第21話 戦いへの心
おかしい。
自分が傷つけられているというのに、この平静っぷりはいったいなんなんだ。
熱い。
痛い。
なのになぜ。
なぜ俺はこうも集中していられるのか。
そんな戦いを見ていたレイヴェイン。
「ソラ殿!! 魔法の奴の盾には弱点がある」と大声で伝えてくれた。
「弱点?」
「奴の盾のような魔術は魔術師が使っている物だ。だがそれを扱うのは難しく一方向にしか出せないはず!」
すると関心するようにロンダイン。
「ほぉ? よく知ってるじゃねえか」
「一方向か……」
「さあて……マナ・シールドの特性を知ったところでどうする?」
「……どうする?」
え、ほんとどうしよう。
一方向にしか出せないからなんだっていうんだ?
盾って普通そう言うものじゃないのか?
魔術師が身を護る盾を使っているとか言われても俺にはさっぱりわからないんだが。
しかし、魔術師と言えば遠距離、中距離から強力な魔法を撃ちこむのがセオリーという印象があるけれどしかし……
魔術師のロンダインとは接近戦で対面してしまってる。
そんな俺の動揺を他所にロンダインは続ける。
「しかしなぁ。変態的な恰好をしてるだけあってほとんど俺の攻撃を防いじまうとはな。お前本物だな?」
「それは……誉め言葉か?」
「ああ、そうだ……な!!!」
鉄球を振りかぶり、また同じ攻撃を仕掛けてこようとした。
とりあえず魔術師だなんてどうでもいい。
俺はもう遠慮することをやめた。
勝てるわけがない。
斬れるわけがない。
そう片付けてしまうには……
この勝負、思いの外面白いんだ。
刀を後ろに構え、自分の身で隠すように前へ出る。
すかさずロンダインの懐に飛び込み右下からの逆けさぎり。
しかし、途中で阻まれる。
この盾とやらがどういう原理でできているのかはわからない。
なら……
その弾かれた反動を利用して回転斬り。
敵に一瞬だけ背を向ける恐怖を乗り越えて瞬時に反対方向へと刀を持ってきてけさぎり。
これは賭けだ。
一方向にしか展開なんて仮定でしかない。
他の方向にも展開できる可能性もある。
今のところ防ぐ瞬間に盾は現れる。
ということは見えていないところはまだがら空きのはずなんだ。
だとしたら瞬時に別の方向から攻撃を加えることができれば、そこに勝機はある。
そして俺はその賭けに勝った。
ロンダインにめり込む刀。
「ぬああ?!」
そして、その巨体をふっ飛ばすことができた。
我ながら自分がやったと信じられない力だ。
するとレイヴェイン。
「やったか?!」
それはフラグだろう? と思いながらまだ終わっていないと感じ刀を構えなおす。
「いってええなああああ?! ああ、熱い!! 熱いぜ?! 燃えてきたぜえええ!!!!」
ロンダインがこうも元気なのは至極当然なのかもしれない。
刃を入れたのは最初だけ。
ぶつかった衝撃、その反動を利用して反対方向へと刀を持って勢いのままに峰で攻撃を当てただけなのだから。
けれど……それでもダメージがないというわけではないはずだ。
なのにピンピンしている。
するとレイヴェイン。
「こうして初めて見てわかったが……わざと大きく隙をつくり防御魔法を展開して相手をひるませた後に叩き潰す戦法をとっている……」
「けどさ。魔法って距離をとったほうが有利があるんじゃないのか?」
それにこたえるはロンダイン。
「そうだなぁ……魔術師としての有利は捨ててる。だがな。こっちのほうが威力を殺さずにぶつけられるんだぜ? だから……肉がつぶれる感触がわすれられねえんだよなあ!! さあ!! 楽しもうぜ?!」
やばいこいつ狂ってる。
そんな気迫の後にロンダインは燃えるような闘志を体現するかのように詠唱を始めた。
「サラウンド・フレイム!!」
するとロンダインの握っている武器に魔法陣が発現し鉄球に炎をまとわせたのだった。
瞬間、爆発的な速さでまた迫りくる。
「これで終わりだ! メテオラ!!!」
振りかぶった鉄球はさながら隕石のよう。
攻撃の速度もさっきとは比べ物にならないくらいに速い。
これは、その魔法のおかげなのだろうか。
それでもなお、その攻撃が俺にあたることはない。
身を翻しかわす。
体が軽やかで本当によかった。
とんでもない衝撃が地面を伝いさっきより大きく抉り取る。
まずい。
不用意に距離をとってしまった。
あの量の破片を飛ばしてくる。
そうはさせない。
またゴルフでもするかのように大きく振りかぶったロンダインに俺は勝負を仕掛けに行った。
その一瞬、ちらつく情景があった。
またこれだ。
刀が見せる景色だ。
野原を駆け抜ける男が一人。
その男が向かおうとしている家屋は日本のものっぽい……まるで夢の中にでもいるかのような感覚だ。
そして刀を素振りする一人の男が言う。
『敵の構えを突き崩す際は自身の攻撃を防がれた時に勝機がある』
『ですが師。それでは……』
『ああ、防がれた衝撃は己に帰る。だが、その衝撃は一瞬の反撃へと転じる必殺の技となる。その刹那の反撃をする術を隼と。私は────』
何かが心に溶けていく感覚。
これが隼。
私が紡いだ技。
瞬間、その情景は無くなる。
刀がロンダインの防御壁を触った刹那。
「隼」と口走る。
さっきのように魔術の盾を利用しようとして俺の体に起きた違和感。
ロンダインが鉄球を逆側へと運ぼうとしている。
遅い。
先ほどとは違う足さばき。
弾かれた刀の柄を持ち変える所作を流れるように行い腰で刀を抜き放つ。
回転にのせた勢いを殺さずにロンダインへと刃を入れかけたその時。
コンマ数秒にも満たない一瞬。
俺は勝ったと思った。
しかし「ルミニ・マルス!」と聞こえたのと同時に見たことのある光の壁がロンダインを守ったのだった。
その一瞬を乗り越えたロンダインは俺に鉄球を振り抜く。
「しまっ────」
鉄球にぶち当たってしまった。
「ソラ!!」
内臓がシェイクされるかのような衝撃。
壁にぶち当たり転がり込む。
咄嗟に刀で受けることができたおかげで何とか立ち上がることができる。
両腕は痺れ背中を強く打ち付けたせいか息ができない。
そして油断しきっているのかロンダインは汗を拭って後ろを向くのだった。
「あっぶねえ……おいおいララナ。男同士の戦いに水を差す奴があるか?」
「何言ってるの! でっかい音がするから来てみれば……今、奇跡がなかったらロンちゃん死んでたよ?」
現れたのは黒い髪に青色の目をしたララナと呼ばれる女性。
赤を基調とした白色の入った修道服に銀色の錫杖。
リィナと同じ服装をしている。
次の瞬間、立て続けに白い光の軌跡が2本、奥の通路より光る。
目前の二人を避け壁と床に跳弾。
その軌跡は横と背後に回り込み俺を貫こうとした。
死んだ。
そう思った。
しかし、体はその危機を脱するべく瞬時に反応した。
刀でそれらを払いのけると地面には矢が転がっていた。
「ひゅー」
ロンダインは感心でもするような口笛をする。
すると後ろから一人のフードを目深にかぶった男がさっと素早く現れるのが見える。
「おいロンダイン。あいつはなんだ? 矢が弾かれた」
「さあな。わからねぇ。だが相当の手練れだ」
「だな……ロンダインを一人で、しかもあんな恰好で……とんでもないやつだ」
「え? やばくない? あの格好やばくない?! もしかしてこれ敗けたら私犯されちゃう? いやあん」
なんてひどい言われようだろうか。
そしてフードを目深にかぶった男。
「安心しろ。あのリィナって娘ならまだしもおまえのような阿婆擦れ聖女には手を出さないだろう」
「ひっどい! アランが隠れて私のこと見てるの知ってるんだからね? エッチ」
「ば、ばばばか。み、みみみ見てねえし」
「あー。うろたえてる。あっやしい?」
そんな仲のよさそうなやり取りをする二人にロンダイン。
「さぁてと!! 無駄口はここまでにして……今からじゃあの貴族の処刑は見られねぇだろうが、さっさと片付けるとしようぜ!!」
「……ああ」
どうやら何かくるらしい。
「それじゃ行くよ! 御力に猛し者を愛した御神の愛。その尊き器より零れんばかりの力の雫をかき集め猛し者の片鱗を分け加護を与えたまえ。ヴィス・テクト」
なんだ?
なにかバフっぽいものをかけているようにみえる。
するとレイヴェイン。
「まずい奴の祈りを止めなければ!!」と言い剣を構えて前に出た。
「させない」
しかし、アランの矢がその行く手を阻む。
さきほどの攻撃のダメージは残っているものの痺れやらはひいてきた。
狙われようとしているにもかかわらず詠唱を続ける聖女。
「無情で無慈悲なる世界に焼かれし魂よ。その光は守護の象徴。注がれた御神の愛を持って光となり迷子を包まん。ルクス・テクト!」
詠唱をし終える前に俺も前へと出るもロンダイン。
「そりゃ無防備な奴を先に狙うよな?」
燃える鉄球が振り下ろされるがすれすれで避けてより前へと出ようとしたところで矢が四方向から飛んでくるのが見える。
即座に後ろへと飛び回避すると進もうとしていた方向で矢が交差し迫る。
とんでもない偏差打ちだ。
「御神に救済を求めし魂へと駆けるは差し込む輝き。その速さをかの者らに宿したまえアグィニ・テクト! みんな! ルクサーラ様の加護だよ。やっちゃって」
「ああ、ありがとう」
「やっぱりいいなぁ。体が軽いぜえええ!!」
「っく……なんと厄介な。すまないソラ殿、なんとか……何とかあのロンダインを突破してはくれないか?」
「ああ、厄介だが、なんとか頑張ってみる」
こうして俺とレイヴェインの2人対、巨漢の鉄球使いロンダイン、聖女のララナ、斥候のアランの3人との戦いが幕を開けた。




