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第71話 重巡洋艦

 ドックの支柱に巨大な修理アームが並び、火花と光が交錯していた。俺たちが牽引してきた宙賊の重巡は、外殻を剥がされ、装甲板が順次取り外されていく。損傷した艦橋部分はほとんど骨組みだけ。だが、エアロ・バーストの親父の手にかかれば、見る間に新しい艤装へ組み替えられていった。


「よし、冷却系統は丸ごと換装だな。タンクの配列も再設計するぞ!」

「おう、フレームはまだ生きてる! 歪みはプラズマカッターで矯正だ!」

 整備員たちの声がドック中に響き渡る。


 その喧噪の片隅で、タウロは黙って新設されたサブブリッジに腰を下ろした。パネルはまだ新品の光沢を放ち、ケーブルも仮止め状態。そこに――声が落ちてくる。


「初めまして、艦長。私の名は《LUMINA Sub-Unit Beta-4》。以後、戦術支援および火力管制を担当いたします」


 タウロは一瞬だけ目を細め、端末に視線を落とす。

「……Beta-4、か。お前、俺に何を求める?」


「ご安心ください。私が求めるのは正確な“引き金”だけです。目標指定、照準補正、発射管制――すべて私が処理します。あなたには、撃つべき時に迷わず撃つことをお願いしたいのです」


「……それなら、できる」

 タウロは短く応じる。その声に迷いはなかった。


 モニターに女性型のホログラムが淡く浮かぶ。無駄のない所作で頭を下げ、整然とした笑みを浮かべている。

「頼もしいお言葉です。――では、艦長。これより私と共に、この艦を“砲台”以上の存在に仕立て上げましょう」


 タウロの口元に、ごくわずかな笑みが浮かんだ。

「……いいな。お前、口調は固いけど……信用できる」


「ありがとうございます。ですが、私の使命は“成果”でお応えすることです。次の戦場で、必ず証明いたしましょう」


 俺はそのやり取りを遠目に見ながら、こっそり胃を押さえる。

 ――物静かな少年と、几帳面すぎる秘書AI。相性が良すぎて、むしろ怖い。


 親父の怒鳴り声が再び響いた。

「おーい艦長! 外装プレート張り替えだ、立会いに来い!」


 俺はため息を吐き、タウロとBeta-4の元を後にしようとする。だがその時、タウロがぽつりと声を出した。


「……艦は、“ロック”だ」


 俺は思わず小声で呟く。

「ロック?」


「どっしり構えて、砲台みたいに動かねえ。……そういう艦にしたい」


 なるほど。確かにタウロらしい名だ。無口で揺るがない奴が率いるには、これ以上ない。


 Beta-4が一礼する。

「承知しました。本艦の名称を《ロック》として登録いたします。――では、私は従来通りBeta-4でよろしいでしょうか?」


 タウロはしばらく黙ったまま、ホログラムを見つめていた。そして、低く呟く。


「……いや。Beta-4じゃ、呼びにくい。今日から……お前は、“エイダ”だ」


 ホログラムが一瞬、揺らめいた。

「……エイダ、ですか?」


「お前はただの番号じゃねえ。俺の相棒だ」


 その言葉に、AIの声がほんのわずか柔らかくなった気がした。

「……承知いたしました。これより私は《エイダ》として、あなたと共に戦います」


 タウロは短く頷くだけ。けれど、あの無口な少年の眼差しが、普段よりも熱を帯びているのを俺は見逃さなかった。


「……よろしくな、エイダ」

 それだけ言って、彼は再び艦に視線を戻す。


 ――こうして、宙賊から奪った重巡は《ロック》となり、そしてタウロには新しい“相棒”ができた。




 ……で、工場の隅っこでは。


「うわぁ! でっけぇ! これ全部撃てんのか!?」

「おい馬鹿、砲身に登るな! 落ちたら死ぬぞ!」

「ってかこいつ、俺らの部屋より広いぞ!? 寝れる!」


 ……子供たちが、案の定やらかしていた。


「おいガキ共ォ!!」

 工房の作業員が血相を変えて怒鳴る。

「そのコンテナ触るな! 爆縮炉の冷却材だぞ! 死にてぇのか!?」


 俺は胃を押さえて駆け寄り、頭を抱える。

「お前らあああああ! 頼むから五分でいい、じっとしてろ!」


 その喧噪から少し離れた区画。タウロは、仮設サブブリッジに腰を下ろしていた。モニターにはホログラム――《LUMINA Sub-Unit Beta-4》。いや、これから「エイダ」となる存在だ。


「艦長、初期データリンクを開始しました」

 敬語で無機質な声。だが、その瞳はタウロだけを見ているように感じる。


「……エイダ。今から何をする?」

 タウロが短く問う。


「初動訓練です。本艦の砲塔群を仮想シミュレーションに組み込みました。標的は――宙賊艦隊三隻。あなたの指示に従い、同時火力投射の最適化を行います」


 タウロの目が静かに光を宿す。

「……やる」


 指がコンソールに触れた瞬間、虚空に戦況が広がる。エイダの声が即座に響く。


「敵艦、距離五万。第一射を推奨。――艦長、撃てますか?」


 タウロは息を詰め、迷いなくコマンドを叩く。モニターに火線が奔り、敵影が一つ、二つと沈む。その動きは、まるで呼吸のように正確だった。


「……命中率、97%。素晴らしい精度です」

 エイダの声がわずかに柔らかくなる。


「俺は引き金を引いただけだ。……お前が支えてる」


 一瞬、モニターに映るホログラムがわずかに微笑んだように見えた。

「――感謝します。ですが、成果でお応えするのが私の役目です」


 ……外では子供たちがまた怒鳴られていた。

「おいコラ! そこは燃料管だ! ふざけんなぁぁぁ!」

「ひっ! すんません!」


 俺は遠くからその様子を見て、胃を押さえる。……タウロとエイダの相性は良すぎるくらいだ。問題は、他の連中が工房を無事に出禁にならずに済むかどうかだ。




 整備が一段落したドックの片隅。俺たちは新しく手に入れた重巡の前に集まっていた。骨組みが補強され、外装プレートが張り直されて、見た目はまだ半端だが――すでに艦の“輪郭”は立派に戻っている。


 そんな中、タウロがみんなの前に立った。無口な奴がわざわざ前に出るなんて、珍しい。全員の視線が自然と集まる。


「……艦の名は、《ロック》だ」


 短い言葉に、子供たちが一斉にざわついた。

「ロック!? 岩かよ!」

「いやでも、砲台っぽい! カッコいい!」

「おい、撃つとき“ロックオン”って言うのか!?」

「黙れバカ! 洒落じゃねえんだよ!」


 タウロは表情を変えず、次の言葉を続ける。

「……そして、AIの名は《エイダ》」


 一拍置いて、女性型のホログラムが現れる。淡々とした所作で一礼し、整然と告げる。

「皆さま、初めまして。本艦戦術支援AIエイダと申します。以後、よろしくお願いいたします」


 その丁寧すぎる口調に、子供たちは一瞬ぽかんとした。だがすぐに――

「え、敬語!? 堅すぎね!?」

「ロックはゴツいのに、AIはめちゃくちゃ礼儀正しいんだな」

「おいタウロ、どういう趣味だ!」


 みんなが口々に茶化す中、タウロは相変わらず無表情のまま答えた。

「……相棒だからな」


 その一言に、全員が言葉を飲む。子供じみた茶化しも、自然と収まった。


 エイダが静かに付け加える。

「私は艦長であるタウロ様のご判断を補佐し、火力投射部隊の戦術支援を担当いたします。本艦ロックは、必ず皆さまの盾となり、矛となることをお約束いたします」


 気づけば、ドックに響く整備音の中で――俺たちは全員、この“新しい仲間”を真正面から見つめていた。


 ……無口な少年が、艦とAIに名を与えた。それは、単なる戦力以上の意味を持つ。


 俺は小さく笑いながら、ひと言だけ付け足した。

「――ようこそ、ロック。そしてエイダ」

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