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第25話 狂気の刀


 それらが奏でるはまさに花火。


 間近ではじける爆発は鼓動を狂わせるほどにすさまじい。


 今までにない戦いの感覚を味わう。


 互いに探り合って読み合いをしていると言うには暴力的。


 しかし無策と言うには洗練された動きに翻弄され一歩、また一歩と後退し負けじとこちらも前進する。


 互いに思っていることは同じなのだろうか。


 相手の剣を────


 自身の刀を────


 それらを全てを休ませた時。


 これまで打ち込んだすべてが無駄になってしまうのではないか。


 上下、左右が反転するほどに打ち合いぶつかり合う。


 周りからどうみえてるかわからないが精一杯の速度で一進一退の攻防を続けていく。


 まだまだあげられる。


 大剣がかすめる。


 同時に刀も空を斬る。


 命を落とさないよう慎重に進むぎりぎりの綱渡りをしている。


 本来であればこんな場所に立てるほどの実力はない。


 刀にあるよくわからない記憶に助けられて生かされているにすぎない。


 目の前にいる敵、ダンテはどのくらい鍛錬しただろう。


 ここまで来るのに血と汗と苦渋を味わうほどの体験をしただろうか。


 比べて俺はどうだろうか。


 この刀の力に胡坐をかいて日々だらりと過ごしているだけではなかったか。


 刀と剣が触れ合う度に目の前の敵と己の間に比べられない程の努力の壁は大きな差を見せているように見えた。


 だが、そんな状況でも俺は考えていた。


 一歩間違えれば死だ。


 リィナもその家族も助からない。


 けれど止まらない。


 あれはどうか。


 何を考えているんだ。


 あの手、この手で使える物があるのなら全身全霊で相手を叩きのめす。


 これはどうか。 攻めるなら上段から?

それはどうか。こんなのはどうだろうか。

 身に刀を隠しながら下段から?

小細工の通じる敵か?


 気が付くと戦いながら無限の試行錯誤を繰り返していた。


 心臓のギアが一段階上がる。


 刀が温まっていくのを感じる。


 それを冷やすかのように放たれる氷の魔法。


 先ほどのロンダインは魔術師という割には筋肉と体格に振ったような戦い方をしていた。


 魔法をこうまで駆使して戦ってくる敵は召喚された日のあの時以来だろうか。


 思えば刀なんて元の世界で握ったことなどない。


 刀をうまく使えてる自信もなかった。


 現に刀をただの頑丈な棒のように扱っている節がある。


 もっとうまく扱いたい。


 段々と敵を倒すたびに切れ味が増していくのを感じるがこいつの真価を発揮できていない。


 膠着しているように見えるぶつかり合い。


 しかし、それは一時の出来事で止まる。


 放たれた氷の槍の先端が折れ氷塊が頭上に落ちる。


 互いに後方へと飛び視線と視線が交錯するとダンテは俺に問いかける。


「これほどの腕を持ちながらなぜ貴族に肩入れをする?」


「肩入れ……俺はまあ雇われているからな」


「ならば猶更だ! 今なら遅くはない。我々につかないか?」


「つくわけないだろう……俺は世間知らずだ。この国の事情も貴族ってのもなんなのかわかってねえ。けどリィナはな。自分の妹のために頑張ろうとしている。高い身分だからってそれを鼻にかけることもない。それにいろんな奴に優しくしているし大切にしている。そんな良い奴をこんな訳のわからないところで死なせられるか!!」


「そうか……互いに誰がために戦う。俺も成さなければならない。お前を倒してこの国を変える。戦で切り捨てられた兵士達が……下民と蔑まれた者の憎しみが! 虐げられた人間の痛みが!! この国を変えることで報われる」


「言っても聞かないなら力で変えるしかないのはわかる。だがな領民のために頑張っている貴族も一括りに斬るのは間違っているだろう」


「だまれ!! 政治的構造。貴族という権力基盤を排除しなければ何もはじまらない。お前のような変態に何がわかる!」


「おれは変態じゃねぇええ!」


「一度鏡をみてみろおおお!!」


 刀と剣の打ち合いが再開される。


 打ち合ってわかる。


 小細工は不要。


 瞬間、刀と大剣がぶつかりあって止まった。


 綺麗な大剣だ。


 そして、そこに反射する自身の姿を見た。


 俺は笑っていた。


 リィナやその家族を守る大義名分。


 それを利用して俺は戦いを楽しんでいるのか。


 刀を振るう理由を無理矢理に見つけようとしているのか。


 戦いを楽しんでしまっている自分がいることに気づく。


 内に秘める狂気に心が焼かれる。


 大剣と刀で弾き合い互いに飛ばされると同時に距離をとった。


 瞬間、刀はありし日の記憶を呼び起こした。


 ────血で真っ赤に染まる地面。


 赤黒い空。


 横たわる多数の黒い影。


 それらはすべて綺麗に両断されている。


 そこに立っていたのは赤黒くなってしまった羽織を着た男。


「ぁああ。ぁあああ!! すべてを……すべてを斬り伏せよう!!! 俺から奪ったやつも……なにもしてない奴らも全部!! 俺からは何も奪わせない!!」

 

 憎さや怒り、悲しみでいっぱいになる感情が溢れる。


 見たことのない情景。


 愛した何かを抱き流れ落ちる血をかき集める。


 斬られ斬り伏せられ次々と倒れて行く大切な何かが雨のように落ちて行く。


 愛した何かに何もできずただただ刀を握りつづけて一人、血まみれの男はすべてを壊すと誓った。


 ────コンマ一秒にも満たないのかどうかわからない時間の中で俺は自然と呟いた。


零式一型ぜろしきいちがた


 爆発する鼓動。


 全身が爆発するかのように血が駆け巡り心臓が悲鳴をあげる。


 刀が熱を帯び赤く震えた。


 何かを察したのかダンテは地面へと手をかざす。


「ハスタグレイス!!」


 巨大な氷槍が地面を突き破りながらいくつも現れる。


 しかしそれらを一刀両断していく。


 白黒の世界。


 すべてを置き去りにするように駆けて行く。


 ダンテの目前に迫った。


 刀は気づいた時には納められている。


 そしていつでも放てる一撃を待っていた。


「しまっ────」


「終わりだ」


 焦るダンテ。


 息の根を止める一撃を叩き込もうとしたその時、多数の熱線が迫るのが見えた。


 咄嗟に後方へと飛びダンテから再度距離をとった。


 ダンテも息を切らしているが俺はその比じゃないくらいにバクバクと心臓が踊り狂っている。


 とても苦しい。


 胸をおさえ片膝をつく。


 先ほどの黒いローブの男が戻ってきているのが見えた。


 熱線はそいつの仕業らしい。


 息を切らしながらダンテ。


「はぁ、はぁ……限界か?」


 距離をとった俺に巨大な氷柱を出現させる。


「まじ……かよ」


 体が動かない。


 刀もあがらない。


「終わらせよう。本当に悪魔みたいな男だった」


 巨大な氷柱は風のようなものを纏い勢いよくこちらへと向かう。


 黒いローブの男も何かを唱えてるように見えた。


 もうだめかと覚悟を決める。


 すまない、リィナ。


 瞬間、光輝く壁が視界いっぱいに展開されたのだった。


「ルミニ・マルス!!!」


 巨大な氷柱は砕け落ち大量の氷が霧や粒、塊となり周囲へと爆散する。


「ごめんなさい! 遅くなりました!!」


 瞬間、白黒に染められた世界に色が戻るのを感じた。


 振り向くとそこにいるのは覚悟を決めたと言わんばかりのリィナ。


 藍色の錫杖を持ち、それを掲げる様はまさに聖女と呼ぶにふさわしい姿だった。


「リィナ?……」


「間に合ってよかった」


「ごめん……ありがとう」


 俺は震えていた。


 体力がなく動けなかったんじゃない。


 恐怖で体が竦んでいたんだ。


「ソラ……さん?」


「す、すまない……お、俺は…………」


「どうしました?」


「戦いに……狂気に飲まれそうだった……」


 いつも刀の記憶は常に何かを打開するだけの力を与えてくれていた。


 しかしあの憎しみや悲しみには触れてはいけないような気がする。


 考えるだけで呼吸がおかしくなる。


 リィナはそんな情けない姿をさらしている俺に微笑んでから藍色の錫杖を地面に突き立てて続けた。


「……ソラさん、やりますよ!!」


「え?」


「霧で視界が悪い今がチャンスです。まずはその身体を癒します! 遍く光の主神よ。奇跡を私の手にもたらしかの者に治癒の恩寵を与え給えサンテイル!」


 緑色の光が体を包み込み今まで受けていた傷を即座に癒す。


「あれ……なんかすごくない?」


 深くなった呼吸もあたたかな風と供に正常に戻りつつあった。


「今までの私と思ったら大間違いです! ……私はどうしてソラさんが狂気にのまれそうだったなんて言ったのかはわかりません。なにかひどいことをされたのですか?」


「俺は……戦いを……楽しんでいた。ここで命を懸けて戦う理由も俺はリィナやみんなを救うことじゃないんじゃないかって……もうどうしよもなく戦いを求める狂人なんじゃないかって……」


「ソラさんが狂人かもしれないのは一目瞭然かもしれませんね……」


「そ……そうか……」


「え? あ、あぁ気を落とさないでください! そういう意味じゃないですよ?」


「え?」


「戦いが終わったら鏡を見てください……」


「お、おう」


 するとリィナはゆっくりと俺に近づいて肩にてをおいてくれる。


「ですが……動機がなんであれソラさんは私を含めてたくさんの方を救っています」


 俯きあたりを見てからリィナは続けた。


「こういう時に……どう声をかけていいのか……私はわかりませんが、でも……ありがとうございます!」


 漫勉の笑み。


 それから震える俺の手を取って立ち上がる。


「私が今言えることはこれくらいです。狂気の罪に押しつぶされそうであれば、あなたのしたことに感謝してる人がいることを忘れないでください。私はそんなあなたに助けられました」


 俺の前を行くリィナは暖かな笑顔を見せていた。


 まるで太陽の光に照らされているかのように俺の心の模様は曇りもなく晴天となる。


 戦うのが楽しい。


 だが奪うことが楽しいのではない。


 誰かの涙を見るのは嫌いだ。


 心が残忍であろうとこの笑顔を守ることができれば、それでいいのかもしれない。


「だから立ち上がりましょ? まだ戦いは終わってないですし忘れてませんよね? 報酬もお渡ししなくちゃいけないんですから! このままじゃ無報酬で終わってしまいますよ?」


「そ、そうだな……まだ見ぬ酒を飲まずして死ねないな!」


「ほんとお酒好きですよね。もうすぐで霧が晴れます!! さあ、まだまだ行きますよ? 簡易ですが受け取ってください。力の加護を与えたまえヴィス・テクト!」


「これはさっき見たバフだ。リィナも使えたのか」


「バフ? いえ続けます! 光の加護を与えたまえルクス・テクト! 風の加護を与えたまえヴァニ・テクト!」


 今まで受けていた傷も回復し疲労が吹き飛ぶ奇跡を受ける。


 そのあとに体が軽くなり力が湧いてくるのを感じた。


「来ますよ! 光の壁も外れます! 大きな攻撃は任せてください援護します!」


「ああ、頼む!」


 元々心の在り方を気にするような質ではない。


 ならば自身の狂気を全開にして刀をふるって守るべきものを守ろう。


 俺はそのためなら堕ちるところまで堕ちたってかまわないのだから。

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