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第34話 6番目の勇者

 カールは勇者についていろいろと知っているような口ぶりで続けた。

 

「そう……あなたは何番目と言われたのかしら?」


「そこまで知っているのか?」


「そうね。知っていればみんな知ってることよ? でもこれは経験則でしかないの。私と旅をした勇者のジョージは2番目って言ってたわ」


「ジョージ? アメリカ人か」


「ドイツ人って言ってたわ」


「ドイツ人が召喚されてるのか……なんだかここへきて元の世界の話ができるとは思わなかったよ」


「その口ぶりからして勇者であるのは間違いなさそうだわね」


「信用がすぎると思うんだけれど……」


「リィナちゃんが連れてきたんだものそれだけでも信用に足るわ」


 思ってはいたがリィナってすごい奴なんだと改めて実感する。


 さすがは貴族のお嬢様。


 俺にお酒をくれる女神様。


「俺は6番目って言われた」


「6番目……ねぇ」


 それを聞いたカールは少し考えこむ。


 6というと不吉な数字だが何か関係があるのだろうか。


「前の6番目の勇者はね。魔王になってしまったの……前のって言っても300年前ね。その大戦で多くの犠牲を払って討伐されたわ」


「魔王……そうか」


 確かダンテと戦い終わった後に血まみれの異様な空間で変な男が言っていた。


 選択肢がうんたらかんたらやら魔王になんとかかんとかやら。


 だめだこんな時だってのに記憶がはっきりしない。


 ヴァティス酒おいしーしか思い出せねえ。


「あら、あまり動揺しないのね。でもね6番目が関係しているのかはわからないわ……本当ならあなたをここで殺してしまえば何も起こらずに平和なままなのかもしれないわね」


 すると俺より動揺した面持ちでリィナ。


「カールさん?!」


 だが落ち着いてカールは言った。


「大丈夫よリィナちゃん。これは可能性の話よ。善人だって時と場所、運が悪ければ悪人にもなるわ。前の勇者がそうであっただけのこと。将来魔王になるかもしれないからって罪もないのに私の友人の家族を守ってくれた男を殺すはずがないわ」


「だが、俺が万が一魔王にでもなったらやりあわなきゃならないかもしれない。俺の自我でどうこうできる話でなかったらどうする?」


「ソラさん……」


 心配そうに見るリィナ。


 魔王とはどういう存在なのかはわからない。


 だが召喚された初日に見た光景は忘れられない。


 老若男女問わず死体であふれて悲しみも苦しみも幸福もなくなった虚無の世界。


 その人達が歩むべきこれから先の幸せを全て踏みにじる世界を作り出すような存在になるくらいなら俺一人の首など安いだろう。


 その時はなんとかして腹を斬ろう。


「ん~……その時が来たら全力で立ち向かうしかないわね。でも12勇者物語は知ってる?」


「ああ」


「物語の6番目の勇者は世界を奴隷や貧困で悩む人たちや悔恨の渦から解放した大英雄なの。彼の死後数百年は救われた種族は人種問わず連合国を作り平和に繁栄したって記録があるの。だからどうなるかはわからないのよ」


「そんなことまで……かなり詳しそうだがカールさん」


「あらなあに? 私に興味でも湧いたのかしら? 彼氏募集中よ?」


「いや、歳はいくつ────」


 遮るようにカール、心なしか筋肉が膨れ上がってるような。


「あらやだ。スリーサイズ? 積極的なのね。上から142、ウエスト89、ヒップは103よ。㎝で表すならそうね」


「プロポーションお化け……じゃなくてねんれ────」


 瞬間ダンテ以上の凶悪な気迫が周囲を包む。


 リィナは特に気にしている様子はないがカールの鋭い眼光が突き刺さる。


 重力が3倍増しになったかのような重圧が俺の肩にのしかかる。


 地雷を踏むとはこのことか。


「ソラちゃん?! 世の中には触れていい世界と触れちゃいけない世界があるの。まだこの話題を続けるのならあなたのかわいいお尻にわからせてあげもいいのよ? 私のサイズはなかなかよ?」


 咄嗟にお尻をかばってしまった。


「いや……ごめんなさい。俺はまだ……純潔を保ちたい」


 泣きそうだ。


「わかったらいいのよ? ……でもそのうち食べちゃいたいわ」


 怖い眼光から漫勉の笑みを浮かべるカール。


 より怖さが増してしまった。


「そりゃそうかご勘弁を……」


 リィナは事の重大さがわかっていないようなキョトンとした顔で俺を叱る。


「ソラさん女性に年齢を聞くのはマナー違反です。お尻ぺんぺんされちゃいますよ?」


 すると笑いながらカール。


「そうねバシバシしちゃうわね!」


 きっと二人が想像してる物が違う。


 せめてリィナはそのままでいてほしいと切に思う。


 本当に。


 一通り話したいことも終えたところでリィナ。


「カールさんお話をありがとうございます」


「いいのよ。私も久しぶりに勇者様に出会えてうれしいわ。まあ……世界に何かが起きるのも現実味が帯びてくることになったけどね……」


「そうなのですか?」


「憶測でしかないけどね。実際そうであったってだけで何がどうなるかなんてわからないもの。気になるならロードグランデに行ってみるといいわね」


 聞いたことのない地名をだされるがリィナは知っている風に答える。


「勇者集結の地ですね」


「始まりの地にして旅立ちの地。ちょっと前のギルドマスター会議で共有されてる極秘事項だけど各地で勇者が召喚されたり現れたという報告があるわ。ロードグランデには4人の勇者様がいるみたいね」


「4人もいらっしゃるのですか?!」


「ええ、ロードグランデの隣は学術国家セルエンティアもあるわ。勇者様方はそこで力をつけるために最先端の修練を積んでいるみたいよ」


「ロードグランデがそのようなことを……」


「同時期にこれだけあらわれてるもの今は躍起になって勇者様を探しているみたいね」


 勇者への待遇を聞いて少し胸が高鳴らなくもないが俺の力を顧みても力があるだけで打たれ強かったり何かの才能があったりとてつもない魔法が使えるわけではない。


 むしろ魔法は使えない。


 異世界から来たせいなのだろうか。


 そんな人達を集めたところで普通より強い兵士ができあがるだけではないのだろうか。


「それって国が動くレベルなのか?」


「そうよ。勇者の存在は国を傾かせるレベルなの。どちらかに加担すれば弱小国家でさえ強国と肩を並べられる。その力はあなたが身をもってわかっているはずよ」


 思い当たる節があまりない。


 リィナは聖女としての奇跡以外にもちゃんと魔法も使える。


 攻撃魔法は使えないが生活魔法だ。


 火を起こしたり風をだして乾かしたりだ。


 なんと氷を作ることもできてしまう。


 これのおかげで結構飲み水に困らない。


 何日か一緒にいて気づいたのだが水を汲むことをしなくていいのだ。


 大量に必要な場合は井戸から水を汲んだり川からひいたりしているが飲み水程度であれば自身の魔力で生み出している。


 どうやらそれは日常的にされているらしく人々の日常生活に溶け込んでる当たり前のことらしい。


 けれどそれらの行動は魔力を使うため、おいそれとたくさんすることはできないとのこと。


 ひどいと動けなくなってしまうのだとか。


 俺がダンテとの戦いの後倒れたのもリィナが上位の奇跡を唱えるため大量の魔力と祈りが必要だったらしく俺の魔力を借りたのだと聞いた時は驚いた。


 リィナは俺が魔法を使えないのはなぜなのか考えてくれたがわからなかった。


 だがこの世界にも魔法が使えない存在はいるらしい。


 鬼人と修羅人と呼ばれる人種らしい。


 どちらも魔法が使えない代わりに身体能力が群を抜いているのだそうだ。


 まさに俺のそれに当てはまる。


 だが身体能力がいかに高かろうが魔法を使う他の種族に淘汰され追いやられてしまっているという歴史があるらしい。


 つまり魔法を使えないということはそれだけで大きなハンデを持ってしまっている。


 国を傾かせるほどの力が俺にないだけなのかもしれない。


「う~ん……」


「今はそうでないかもしれないけどいつかはわかるわ。それで今日はこの話と龍脈の秘跡を見に来たのでしょう?」


「はい! あとソラさんの冒険者認定です!」


「あら、まだ冒険者認定してなかったの? 召喚されてからあなた何してきたのよ」


「えっと……」


「この前の王都襲撃の時に召喚されたみたいで復興のお手伝いをしていただいてたのです! ソラさんって優しいところがあるのですよ?」


「え? そ、そう……うん」


 聖女様からの優しいフォローがはいるが心を剣で突き刺されたような気分になる。


 お酒飲みたさに日銭を稼いでだらりと生活してたなんて言えない。


「それにあの四大従魔も退けたのですよ!」


「あらあら!! メールヴァレイのあの従魔も?!」


「本当でしたら国王陛下から勲章を授与されてもおかしくないのですが、ひっそりと復興のお手伝いをする。とても素敵な勇者様です! すぐ葉っぱ一枚になる露出癖とお酒好きな所があるのがちょっと難点なのですが……」


「あらやだ。とんだ変態さんだわ。恥部を葉っぱで隠して戦場を闊歩する噂本当だったのね。お姉さんますます惹かれちゃうわぁ」


「あれは仕方なくああいう姿になったってだけで別に癖じゃないぞ!」


 するとカールはわかったような口調で続ける。


「いいわ。わかるわ。いつかその癖をさらけ出した時……世界は輝くものよ」


 わからなくていいよそんな世界。


「ああ、その話は置いとくとして……ところで龍脈の秘跡ってなんだ?」


「勇者様が使う物で各地にあるのよ。ジョージは自分の力と状況? がわかるって言ってたわ。商人が使うアナライズみたいなものらしいわね」


「ほえぇ」


「冒険者認定の手続きはすませておくわ。龍脈の秘跡はあの子に案内させるわね」


 そう言ってカールは手を叩いた。


 するとドアをノックし入ってきたのはビースティアの女の子だった。


「キャロライナさん。どうしましたか? 刺しますよ?」


 ふんわりととんでもないことを言う人が現れた。


 眼鏡で受付のコナと同じく赤毛のケモミミ。


 ふさふさの尻尾はフリフリ。


 色白の肌とぺたぺたな壁と言ったら殺されそうな体躯。


「クリスちゃん相変わらずね。お客様の案内を頼むわ」


「えぇ……仕事ほったらかしですよ?」


「ほらそう嫌な顔しないで! 大事なお客様よ。龍脈の秘跡へ案内して頂戴」


 そう言った途端にやる気のない顔つきからきりっとした表情へと変わるのだった。


「そういうことですか?」


「ええ」


「わかりました。ではお客様。私はルロダンギルドのサブマスターをしているクリスと言います。以後お見知りおきを……リィナ様もお久しぶりです」


「お久しぶりですね!」


「俺はソラだ。よろしくな」


「ではソラ様。リィナ様こちらへ」


 それからクリスに先導され龍脈の秘跡へと案内されるのだった。


 ギルドの建物の奥に外へと出る扉がありそこへと出ると小さな中庭があった。


 そして塀で囲われている中にそれはあった。


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