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第24話 燃える覚悟

 魔術師グラマドはこの国で指折りに入るほどの大魔術師として名が知られている。


 魔術の体系にはいくつかあるのだが大きく三つに分けられる。


 神父様や聖母様、聖女や聖人、僧侶が使う奇跡。


 生活をする上で誰しもが使える基礎魔術。


 憎しみや怨念を糧に使われる呪詛。


 奴や私の使う攻撃魔術は基礎魔術が発展したものだ。


 魔術には炎、氷、風、地、雷、光、闇の七つの力があり種族により得意とするものが変わり自身の魔力を術式へと変換し攻撃する。


 しかしこれらを身につけるには天性の才能が必要だと私は思う。


 基礎魔術の中でも生活魔術に関してはだれしもが使えるが、それを発展させるとなると話は変わる。


 一つの力だけでも扱うのは難しく二つの力も扱えれば国で重宝されるだろう。


 しかしグラマドは4属性を巧みに操るのだ。


 戦場では敵を焼き払い大地を凍土に変え雷で砦を割り強風で敵を吹き飛ばしたと聞く。


 そんな歴戦の猛者である魔術師だ。


 周囲の怒号や悲鳴、ぶつかり合う剣と剣、飛び交う魔法。


 私はそれらが聞こえない程に集中していた。


 すると見渡してグラマド。


「さて……ここら一帯の敵を殺せと言われてるからな。私の魔術で逝けることを喜びに思うが良いだろう。無駄な抵抗をやめて死を待て」


「断る! おまえらにこの領を好き勝手にさせるわけにはいかない。命を賭してでも私は、お前たちを止める」


「愚かなやつだ……おまえは確か炎系統を扱うんだったな」


「ああ……炎よ。燃ゆる力を我が手にイグニス・アルマ!!」


 武器に炎を纏わせ魔法の威力を剣にのせる。


「成り上がり者はこれだから……魔法の使い方がなってないな。魔法とはこう使うのだ」


 指を振った瞬間、炎の熱線が飛び出る。


 咄嗟に剣で受けるも勢いよく飛ばされてしまう。


「ぬああああ!」


「ほんの挨拶だというに……」


 それから奴は手を空へと掲げ下へと振る。


 風が吹き刃のようなものが私を斬りつけた。


 ただ叫ぶことしかできない。


 とても情けない。


 血が滴り落ちるのが見える。


 近づきさえすれば勝機もあるだろうというのは甘い考えであった。


 そもそも接近戦において自身が不利になる状況に持ち込ませることなど考えられない。


 それ故に奴は詠唱もなく強力な魔術を叩き込む。


 そんな魔術すらいなせない私に、はなから勝機などないのだ。


 ソラ殿が戦っているところでは巨大な氷が槍のように地面から突き出ているのが見える。


 彼はあの姿で戦っているのだ。


 あのナヴァルタスの亡霊と……。


 こんなところで弱い心を見せてどうする。


 それから近づこうと奴の魔術を懸命に避けて必死に体を動かすが駄目だった。


 圧倒的な実力差。


 そんな状況につまらなさそうにするグラマドは言う。


「こうも手ごたえがないとはな……ひとつ余興だ」


「余興……だと?」


 グラマドは地面に手をやると視界が震えた。


 大きな黒い魔法陣が地面より浮き出てきたのだ。


 グラマドは大声で全体に指示を送る。


「皆の者! 一度退け!! イグニス・オービス・レクタ・インセディット!!」


 その詠唱を終えると広場で戦っている兵士めがけて巨大な炎の球を投げるのだった。


「これは空間と空間をつなげる魔術。今が試す時だな……さあ出でよ古き時代において殺戮の限りを尽くした戦龍。今一度その力を解き放ちこの者らを滅せよ!!」


 黒い輝きが増し形が浮き上がる。


「まさか……」


「そのまさかだ。お前たちの慕うアメリア家が監視を続けている古代の殺戮兵器。制御はできないが、また召喚魔法で地下に送れば良いだけのこと」


 黒い光の中に現れたおどろおどろしい竜。


 しかし現れた物は、かつて神々の覇権を争った大戦の際に大陸を蹂躙したと言われる竜の面影はなかった。


 その竜は体の4割程の大きな風穴を明けられていたのだ。


 私は驚いた。


 彼が言っていたのは本当のことであったのだと。


「んな?!」


 同時にグラマドもとても驚いている様子でそれを見ている。


 しばらくの沈黙が続きグラマドは続けた。


「だ、だれが……こんな?!」


「ソラ殿だよ。今ダンテと戦っている戦士だ!」


「なに?! あの変態が?! これは私も参戦する必要があるか……ドレッド!!」


 すると屋敷の瓦礫の間より声が聞こえた。


「っち。わかってるのかよ」


「ララナが逃げたのはわかっている。あとは頼むぞ? 私はダンテに加勢せねばならない」


「ダンテ様は一人でやるといっていたぞ? いいんじゃないか?」


「あの戦龍を抉り取る化物だぞ?! ダンテ様だけでは難しいかもしれない。ここはおまえに預ける。やれるな?」


「わーったよ。ま……騎士様の守る華を汚す前にその鼻をへし折るのも一興か」


「ゲスめ」


「おいおい、こりゃ勝者の特権だぜ? グラマドの旦那」


「ろくな死に方をしないぞ」


「っち。あんたも力はあっても強者の特権ってのを理解してねぇな。世の中奪って奪われてだ。戦場は常にそうだったろう?」


 呆れるようにグラマドはダンテのいる方へと向き宙に浮くように素早く移動した。


「いかせるかよ。グロバス・イグニス!」


 両の手より絞りだしたのは火球の魔術。


 矢と比べると弾速は少し遅いものの魔力があればどこでも撃てる。


 しかし火球はあっけなくドレッドに斬られてしまった。


「哀れなもんだな騎士様よ? 守るべきお嬢様は死地にあり死守すべき領主様はどうなってることやら……」


「だまれ!!」


 ゆっくりと立ち上がる。


 抜け出た血を補おうとする心臓の音がうるさい。


「お前らが貴族と平等にしようと躍起になっている下民の出身だ」


「へぇ……下民でそれほどの才能が?」


「そんなものあるわけがないだろう……よくてそこらの兵と変わらなかった。だが私は守るべき良い主君を得た。大きな……とても大きな暖かい恩に私は報いるべく力を付けたのだ。絶対にお前らなどにやられてたまるものか!! 私はアメリア家に忠誠を誓う騎士レイヴェイン。名も捨て主君にたてつく輩を屠る者だ」


「あつくなっちゃってまあ。相手してやるよ! ボロボロのお前に何ができるんだ?」


「煮えたぎるえたぎる血よ! 炎に近づき身を焼かん!! イグニス・ヴィータぁぁぁぁぁあああああああああ!!」


 魔力を燃やし生命に炎をつけ身体能力を飛躍的に向上させる。


 ソラ殿にかなわないと悟ったロンダインの放った禁忌の魔術だ。


 体中が焼かれるような痛みに包まれる。


 だがこれ以上の痛みは主君を失い守ってきたものをすべて奪われることだ。


 今この場で自分の命の炎が燃えつきることなど軽い痛みに過ぎない。


「まじになってんじゃねえよ。 それはお前が燃え尽きるまでずっと耐えればいいだけの話だろう?」


「お前に耐えられるか? いざ……尋常に」


 これ以上敗けるわけにはいかない。


 もう家族を失うわけにはいかない。


 構える。


 体が浮くように軽く前へ出る。


 一歩。


 二歩と地面に歩みを入れるたびに加速は続く。


 その瞬間わかったような気がした。


 ソラ殿はこの境地を超えた先にいるのだと。


 剣を振りかぶる。


 ドレッドも剣を構える。


 すべてがコマ送り。


 薙ぎ払う力に対しあてがう力。


 ドレッドの対応する順序が崩れていく。


 襲撃当時、私はドレッドに敗れた。


 呪術による麻痺の拘束をくらってしまい簡単に囚われてしまった。


 だが今はそれを撃たせる暇など与えない。


「ナイツ・ストラドル!!」


 剣を上下へと回転させ斬りつける遠心力を利用した剣技。


 威力が乗る前に遮られ受け止められるも無理やりドレッドの剣を弾く。


「くっそ!!」


 弾き飛ばされた剣は彼方遠く。


「テラスピア!」


 ドレッドは下がりながら魔術を詠唱する。


 大地より無数の岩の槍が伸びる。


 魔術の主に近づけまいと襲い来るが関係ない。


 少し脇をかすめる。


 肩にも当たっただろう。


 熱い感覚が体のあちこちより伝わる。


 ドレッドが剣を持たない今、一気にたたみかける必要がある。


 こいつもグラマド程ではないにしても最前線で大地の魔術と、その剣技が織りなす攻防一体の戦法で生き残った猛者だ。


「常人のやることじゃねえ!! 頭おかしいんじゃないか?!」


 致命傷を避け出てきた岩を足場に前へ前へと進む。


 そして剣の間合いへと差し迫る。


 ここで決める。


 騎士が重い一撃を与える剣技。


「コルエッル・グラディウス!!」


 炎による加速が乗り異常なほどに速度を得た剣を目前にドレッド。


「テラ・マルス!!」


 大地の魔術により石壁がせりあがる。


 だが威力の乗った剣は、さらに高速へと到達し石の壁を盾にした魔術はいともたやすく砕けていった。


 砕けた先で、その刃はドレッドに届く。


 「ばかな────」


 一瞬で終わった。


 首から上が切り飛ばされていく様を見届ける。


 はね飛んだ物体は、そのほかの兵士達が行き交うところの下敷きとなり今はどこに行ってしまったかわからない。


 剣を地面に突き刺し杖にする。


「すまない。ソラ殿……グラマドを逃がした」


 あとは……頼んだ。

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