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第67話 中枢へ

 火線をくぐり抜けると、視界の中央に巨大な燃料タンク群がそびえ立つ。銀色のシリンダーが幾重にも並び、パイプで結ばれて制御中枢へと繋がっている。まさに拠点の心臓――だが下手に撃てば誘爆で周囲が吹き飛ぶ。


「ルミナ、どの順で潰す?」

「制御中枢を先に。燃料タンクは後回しです。順序を誤れば、あなたの胃どころか全員まとめて蒸発します」

「胃と命を同列に置くな!」

「団長の場合、ほぼ同義語ですから」


 俺は額を押さえつつ、エクシードをタンク群の外縁に滑り込ませる。その瞬間、赤い閃光が走った。壁面に隠されていた砲塔群が一斉にせり出し、雨のように撃ちかけてくる。


「ちっ、まだこんな仕込みが……!」

「はい。要塞の防御は多層構造。胃薬を用意すべきでしたね」

「買い置きねえよ!」


 副砲群を展開し、片っ端から撃ち落とす。だがすぐに新たなドローン群が吐き出され、蜂の巣を突っついたみたいに空間を埋め尽くしてくる。


『うわあああ!? 小さいの多すぎ!』

『くそっ、照準追いつかねえ!』

 ホークの通信が割り込む。子供たちの声は半分悲鳴、半分興奮だ。


「落ち着け!散らばるな!一点突破だ!」

 俺は叫び、レールキャノンとプラズマランチャーを叩き込む。火花が散り、敵ドローンが何機も消し飛ぶ。しかし次の瞬間、ルミナが淡々と告げる。


「団長。ドローンの制御信号、捕捉しました。……面白いですね。内部奥に中継施設があります」

「ってことは、あれ潰せば楽になる?」

「ええ。あなたの胃にとっても」

「胃基準で説明すんな!」


 俺は操縦桿を押し込み、信号源へ機体を突っ込ませる。制御施設らしきブロックが見えた瞬間、副砲を連射。赤い光が走り、施設が火柱を上げて吹き飛ぶ。途端に、ドローン群がバラバラに漂い始めた。


『やった!敵が止まった!』

『ほーら、ホーちゃん最強!』

「……はぁ、調子に乗るな」思わず口に出る。

「団長。子供たちは実際に有効な陽動をしてくれました。褒めてあげてはいかがですか?」

「……ああ、そうだな。ありがとな」

 小声で呟くと、ルミナがわずかに笑ったような気がした。


 だが安心する間もなく、次のホログラムが浮かぶ。

「検知。制御中枢の裏に――収容区画」

「収容区画……? お宝か?」

「推測ですが、宙賊が“お宝”と称するものが資源ではなく人員である可能性も」

 胃の奥がさらに重くなる。……捕虜がいるなら助けなきゃならない。だが本物かどうかも怪しい。


『兄貴!奥にでっけえ扉が見える!』

『捕虜?資材?罠?』

『ぜってー中身確かめようぜ!』

 ……頼むから勝手に突っ込むな。


 ルミナが冷静に告げる。

「団長。破壊目標は中枢と燃料タンクですが、収容区画を確認する価値はあります。……もっとも、あなたの胃には不利益ですが」

「もうそのネタやめろ!俺の臓器が全部潰れる!」


 だが、選ばなきゃならない。中枢を叩き、拠点を確実に潰すか。それとも一度リスクを背負って、収容区画を確認するか。


「捕虜……か」

 俺は思わず胃のあたりを押さえる。こういうのは、行けば助けられるとは限らない。最悪、目を覆いたくなるものしか残ってない可能性だってある。


 ルミナが、ほんの僅かにため息を混じらせる。

「団長。正直に申し上げますと、非効率です。捕虜が存在すれば守りも厚い。突破には時間と犠牲を要します。……それに、捕虜を保護すれば撤退時のリスクも増えます」


「お前、言い方……」

「事実を述べただけです。ただ……」

 ルミナの声が、ほんの少しだけ柔らかくなる。

「非効率であっても、人を助けようとするのがあなたです。だから私は止めません」


 ……やられた。俺の胃は否定したが、心はもう決まっていた。


 その時、《ホーク》から子供たちの声が飛び込んでくる。

『兄貴! 俺たちも行く!』

『捕まってる人たちがいるかもしれないんだろ!?』

『見捨てらんねーよ!』


「お前ら……チームの役割は?」

 問いかけると、即答が返ってきた。

『囮!』


「じゃあ死ぬ気でやってろ!」

『いや死なねーよ!?』

「演技にしても元気すぎるんだよ!」


 ブリッジのスピーカー越しに、子供たちの声がわあわあと響く。俺はため息をついて、覚悟を決める。


「……よし。突入する」

「団長、決断が早いですね」

「頭で考える前に口に出てた」

「それは病気の一種ではありませんか?」

「いいんだよ!病気で!」

「ふふっ。冗談です。私とドローンもお供させていただきます」


 俺はヴァルカンユニットを着用しルミナとユイ、エリスとドッキング区画へ向かい、ホークの連中と合流する。子供たちは落ち着きなく跳ね回り、ニコはすでに腕組みで前を睨んでいる。みんな武装を手にして、目をぎらつかせている。


「いいか。遊びじゃねえぞ。撃たなきゃ死ぬ。……撃て」


 俺がそう告げると、子供たちが一斉に頷いた。震えている奴もいる。けど、逃げる奴はいない。


 ルミナが最後に釘を刺す。

「団長。非効率な選択をした責任、あなたがすべて背負ってください」

「わかってる……」

「……でも、あなたらしい選択です。私はそれを支持します」


 ――胃に悪い決断だ。だが、それが俺たちのやり方だ。


 俺は銃を構え、収容区画への扉を見据えた。

「お前たち俺より前に出るなよ! 突入する!」




 収容区画前。分厚い隔壁が、こちらの進入を拒むように沈黙している。ただの扉ってより、戦車の装甲板を二重に貼り合わせたみたいなやつだ。


「ルミナ、開けられるか?」

「可能です。ただし、正規手順ですと三分以上を要します」

「三分も待ってたら敵が集まってくるだろ」

「ですから、強引に焼き切るのです。……団長の胃痛が三倍に増える程度の危険で済みます」

「そりゃもう破裂してるよ!」


 俺はマルチツールを取り出し、爆薬をセットする。ニコがすぐ隣に陣取り、赤い瞳で隔壁を睨みつける。

「なあ兄貴、俺らが先に行っていいか?」

「バカ言え。お前らは後ろ。前は俺だ」

「でもよ――」

「でもじゃねえ。お前らの役目は人を連れ出すことだ。撃ち合いは俺の仕事だ」


 渋々、子供たちが後方に下がる。……下がったと思ったら、武器を握りしめて前傾姿勢。完全に飛び出す気満々だ。俺の胃がまた軋む。


「カウントダウン開始。五、四、三……」

 ルミナの声に合わせ、全員が身を低くする。


「――一」


 爆音。隔壁が吹き飛び、火花と煙が噴き出す。


 同時に――光。自動砲台の銃口が赤く点滅し、蜂の群れみたいな小型ドローンが一斉に飛び出してきた。


「来たぞ!」

 俺は即座に遮蔽物に飛び込み、ビームライフルの引き金を引く。ビームがドローンを撃ち抜き、金属片が火花を散らして落ちる。だが数が多い。次から次へと溢れてくる。


『撃て撃て撃て!』

 子供たちの叫びと共に、ホーク組のブラスターが火を噴く。ドローンが焼き落ち、狭い通路に黒煙が充満した。


 その中で、ルミナが肩に担ぐ大型ビームガトリングを無造作に構え、正確無比に射線を切り裂く。

「……照準誤差、平均二十三センチ。補正をかければ、この程度です」

 青白い光弾が連なり、残った敵影を容赦なく貫いた。


「自動砲台二基、なお稼働中」

 ルミナの冷静な報告。その直後、壁際の砲座から青い光弾が連射され、床を抉る。


「危なっ――!」

 身を翻した俺のすぐ後ろで、レンが派手に転ぶ。

「ぎゃあああ!……あ、生きてる!」

「演技か素かどっちだ!」

「どっちでもいいから援護しろー!」


 俺は舌打ちして、ビームライフルを構える。高出力ビームを叩き込むと、砲座の外殻が砕け、スパークを散らして沈黙した。


「砲台一基破壊。残り一」

「はいはい、わかってる!」


 ニコが飛び出してビームを浴びせる。ドローンの群れを掻き分けながら、残る砲座を真正面から撃ち抜いた。爆炎が通路を染め、静寂が戻る。


 ……静寂って言っても、子供たちの息切れと、俺の胃の悲鳴でやかましいけどな。


「団長」

 ルミナが淡々と告げる。

「隔壁突破成功。収容区画への進入ルートを確保しました」


「……胃がもたねえわ」

「ええ。けれど、捕虜の可能性が残っている以上、ここからが本番です」

「お前、いつも本番しかねえな」

「団長の人生が常に試練で構成されているだけです」

「辛辣すぎるだろ!?」


 俺は大きく息を吐き、銃を握り直す。子供たちは息を切らしながらも、顔を上げていた。ニコが低く言う。

「兄貴……行こう。誰かが待ってるかもしれない」


「……ああ」

 胃が拒否しても、心はもう前に進んでいる。


 俺たちは収容区画の奥へと踏み込んだ。

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