。ぬおおお死ぬううう! キャロライナ様ぎぶぎぶぎぶ」
おいくつと発したあたりだろうか。
さきほどより、より一層強く抱きしめられる。
「ソラさん。カールさんはエルフなの」
「ぶふぇ、え?! エルぶふ?」
エルフってたしか……え?
となりにいる金髪の美人が人。
筋肉武装兵器キャロライナはエルフ。
リィナは人。
カールはエルフ。
リィナは人。
カール……キャロライナはひと、いやエルフ。
エルフってなんだっけ。
「エルフってなんだっけ?」
するとウィンクしながらカール。
「エルフと言えばわたしのことよ?」
そのウィンクで消し飛びそうだ。
ついでに意識も。
「あのカールさん! ソラさんを放してあげてください。なんだかすごい弱ってます!」
「あらそう? 元気そうなかわいい男の子なのに、やわだわねえ」
「でもリィナちゃん本当に大きくなったわね。昔のラウナやリーアを見てるみたいよ?」
「おばあ様とひいおばあ様にですか?」
「本当よ! うれしいわ! あの二人も金色の美しい髪をしてたわぁ。私も憧れちゃって金髪なの! どう?」
「とても綺麗ですよ!」
「いやん。うっれっしっいい!」
ソフトに抱きしめられるリィナ。
俺とのあの差はいったいなんなのか少し抗議したくなる。
それからリィナの肩を借りながらカールに応接間へと案内された。
「さてと。ここならだれも聞いてないと思うわ。一応ね」
「ありがとうございます! ですがまだ何もお話ししていないのにここへと通していただけるなんて思いませんでした」
「だってその子。ちょっと歪な気配があるもの」
「歪? 俺がか?」
「そうね……あなたというよりその腰に下げてる得物というべきかしら? あなた、どこでそれを手に入れたの?」
「あぁ、これは……」
本当のことを言うべきかためらう。
リィナと親し気である以上、信用に値する人物であると思う。
勇者の手がかかったギルドがどういった組織なのかとか。
公平を期するということが本当のところどういう意味合いなのかよくわからない中で話すのはどうだろうか。
この人相当な使い手であるようにも思う。
力だけで言えば……ダンテやロンダインは軽く超えてる。
そんな人物がここから動けずリィナを救った俺に感謝しているというのは、かなり腑に落ちない。
「ソラさん……一応確かめるためです。カールさんは私のひいおばあ様と勇者様の旅路を共にしていた仲なので安心してください」
「え、まじか」
「……まじ?」
まじという単語を理解できずに首を傾げるリィナ。
こういう何気ない仕草にとてつもない破壊力を感じる。
あざといにもほどがあるだろう。
「その話をするということは……あなたってもしかして勇者なのかしら?」
「ああ……俺もわからないんだけどそうみたいだ」
話を切り出す前に察したカール。
その態度は変わることなくいたって冷静だった。




