第78話 新たな道
あれから俺たちは、ホークを囮にしての宙賊退治に精を出した。だが……倒しても倒しても、維持費に金を吸い込まれ、まるで財布がブラックホールだ。ルミナがあれこれ節約策を考えてはくれているが――自転車操業まっしぐら。
ブリーフィングルームでは、子供たちの悲鳴がこだまする。
「ひぃぃ! また赤字! 黒字にならない!!」
「合成食パック何個分だと思ってんだよ!?」
「オレの外骨格貯金がまた遠のいたぁぁぁ!!」
ニコは机を叩き、半泣きで叫んだ。
「ホークだって倹約してるんだぞ!? 外見ボロ船のまま我慢してるのに!! なんで赤字なんだよおおお!!」
俺は頭を抱え、深くため息を吐く。
「……稼いでも稼いでも、全部維持費に消える。これじゃあ本当に金がたまらねえ……」
ルミナが冷静に付け加える。
「宙賊討伐の報酬は小中規模で10〜20万ソリオン。一方で艦隊三隻の維持費は月11万超……ほぼ相殺です」
子供たちが一斉に崩れ落ちた。
「……もう、夢も希望もない……」
「やばいよ団長、毎月、食堂の定食5000人分が消えてるんだよ!? どんなブラック企業だよ!」
「給料が宇宙に溶けてるぅぅ!!」
俺は額を押さえた。
「……良い依頼を探すしかない。今日もフリーランクスに行くぞ」
今日も今日とて、俺たちはフリーランクスの受付へ。端末を操作していたレーネが顔を上げ、肩をすくめた。
「新しい依頼? ……うーん、あんまりパッとしないのよね」
「パッとしない?」
「ええ。あんたたちが精力的に動いてくれたおかげで、このあたりの治安はずいぶん落ち着いたの。もちろん良いことなんだけど――傭兵稼業にはちょっと物足りないわよね」
なるほど。平和は悪いことじゃないが、傭兵としては稼ぎ口が減る。子供たちが「えぇ〜!?」と大ブーイングを飛ばした。
レーネは小さく笑ったあと、目を細めて言った。
「……だからさ、そろそろ“戦争”に駆り出されてみるのはどうかしら?」
「……戦争?」
思わず聞き返す俺に、レーネは淡々と説明する。
「アルシオン連合内の加盟国同士の小規模紛争。いわば“公認された小競り合い”よ。もちろん命のやり取りは本物だけど、その国の軍に傭兵を追加投入して戦力バランスを取るのが暗黙の了解なの」
「小競り合い……でも、それって戦争なんだろ?」
「そう。フリーランクスの傭兵なら、誰もが一度は踏む道。あんたたちもそろそろ覚悟を決める頃合いじゃない?」
重たい言葉に、場が静まり返る。今までも危険な任務は多かった。だが、それは海賊討伐や裏切り者摘発――まだ“正義”を名乗れる戦いだった。だが戦争は違う。ただ国家の都合に振り回されるだけの、もっと泥臭いもの。
俺が返事に詰まると、レーネは少し表情を柔らかくした。
「絶対に必要ってわけじゃないわ。だけど――あんたたちはもう“ただの傭兵”じゃない。実力も知名度もついてきた以上、各国からの声がけは避けられない。だったら、準備しておいたほうがいいのよ」
胸の奥が重くなる。だが、目を逸らすことはできない。
「そうそう、それからもう一つ」
レーネがわざとおどけたように指を立てた。
「あんたたち、これまでの功績を見込まれて――専任の《管理官》がつくことになったわ」
「管理官?」
「ええ。任務の調整、依頼の選定、報告業務の代行……それに外交交渉の代理も。実戦部隊を後方で支えるマネージャー役ね」
子供たちが一斉に「おおーっ!」と歓声を上げる。
「やった! これで団長の事務仕事が減る!」
「俺たちの報告書も楽になる!」
「やっぱ専属の人が必要だと思ってたんだよ!」
ニコはしかし、顔を引きつらせた。
「ちょ、ちょっと待てよ……まさか、その管理官って……」
レーネがにやりと笑い、ウィンクした。
「ちなみに、担当するのは――あたし。うれしいでしょ?」
「……」
ニコは机に突っ伏した。
「終わった……絶対、無茶振りされる未来しか見えねえ……」
俺は額に手を当て、重くため息をついた。だが、横を見ると子供たちは「姉貴が味方だ!」と大喜び。ユイが拍手をし、エリスは小さく笑い、ルミナは淡々と告げる。
「……多少の無茶は、計算のうちに入れておいた方がよさそうですね」
「まんざらでもないくせに」
俺は思わず笑みを漏らした。
戦場という新たな道。重くのしかかる維持費。そして、新しく加わった管理官レーネ。
俺たち《ストレイ・エクシード》は、また新しい一歩を踏み出そうとしていた。
レーネは端末を操作し、ホログラム画面をこちらに向けた。
「で、これがその依頼。小国同士が資源惑星を巡ってゴタゴタしてるんだけど――両方が傭兵を募集中。好きな方に付けるわ」
子供たちがどっと騒ぎ出す。
「え、え、どっちに付いてもいいの!?」
「じゃあ金払いのいい方だろ!」
「でも悪党側に加担とかイヤだぞ!?」
レーネは笑いながら、画面を切り替える。
◆ 防衛側(サリオス聖王国)
依頼内容:領域防衛、資源拠点の護衛、艦隊迎撃。
報酬:基本契約金 25万ソリオン。
追加報酬:撃墜した敵艦に応じて支払い。
戦闘艇:2,000
輸送艦:1万
駆逐艦:3万
巡洋艦級:6万
戦艦級:12万
備考:民間人からの「感謝支援金」や物資提供がある可能性。
◆ 侵略側(グレイスン共和国)
依頼内容:拠点制圧、領域進攻、要人排除。
報酬:基本契約金 45万ソリオン。
追加報酬:撃破・制圧に応じて支払い。
戦闘艇:1,500
輸送艦:8,000
駆逐艦:2万
巡洋艦級:5万
戦艦級:10万
備考:成果に応じて「ボーナス」あり。ただし後払いリスク高。
「……こんな感じ。侵略側の方が報酬は高め。でも後払いで踏み倒される危険もある。防衛側は支払いは堅実だけど、報酬は控えめ」
レーネは肩をすくめる。
「どっちを選ぶかは、あんたたち次第。稼ぎを優先するか、世間体を優先するか……」
子供たちが一斉に騒ぎ出した。
「悪党側なんてイヤだ!」
「でも給料上がんないと外骨格貯金がぁ!」
「待て、侵略側ってつまり俺たちが“ラスボス側”になるんだよな? 絶対イヤ!」
ニコは机を叩いた。
「俺は防衛側一択だ! 金より名誉だ!」
「兄貴、どうする?」と全員の視線が俺に集まった。
俺は手を挙げて口を挟む。
「ちょっと待て。集まりはどうなんだ? 参加する傭兵の数とか規模とか」
レーネは画面をスクロールし、説明を続ける。
「傭兵の集まりは……どっちもそこそこね。グレイスンは報酬が高い分、寄ってくる連中も多い。でも質は玉石混交。サリオスは人数は少ないけど、防衛戦だから国が物資補給を負担してくれる。燃料と基本弾薬は支給されるわ」
「おおっ!」と子供たちが歓声を上げる。
「燃料タダ! 弾薬タダ!」
「赤字地獄から解放されるぞ!」
俺は腕を組み、考え込んだ。金払いのいいグレイスンか、堅実なサリオスか。ただの計算では決めきれない。
するとルミナが静かに告げる。
「団長。長期的に見れば、防衛側についた方が確実に信用を積めます。グレイスンは確かに報酬は大きいですが、契約破棄や後払いのリスクが高い。……“負債”を抱える可能性があります」
さらにユイが、ぽつりと呟いた。
「……なんか、グレイスンはイヤ。変な感じ」
俺は深く息を吐き、答えを出した。
「……よし。サリオスだ。防衛側につく」
ニコがガッツポーズを取り、子供たちも「よっしゃあ!」と盛り上がる。レーネは満足そうにうなずいた。
「了解。じゃあサリオス防衛任務に登録しておくわ。――これで、いよいよ“戦場”デビューね」
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